第5話 予想を超えた最悪

「楽勝楽勝♪」

黒煙を吐き、形を崩していく自動人形。

「C-107でようやく3機。少なすぎますね」

「しかも、小型ライフルを持った警備用だけ」

「芽を摘んでおくに越したことはない」

「残りのエリアもサクっと終わらせちゃうぞ~」

メノはスキップで先を向かっていく。

速やかに処理したとは言え、増援が来る様子もない。

ケイたちは心のどこかで安心していた。

「うわああああああああああ!」

先に行ったメノの悲鳴。

再び緊張感が走り、ケイたちは銃を構えてメノの所へ向かう。

そこには、ドミニオン学園の腕章をつけた少女たちの死体と、破壊された自動人形の姿。

「こ、これは……」

「……同じ庶務のB班。エリアDを担当していた者たちですね」

メノは表情を凍らせ、立ち尽くしている。

慣れているのか、ヒトミたちは無表情のまま死体を眺めている。

「おえええ」

ソラはショックのあまり嘔吐してしまう。


ケイは冷静なまま死体を分析しはじめる。

「刃物で切り裂かれたようですね」

「これが、特殊武装?」

「可能性は捨てきれませんが、同じ跡が自動人形たちにも残っています」

死体を一カ所に集め、寄り掛かるように並べながらケイは話を続ける。

「彼女たちはこちらのエリアまで逃げて来たのでしょう」

首が飛んだ死体も可能な限り見つけ、大事そうに抱えながら運び続ける。

「水に濡れた足跡がまだ乾いていない。時間はそう経っていないでしょう」

「自動人形の数が少なかったのは……」

「こちらで先に戦闘が起き、大量の増援が来た」

「どれも特殊武装に該当しない警備用。この程度の数でやられる彼女たちではありません」

状況を口にすることで飲み込んでいるが、彼女たちの表情は怒りに満ちていた。

「この先に続く足跡があります。恐らく犯人はこの先にいるでしょう」

廃劇場への入り口。怪しいと読んでいた場所の一つである。

ブーツの足跡が続いている。

「無差別に攻撃する人型の自動人形か、人による奇襲か。どちらにせよ只者ではなさそうですね」

「す、進むの?」

メノがおそるおそる聞くと、ケイは顎に手をやり、考え始めた。

「いいえ、任務はここまで。すぐに副会長に報告しましょう。私たちだけで進むのはリスクが大きすぎます」

「この先に犯人がいるのに……。ごめんね」

ミツミは死体の腕を優しく撫でる。怒りを抑え、冷静に判断した結果である。

「……」

ケイはそのまま廃劇場へ続く入り口を見つめ続ける。

その先には暗闇しか映っていない。だというのに、決して目を離さない。

「メノ、ソラさんを連れて全力で走りなさい」

「え……?」

「早く!」

突然の怒鳴りに思考する暇もなく言われた通りに走りだすメノ。

そして、走り出した瞬間に暗闇から人影が伸びる。

パンッ!

フタミが影へ威嚇射撃をする。

「なんだ、来ないのか」

気にする様子もなく影から姿を現したのは大柄で筋肉質な男。

軍服を身に纏い、刀を腰に携えている。身長は180程度。

それは、男という要素を抜きにしても異質だった。

煙草に火を着けながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

「せっかく死体残してたのに、冷静なんだな、お嬢ちゃんたち」

「オート……マター?」

見慣れない容姿をした存在にヒトミたちは困惑していた。

(これが特殊武装?)

どちらにせよ、目の前に立っているのは未知の存在である。

男から漏れる殺意に、ミツミが我慢できずに発砲してしまう。

あまりにも一瞬の事だった。

瞬きをする時、入り口に立っていた男は、ミツミの首元に刀を当てている。

「ホント、ここの人は気軽に撃つよな」

誰も反応できなかった。

(無音で……!?一番遠くに立っていたのに……)

「これで、オジサンが君を殺しても正当防衛になっちまう」

後ろにステップをし、距離を取ろうとしたが、足に上手く力が入らなかった。

(足払い……!?)

警戒していても尚、動作一つ目に映らない。

「よくもあの子たちを!」

「道を尋ねようとしたら、撃ってくるもんだからよ。野蛮だよなあ?」

鞘に収まった刀に、手を添える。

――死

確かに死の未来が見えた。

男の眼光から放たれた殺気は確かにミツミを射抜いていた。

しかし、刀は届かなかった。

どうすることも出来ずに目を閉じるも、まだ生きていることに気づく。

何が起きたのかと正面を見ると、そこには予想外の人の姿。

「遅くなった。すまんのぉ」

振られた刀を正面から受け止め、こちらを見て笑う鬼の少女の姿。

「おいおい……、見えなかったぜ。気配も、動きも」

「隊長!」

――ドミニオン学園 生徒会 庶務長・球鬼たまきミコトである。

「皆ぁー!」

メノが涙目になりながらこちらに走ってくる。

「副会長にも連絡入れた!すぐ来るって!」

「ソラさんの護衛はどうしたの!」

「途中で合流したA班に引き継いで貰って一緒に避難してる!」

A班の生存、ソラの安全がわかり安心するケイ。


しかし、戦況が覆ったわけではない。

目の前の男は、間違いなく強い。

ドミニオン学園でも有数の実力者・球鬼ミコトが唯一の戦力であり、

他の誰もその役に立てない。

それが現状。ミコトがやられれば全滅の綱渡りである。


ミコトが拳で刀を受け止めているのを見て、男は呟く。

「加護か、そりゃあ切れねえわな」

「アンタ、外から来たんやろ?」

ミコトが拳を前に出し、刀を弾く。体が飛び上がり、男に隙が出来た。

何故、追撃しないのか。

動かないミコトを見て、男は笑う。

「強いな。戦い慣れてる」

まるで、わざと隙を見せていたかのように、男は一瞬で体制を整える。

睨み合う二人、場は静寂に包まれる。

――次の一撃で、勝負が決まる。

そんな予感がした。

刀を握り、居合の姿勢を取る男、

腰を落とし拳を向けるミコト。

しかし、次の一撃が放たれることはなかった。

男は手を離し、背中を向ける。

「やめだ。数が多すぎる」

黒い渦が水面から上がり、男を中心に覆っていく。

「それに、お嬢ちゃんたちに用はない」

渦が男の全身を包み、見えなくなった時には、渦と共に男の姿は消えていた。

ザッ!

同時に、羽を広げ、コトネが着地する。

「あら、バレてもうたか」

「チッ」

敵を逃がした事に舌打ちをするコトネ。

殺気に満ちた空間が解け、へなへなと床に座りこむメノ。

ケイたちもホッと一息をつき、遅れた救護隊が現れる。

「ヴァーチェだけやあらへんみたいやね」

コトネの方を向き、カカカと笑うミコト。

「狙いは何……?」


全てが謎のままソラの初任務は終わり、B班全滅という最悪の結果だけが残った。


――――To be continued










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