2: 約束の日
「ふんふんふ~ん♪」
旧アルカンジェリ学園へ続くゴーストタウンの道路中央を鼻歌混じりに歩くメノ。
最近はどうしているのか。仕事は順調か。そんな他愛もない話をしながら任務の概要をケイから伺う。
「既に無くなった学園に一体何をしにいくの?」
「行けばわかる。それ以上は聞かせて貰えませんでした」
「ケイたちもそれだけなんだ……。メンバーにも意味があるのかな?」
「雑務、調査の類だからと思われますが、それ以外にもあるでしょう」
「というと?」
「私たちミコト班は、メノちゃんを除いて旧アルカンジェリ学園の生徒なんです」
香の匂いが風で流れ、お寺などで嗅いだことのある和風と呼べるものがする。
目の前には草木が生い茂り、老朽化して綻びた木製の門とその先に高く聳え立つ5つの城。それぞれの最上に大樹が成っている。
「古来より和の国と呼ばれる学園。かつての栄光は跡形もありません」
焼き焦げて灰となった建物たち、地に突き刺さったままの錆びついた刀と槍。
何も聞かずともここで何が起き、どのような結末に至ったかの想像がつく。
それを眺めるケイたちの表情も暗い。あまり触れるべき話題でもないだろう。
「これが……私たちの故郷……?」
ヒトミたちは目の前に広がる景色を知らない様子であった。
「そうや、これがウチらの故郷。桃源郷と謳われた理想郷の果て」
「ミコト!」
門の屋根から飛び降り、いつもの様子で挨拶する。
「お久しゅう。元気にしとったかいな」
「うん。ミコトこそ元気そうでよかった」
「隊長!別の任務中じゃ……?」
「天使様がわざわざ出向いて依頼するなんてどうもきな臭くてな~」
「「わー!」」
ミコトの後ろに隠れていたクルミとマリアが飛び出す。
「……なんで二人が?」
「ニートの博士と付き添いのクルミです!」
「ニートの博士だが調査なら役に立てると思ってね。少しは働こうじゃないか」
「ところでクルミ、その服装は……?」
「せっかく和の都での仕事だ。専用衣装に着替えるのはお約束だろ?」
「博士の趣味です!」
暗い雰囲気もどこかにぎやかになり、落ち着いた所で任務を確認する。
「ボロボロの笠と和装束が特徴の不審人物が目撃されたそうです。襲ってくる様子もなかったようですが、立ち入り禁止区域であるため身分の確認をとのことです」
「妙やな……」
「?」
「旧アルカンジェリ学園、桃楽龍宮の生徒は既に死んだはずや」
「でも……」
「うちらを除いてな」
「もしそれが幻の類やなく実在する生徒なら……」
結論に至ろうとした時、入り口の方からメノが手を振りながらこちらに来る。
「門に人を見つけたぞー!見ない服装だから和装束っていうのであってると思う!」
各地を調査していた皆を集め、門で見つけた不審人物の元へと向かう。
ボロボロの笠が顔を隠し、背中に力なく体を預けて座り込む人物の姿があった。
切り裂かれた跡のある和装束、細い膝や肩からは滲んだ血が見える。
「侍……、椿宗やな」
ミコトが小さく呟くと、ぐったりとしていた不審人物の肩が動く。
笠の裂け目から暗闇に覆われた瞳がソラの方へと向く。
「高木…………ソラだな」
今にも消えそうな掠れた声で呼びかける。
「うん。私が高木ソラだよ」
胸に拳をあて、真っすぐな瞳で返事を返すとその者はポケットから何かを取り出す。
「右手を出してくれ」
震える右手から一枝のさくらの木を渡された。
「これは……?」
「約束は果たした。後の事は……頼んだぞ」
突然として目の前の人物は硝子の破片のように砕け散った。
「……」
今のは一体なんだったのだろうか。
脳が処理するより先に、事態は動きだす。
突然としてソラの手元の枝は輝きを放ちだしたのである。
目を覆ってしまう程のそれを、ふさぎ込むようにミコトが手を重ねる。
「罠だったか……!」
後悔する暇もない一瞬の出来事、その場にいた誰もが目を塞ぎこむ。
しばらくの静寂の後、気が付けば足音が聞こえてきた。
人々の会話、車輪が地を踏みしめる音。どこからか香る野菜の焼ける匂い。
目を開くとはそこは先ほどの荒廃した跡地ではなく、活気づいた和の都。
瓦の屋根を忍が走り、からくりが配膳をしている。
腰に刀を携えた侍、頭に角を生やした鬼、蜘蛛足の少女。
立ち尽くすことしか出来ないでいるソラ達を他所に、そこがどこであるかを確かに知っている人物が一人、小さく呟く。
「ありえへん……。ここは確かに……桃楽龍宮や」
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