第11話 亡霊

「君たちは……?」

煙と共にどこかへと連れ出されたソラとクルミ。

目の前には見覚えのある姿のマスクをした人物が立っている。

「あぁ、すまない」

そういってマスクを外したのは、いつぞやのアハザと呼ばれていた少女。

「空港にいた子!」

「ん……?既に会っていたか。すまないが覚えていない」

その後ろには少女と一緒にいた不気味なマスクをした少女たちもいる。

「いや、見かけただけで会話は初めてかな」

「そうか」

淡々と短い言葉で話すアハザは並べられた鉄骨に腰を下ろす。

「私たちは亡霊。この世界にとっての異物だ」

「……?」

「レッドロードからの使者と分かってくれればそれでいい」

「????」

「……?ヨナはわかるか?」

「??????」

「卵について見当はついたか……?」

あまりに話が合わないのでいつもの如く記憶喪失であることを伝える。

すると彼女は深いため息をつき、頭を抱える。

「なるほど……。停滞しているわけだ」

「ごめんなさい……」

このくだりを後何回やるのだろうか。

「記憶を取り戻すのを待っている暇はない。任務は続けさせてもらう」

そういって立ち去ろうとするアハザの手を引き留める。

「まって!」

「なんだ」

「なんで私たちを助けてくれたの?」

「貴方は鍵だ。死なれては困るからだ」

「お願いがあるんだけど」


このままでは自身の命が危ないこと。

クルミをどうにかできないか。

ダメ元でどうにかならないか相談をしてみた。

「不可能だ」

「……」

「この世界の事象に干渉するのは不可能だ」

「なら、どうしてあの子を撃ったの?」

生徒会長アイツは、死骸しむくろレイナは死なない。それに貴方が関与していれば規則には反さない」

「どういうこと?」

自動人形その子の運命には干渉できない。例えそこに貴方が介入していても」

――その上で未来が変化したとしても

話を理解することは出来なかったが、無理を承知での願いだったので仕方がない。

「そっか」

「すまない。では、また会おう先生ドクター

そうして少女たちは黒い粒子を放ち、黒煙と共に姿を消した。


アハザたちとの会話に夢中でクルミの様子を見ていなかった。

そうしてクルミを見ると、自身の両手を見つめ、何かを呟いていた。

「クルミは……、クルミは生きてていいのでしょうか」

「クルミ……?」

「クルミがいるせいで、ソラが殺されそうになりました」


――私が殺人兵器だから?

「クルミがいるせいで、皆が笑えない」

――私が機械の女王だから?

「これが……、クルミの運命なのでしょうか」

――私がいつまでもソラの傍にいるからダメなんだ

「そうだ……、私が自分の役目を果たさないから」

クルミの瞳はだんだんと赤く染まっていく。

「クルミが頑張れば、クルミが破壊すれば、クルミが兵器になれば、ソラは笑える」

――クルミなんていなければいいんだ

だって、私は最初から。

「そう、私は舞台装置機械の女王、星を喰らいし者」

少しずつ、宙へと上がっていくクルミ。

「神秘を喰らい、旧世界の再来を!」

――どこからか、開演ブザーの音が聞こえた。


ソラ、ごめんなさい。私はアンドロイドではなかったようです。

嘘ついてごめんなさい。迷惑をかけてごめんなさい。

守れなくてごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

だから、さようなら。

博士ママ、結局私は生き方を変えられませんでした。


――終幕へと導く者・古の鉄姫、始動

空に黒き太陽が昇る。

輪郭を赤くなぞり、地上へと垂れる黒い液体。

それが宙へと昇り続けるクルミへと注がれ、鉄と為る。

やがて鉄は腕となり、足となる。次々と武装され、兵器の姿へと変わっていく。

一粒の涙が零れ、それを隠すように仮面がつけられる。

一つ目の瞳が紅い光を放ち、大地に降り立つ。

それは、かつて少女だった者。

今や鉄の塊と成り、地上を恐怖で埋め尽くさんと6つの足で大地を踏みしめる物。

「ララララー!ララララー!」

歌声のようにも聞こえる叫びを放ちながら、女王は行進を続ける。

どこからかやってきた自動人形たちが彼女の後に続く。

ただ、立ち尽くし眺めていたソラ。


どうにもならなかった。

結果としてクルミは彼女たちが予測していた脅威となった。

自身のせいだと呪い、最後まで謝り続けていた。

他の道は簡単なものだったのかもしれない。

彼女を認め、人であると、アンドロイドであると言葉をかけること。

傍にいることで叶ったかもしれない。

「違う!」

己の思考へ怒り、既に諦めている自分を蹴散らす。

「クルミはアンドロイドだ!まだ、何も変わっちゃいない!」

「ソウダゾ クルミハ美少女アンドロイド ダ」

・・・・・・?

隣から声が聞こえた。

しかし、声の方を向いても何もいない。幻聴だろうか。

「オイ!デカブツ!下ダ!下ヲミロ!」

そこには50㎝程度の小さなロボットが二足で立っていた。

細いレンチの腕を振り、やぁやぁと挨拶している。

「誰……?」

「ワタシハ」

そこでようやく自身の声がラジオの様に掠れていることに気づき、頭を自身で殴る。

「アーアー、よし。私は天才エンジニア・マリア。まあ聖母とでも呼びたまえ」

「……」

「あの超絶美少女・クルミのママにしてオールドデウスを抑制していた者さ」

「はぁ……」

まさか人間じゃなかったなんて……。

「私の肉体は既に死んでいる。そんな事はどうでもいい!クルミを助けるぞ!」

――思考を読まれた!?

驚いている暇もなく、テクテクと走り出したマリアについていく。

「助けるってどうやって!?」

「起動しないに越したことはなかったけど、起動した時の事も考えていた。機械の女王となった以上、クルミは空の容器。女王からすれば不要の物だ」

「じゃあ起動しても問題はなかったの?」

「そんな訳あるか!不安要素を抱えてまでクルミを取り込む必要がないと判断させたのさ」

「不安要素?」

「感情だよ。殺したくない。愛されたい。愛したい。必要とされたい。そういった感情は非常に非合理だ。機械にとってエラーと呼んでも差し支えない。クルミがそれを抱えている以上取り込むことはしないだろう。しかし、それは彼女が存在している内の話だ」

「……」

「彼女は今、生きる意志がない。彼女の記憶領域が削除されれば終わりなんだ。女王は完全体となり、ヴァリアス中の少女レディアントたちが殺されるだろう」

「話が長いよマリア!つまりどうしたらいいの!?」

「彼女に生きたいと実感させろ!確率は0.0001%!簡単だろ!?」

「0.0001……」

「戦闘はヴァリアス全勢力をもっても1%未満。ドミニオンだけなら0%だぞ!」

「やるしかない!」

――限りなくゼロに近い戦いが幕を開けた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る