第8話 アンドロイド・クルミ
空中にいくつも展開された電子画面。
それだけが部屋を照らす暗い場所で、一人の男が画面を眺めている。
近づく足音の主に、画面を見つめていた男は話しかける。
「やはりあの短時間では無理でしたか」
「あぁ、確保どころか姿すら見れなかった」
「5分あれば十分と言ったのは貴方でしょう?」
「周りに居た奴らは勘が鋭かった。続行しても増援が来ていたしな」
「天理コトネ。ヴァリアスの中でもトップクラスの神聖を持っているエンプティ」
「途中で来た鬼も中々の手練れだ。そう簡単にはいかないんじゃないか?」
「今回は様子見です。次で勝負を決めましょう。中で存在を確立させた仲間たちが組織を上手く利用しているようです」
「その作戦が決行する時だな。次は確実に成功させる」
「独立化が大分進んでいます。これ以上は観測不能になる」
「次の実験。といっても簡単にはいかないんだろ?」
「天使が世界に干渉し、神聖に満ち溢れています。ここ以上に適した場はない。
孵化も予定以上の速度で進んでいます。手段を選んでいる場合ではありません」
「どこまでも邪魔してくれるな、ドクター」
「卵の強奪だけに留まらず、世界構造そのものを変え、我々の干渉を阻害するとは。どこまで貴方は愚かなのです、イスカリオテ」
全ての電子板が黒くなり、
暗闇のまま、男たちはどこかへと歩いていく。
・ ・ ・
クルミの教育中に眠ってしまったようだ。
閉じていた目を開くと、目の前にはこちらを眺めているクルミの姿。
「おはようございます!」
「おはようクルミ。ご飯にしようか」
「はい!クルミはハンバーグなるものが食べてみたいです!」
「朝からハンバーグは厳しいから、それは夜ご飯にしようか」
「はい!クルミはハンバーグが食べたいです!」
「……」
寝室から体を起こし、キッチンへと向かうソラの後ろをついてくるクルミ。
ソラの教えとインターネットへの接続による彼女の成長は凄まじく。
自身と同じくらいの知識は持ち合わせているだろう。
自身をアンドロイドと名乗っていた彼女だが、その人間らしさも中々である。
食事をしていたら、涎を垂らしながらこちらを見つめてくるし、
汗をかけば気持ち悪いと感じ、お風呂に入りたいと言う。
ネットで得た人間の生活の模倣なのか、彼女自身の欲なのか。
どちらにせよ、ソラは彼女を機械としてではなく、娘のように、人間として扱っている。
「できたよ」
焼きベーコンとスクランブルエッグ、バタートースト1枚を皿に盛り、机に出す。
「ハンバーグではないのですか……」
「夜ご飯。3回目のご飯の時に作るから楽しみにしてて」
「では、クルミはトーストを一回目と定義し、ベーコンとスクランブルエッグを2回目と定義します!」
「ダメだよ。一度に提供された料理で一回」
「むぅぅ……ソラはケチです。貧乏です」
「……」
貧乏は事実だった。給料日まで待ってねクルミ(泣)。
時間に余裕があったので、先にスーパーへ買い出しを済ませ、
家に荷物を置いてから学園に向かうことにしたのだが。
買い物をするだけでも、一人の時の労力とは訳が違った。
「ソラ!クルミはこのシール付きウエハースが欲しいです!」
「今日は夕飯の買い出しと保存用の肉と野菜買いにきただけだからダメ!」
「いーやーでーすー!クルミはこれが欲しいです!抗議します!反抗します!ストライキです!」
床に転がりダダをこねるクルミ。これでは本当に子どもである。
「買わないと言ったら買わない!それにクルミは労働者じゃないでしょ!」
どこかに行ったかと思うと、大量のおかしを抱え、篭にごっそりと入れてみたり。
「こら、クルミ!また勝手にお菓子入れて!こんなに食べれないでしょ!」
「購入量に応じて消費量を調整するので問題ありません!」
「ダメ!」
商品をレジに通す頃には、喉が痛くなっていた。
結局シール付きウエハースを買うことで納得してもらい、クルミは満面の笑みだ。
外に出て、ウエハースを開封するクルミ。
「ソラ!キラキラしています!」
よくわからない怪獣がラメでキラキラと輝いている。
左側にRとかかれていたのを見て、レアリティ―性なのかと袋の裏を見る。
「レアか」
そういうとクルミは真剣な表情になり、袋の裏を見る。
――しまった
「Rが一番下に書かれいています。SR、SSRと言ったRに文字が装飾されていることからこれより高位のレアリティ―があると推測」
「……」
「ソラ!クルミはSSRが出るまでウエハースを……」
「ダメー!」
またしてもクルミの粘りに負け、ウエハースを買ってしまったが、
運のいいことに二つ目でSSRが出てくれたことで出費を抑えることができた。
上機嫌に鼻歌をし、スキップで前を進むクルミ。
その背中を見ていると、心が癒されていく。
家に荷物を置き、学園に行ってくると告げるもクルミは離れない。
「ダメです!置き去りは犯罪です!育児放棄です!ネグレクトです!」
「気軽に覚えた言葉をなんとなくで使わないの!帰ってくるから!」
「それでしたらクルミを置いていく理由がわかりません!」
「関係者以外立ち入り禁止で危ない所だから!」
「ソラが関係者ならその親族に当たるクルミも関係者です!一人でいるほうが危ないです!」
・ ・ ・
「その子、どうしたの?」
ソラと手を繋ぎ、満面の笑みのクルミ。
視線を合わせるように屈み、メノがソラに尋ねる。
「家の前に倒れてたんだ……」
「……信じると思うか?」
「……だよね」
余りの理不尽な世界に漢泣きをするソラ。メノも思わず、疑ってごめんと謝罪する。
「なるほど、ゼンマイ仕掛けの自称アンドロイドちゃんですか」
クルミに付いていたゼンマイを手に取り、観察しながらケイは答える。
話の妨げになるからと、申し訳ないのだがクルミの世話はメノがしてくれている。
「見てください!これは先ほど買ってもらったウエハースから出たSSRです!」
「わー!よかったね!」
クルミの視線に高さを合わせてメノは話している。
「アンドロイドと定義されたものを見たことがないのでなんとも言えませんが、確かに
――1つを除いて
そこを強調して、ケイは続ける。
「自動人形は多くの企業が開発していますが、その多くは戦闘用が主です。体の損傷や細胞の限界から意識を移す為の非戦闘型もあるにはありますが、それも区別がつかなくなる為コーティングは禁止されています。知能を持ち合わせた機械はそうする義務があります。ですが、
「聞いたことがある」
「あそこは少し変わっていまして。自身の企業ロゴを張り付ける事、身体的特徴をつけることを抜け穴として、人と変わらない姿の自動人形を造っています」
「その身体的特徴が……?」
「このゼンマイだと言うのなら可能性はありますね。あそこの哲学、美学、なんと呼べばいいかわかりませんが決まり事として、戦闘用は絶対に作らない。というルールがあります」
「その条件もクリアしてるのかな……?」
「自動人形は内部に武装を隠していたり、肉眼だけでは判断できません。ですので直接、機械工房を訪ねるのが一番かと思います」
「また負けたああああ!」
「またしてもクルミの勝利です!メノはまだまだです」
携帯ゲーム機を2つ取り出し、対戦している様子のクルミとメノ。
「ありがとう。それじゃあ今度機械工房に行ってみるよ」
「あまり力になれず申し訳ありません」
「ううん、十分だよ。メノも遊んでくれてありがとう」
ふん!と素直に反応しないメノ。
「とっても楽しかったです!また遊びに来てもいいですか?」
「うん!また遊ぼうねクルミちゃん」
クルミには素直なんだなあ。
「そうです。しばらく戦闘任務は中止とのことなのでクルミちゃんもご一緒して、帰りに私が一緒に付き添いましょうか?」
「あ!私も!」
帰りにケイとメノが機械工房まで案内してくれることになり、
任務開始の時間まで庶務室でのんびりと過ごした。
――――To be continued
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