第6話 ゼンマイ仕掛けの少女

救護班が死体の処理を済ませている間、ケイたちは立ち尽くしていた。

何も出来ず、ただ己の非力さを恨むことしか出来ないことに拳が震える。

それは、ソラも同じである。

下を俯き、彼女たちが無事だったことを喜びながらも、心は晴れない。

その後何が起きたのか説明を受けることはなく、一層無力感が増している。

「私は……」

またこのような時が来た時、自分は役に立てず、逃げる事しか出来ないのか。

「私が招いた事なのか……?」

「いいえ、違うわ」

自責の言葉は、コトネによって遮られた。

「襲撃者が誰にせよ、被害が出たのは予測を誤った指揮官のせい」

死者となった生徒たちのIDカードを持つ手を見つめ、コトネは続ける。

「通常任務はいくらでもあった。私があの子たちを殺したの」

――そんなことっ!

顔を上げ、コトネだけの責任ではないと言葉をかけようとした。

しかし、その言葉は心の中で留まり、喉から出てこなかった。

コトネの顔は、それが当然であると無表情のままである。

「一歩間違えれば、先生もA班も失っていた」

「ホンマやで。庶務の任務は基本的に雑用。こんな暗部みたいなん、うちも久々や」

意地の悪い笑顔で煙管きせるを加えるミコト。

無反応のコトネに責めは続く。

「人の命は、「ごめんなさい。間違えました」じゃ帰ってこんよ?」

「くっ……!」

――そんなことわかってる

言葉にせずとも、ミコトを睨むコトネの表情はそう言っていた。

「……任務終了。各自、帰還せよ」

翼を広げ、一足先に学園へと戻っていくコトネ。

その背中を、憐れむような表情で見つめている。

「強情やなぁ……。全部背負っとったら壊れてまうわ」

彼女コトネを責める者など誰もいない。

それでも、全てを背負いこむ姿が気に食わなかった。

「先生には嫌な所みせてもうたなぁ。せや、好感度調整に帰りはウチが付き添うわ」

「あの……私たちは」

ミコトの合図を待っていたケイが小さな声で尋ねる。

「先に学園戻っとき。危ないから寄り道したらあかんよ~」

気をつけてなぁ。そう言ってケイたちに手を振り、別々の道に歩き出す。


ケイたちの反応から出た推測でしかないが、この人が庶務長なのだろう。

任務の事もあって、どうしたものかと言葉が出てこない。

しかし、どうしても聞いておかねばならない事があった。

「どうしてあんな酷い事を副会長に言ったのか。って顔しとるで」

(考えを……読まれた!?)

「そんな力、ウチにはあらへんよ?本当にそんな怖い顔してはるよ、先生」

「……コトネのせいじゃない」

裏世界ここは闇で満ちとる。欲の為なら人も殺す。間違いを正解とする間違った世界。そこで正義を為すには覚悟が必要や。皆、覚悟を持って戦場に出向いとる。現状を変えようと戦っとる。なのに、副会長アイツは一人で背負おうとしとる」

怯えた表情のまま壁に倒れていた生徒たちの顔を思い出し、歯を食いしばる。

「皆で背負わな。辛いも、苦しいも、分かち合わな。一人に全部背負わせてたら、押し付けているのと変わらへん」

どこからか柔らかな風が吹き、桜の花びらが一片、ミコトの手に落ちる。

「……」

そのまま黙り込んでしまったかと思うと、優しく微笑み始める。

「シーちゃんは桜が好きやったなぁ。大丈夫、忘れへんよ」

「……」

誰かと会話しているように花びらに語りかけるミコト。

ただ、見ていただけなのだが、彼女はこちらに視線を向け。返事をする。

「先生も忘れんといてな。シーちゃんは桜、コノコノはガーベラ、シオリは薔薇やで」

「?」

「B班の子たち。あの子たちが好きやった花」

「……そっか」

「忘れたら居なくなってまう。だから、こうやって好きな物にで記憶しとるんよ。ウチ、忘れっぽいからなぁ」

――これが、彼女の言う【背負う】なのだろう

  記憶することで、彼女たちはミコトの中で生き続ける。

桜の花びらを優しくポケットにしまうと、彼女は少し先へと進み、振り返る。

「ウチはなぁ、3色団子の白が好きや。忘れんといてよ?せーんせ」



歩き続け、家も見えて来たので、ここら辺で大丈夫と伝える。

「ほなな、先生」

ミコトが手を振り、背中を向けると、またしてもどこからか強風が起こる。

思わず手で遮り、目を開くと既にミコトの姿はない。

「忍者みたいな子だったなぁ……」

これからも今日のような日は来るのだろう。

裏世界では顕著なだけで、きっと表世界でもあり得る話なのだ。

もう、今日のような日が二度とこないように、頑張らなければいけない。

明日は自分の方から庶務の方を訪れようと思ったが誰の連絡先も持っていない。

「コトネは……今はやめとこう」

先ほどの様子から話しかけづらく、直接学園に出向き、庶務室を探すことにした。


エレベータでのぼり、カードキーを握りながら歩いていると、

背中に大きなゼンマイを付けた一人の少女が自分の部屋の前で倒れていた。

「……!?」


――――To be continued









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