第2話 ドミニオン流

犯人を捜す。とは言え、まずこの世界について知らなければ何もわからないだろう。

五華を国花とする姫たちの国を歩き、在り方を知るといい。

「んで、なんで俺がわざわざ付き添わねえといけねんだよ」

「私たちに言われても……」

「そうだぞ。リョウマの頼みなんだから文句言うな女」

「てめえも女だろうがクソドラゴン。焼いてくっちまうぞ」

仲が良いのか悪いのかいまいちわからない問答を続けながらガイド(仮)は続く。

「犯人っていってもやっぱり早々に襲ってきたマコトが怪しいんじゃ?」

「お前らが降り着いた場所はあいつの管理下だ。あいつが来るのは当然だろうが」

「五華それぞれが己のやり方で統治している。武力統治の椿、知略の藤と菊と梅。無干渉の桜」

「うーん」

「それぞれのやり方でやってるだけで、それは判断材料になりゃあしねえ」

リョウマたちの住処としている探偵所は中央の桜から北の菊に伸びる比較的安全かつ文明の発展した通りである。路面電車が走り、クラシックな車さえ走っている。

そこにはヴァリアスでは見慣れない男性の姿も当然のように映る。

「嬢ちゃんたち、アイスどうだい?」

「おー、中田のとこのおっさん。チップ弾むから、ちと情報くれねえか」

ポケットから1万円札を取り出し、男に渡す。

周囲を見渡し、男はアイスを人数分用意しながら話を始めた。

「近頃、桜と菊は話に聞かねえな。藤は真理鏡の勾玉を東の商人に依頼して何やら企んでるらしい。椿は相変わらずの戦日和、梅は境に兵を募って何かを探してる」

「……それだけか?」

「……」

アイスをクルミたちに一つずつ渡している間、男とシンの間では沈黙が続く。

「わーったよ。酒屋の兄貴からの盗み聞きで確証はねえが」

「構わねえ」

「最近特に動きが激しいのは椿だ。何やら痺れを切らして桜に対して圧力をかけてるらしい。それに対して桜も沈黙を貫いたらしく近々戦になるかもしれねえとさ」

「からくりしか頼みの戦力がねえからって無力な桜ばっかりいじめてるわけか」

「結局のところ内紛をしているようじゃ、疑うまでもない」

「同感だ。単細胞のドラゴンにしちゃあできた推理だ」

「そうだろう。もっと褒めろ」

「……褒めちゃねえんだけどよ」

「美味しいね、クルミちゃん」

「はい!ソラが買ってくる激安アイスと違ってミルクが濃厚です!」

シンとカエデが犯人捜しの推理を進めている中で、クルミとメノは上機嫌にアイスを食べている。この温度差はどうにかならないのだろうか。

ため息をつき、日陰からアイスを舐めながら街を行き交う人々を眺める。

「昨日の映画見たかい?ありゃあ傑作だったねえ」

「明日から夏休みだな!一緒に宿題しようぜ!」

「あの、お暇でしたら週末……海へ行きませんか?」

どこにでもあるはずの平和な日々。ヴァリアスでは随分と見ていない自身の記憶と一致する日常というものだ。

――ゴツンッ

何かが足にぶつかったようで、それは床に転んでいた。

「大丈夫かい?」

「いたたたた……。あ、ありがとう!おじちゃん!」

「お、おじ……!?」

「クックックッ……おじっ……くふっ……おじっ!あっははははは」

ソラのショックを受けた表情が余程面白かったのか、シンは腹を抱えて大笑いする。

子供はソラの手を放し「ばいばい」と遠くへと走っていく。

ただ見届けることしかできないでいる肩をそっと優しく叩く者がいた。

「大丈夫だぜおじちゃん。俺は嫌いじゃねえ」

「大丈夫ですソラさん。大人は子供の憧れですから」


――まだ二十代だもん!!!!!!!!!


景観を知る。という名目で路面電車を使わずに歩いて椿の方へと向かっていた。

しかし、それも長くは続かなかった。

「疲れましたー!ソラ―!おんぶしてください」

「わがまま言わないの!」

「下駄が足の親指に食い込んでいたいですー!」

ミコトが屈み、クルミに乗る様に促す。

「慣れてへんとどうにもな。先生、よかったら路面電車乗らへん?」

「賛成。私もそろそろ限界。疲れた」

空中でくるくるとゆっくり回転するカエデに、浮いてるだけだろとため息のシン。

「半分も歩けばここは十分か。先は長いしな」

そうして近くの停留所から乗り込み、目的地の椿との境界へとたどり着く。

先ほどまでの大正感はなく、進めば進むほどにタイムスリップしているような感覚に陥る。景観はまさに江戸時代。木製は瓦に代わり地は土になっていく。

「クルミ知ってます!ジャキンジャキンですよ!ジャキンジャキン!」

椅子に座りながら空想の刀を振るクルミ。その姿に誰もが穏やかな表情を浮かべる。

メノたちは窓を開け、その珍しい景色に感動している。

「なにこれ!すっごい!」

「ね」「脆そうだけどね」「プラモデルなら見た事あるよ」

香る匂いも花の香りからどこか油分を感じる鉄の匂いが鼻をつく。

映る影も人よりからくりの方が多く、ガソリンのシンナー臭さえし始めた。

「助けてくれー!誰か助けてくれー!」

大きな包みを抱えて走る男の姿が正面に見えた。後ろに刀を持ったからくり人4機。

「これって助けていいものなの?」

メノが不安そうにシンに尋ねると、彼女は頭を掻きむしりながらそっぽを向く。

「助けること自体に問題はねえが、止まるわけにもいかねえだろ」

メノと羅生姉妹が口角を上げ、銃を召喚する。

「「「「なら話が早い」」」」

勝手な人助け上等。感謝などされなくとも困っている人がいれば助ける。

それがドミニオン学園生徒会。

「3・2・1、てー!」

一斉に射撃音が4つ、からくりたちとすれ違う寸前に放たれた。

一つも外れることなく、それはあからさまに露出した核を貫き、からくりたちは床に座り込み、機能を停止した。

「よしっ!」「やったな」「やったね」「腕が訛らないようにね」

それを見てシンは一瞬思考を停止させていたが、すぐに口角が上がる。

「お前らすっげーな!ちっせくて役に立たねえかと思ったが腕が立つ!すげーな!」

周りに人がいることも気にせず、シンはメノたちの肩を挟み、寄せる。

メノたちも満更ではなさそうな表情である。

やり方はどうであれ、見過ごせない。救いの理念はしっかりと伝わっている。

コトネの顔を思い出し、どこか自分さえも誇らしい気持ちになってしまう。




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