第4話 戦場の顔

責任者・天理コトネ 任務内容は以下の通り

・下水道内に管理を離れた自動人形オートマターが確認された。

 速やかに銃撃戦で破壊、指揮官機が現れた際は必ず撤退する事。

・近頃増加している特殊武装をした自動人形の追跡。

 ※戦闘は回避せよ。

  避けられない場合、座標を報告し、高木ソラを安全域まで退避させること。

  その際、必ず護衛を一人つけること。

・無線受信機以外の電子機器持ち込みを禁ずる。

・【高木 ソラ】に危険が及んだ場合は任務を放棄。速やかに退却せよ。


予想していた仕事とは異なり、小さな功績とは一体何かについて考える。

「今回の任務は人間じゃないのか。好き放題暴れられるな!」

「よく見てくださいメノちゃん。ソラさんの安全が最優先です」

精密、均等に書かれた任務内容の中に、自分の名前だけが太字で強調されている。

「やけに慎重だな。庶務に割り振られた仕事なんだし、大丈夫だって」

余裕余裕とライフルを肩に担ぎ笑うメノ。それを冷たく、低い声音が突き刺す。

「常に最悪を想定しなさい」

ケイの声はまるで別人のようだった。

「護衛対象の有無以前に、特殊武装機との戦闘は回避指示が出ています」

「対軍兵器とかね」

静かに聞いていたヒトミが声を出す。

「下水道での戦闘で爆発物なんか使われたら、地上にも被害が出る」

「そこら辺の小型機おもちゃだったらこんな指示は出ないしね」

「あくまで調査。慎重に行こう」

「えぇ、まずは数を把握しましょう。破壊作業はそれからです」


どこか遠くを見つめてぼーっとしていた3つ子の姿はどこにもない。

優しいお姉さんもいない。

ここにいるのは、戦場の兵士だけ。

スローン学園では、警戒していたリンからでさえ感じなかった程の気迫。

下水道にいるせいで息がしにくいと思っていた。

(違う……!)

場の緊張感が全身に伝わっていたのだ。

息を呑む事さえ、躊躇うような感覚。

その気迫にメノもようやく気付き、表情に気合が入る。

「ソラさん、携帯等の電子機器は大丈夫ですか?」

「うん、ちゃんと置いてきたよ」

「いい子ですね。出来るだけゆっくり移動しますから、頑張ってついてきて下さい」

「善処します……」

深呼吸し、各々が気合を入れなおす。


「24時30分 C隊、任務開始」


――緊張の初仕事がついに始まった


足音を立てず、物凄い速さで進んでいく。

それはまるで飛んでいるかのように、軽い足取りで。

(はぁ……はぁ……、これで……ゆっくり……?)

身体の構造が根本から違うのだと思い知らされる。

目の前を走っているのは、本当に人間なのか……?

ケイが時よりこちらの様子を伺ってくれる。

「きついかも知れませんが頑張って。もう少しで第一目標に到着します」

ここはドミニオン学園が管理している地区の下水道とのことだが、その広さは地下帝国と呼べるほどに広大だ。通常のフラッシュライトより強力なタクティカルライトで照らしているのに、奥が見えない。


暗闇の中を走り続けること数十分。

呼吸をすると血の味がする。肺が悲鳴を上げている。

ソラの体はもう限界だったが、ギリギリ間に合ったらしい。

前を走っていたケイたちが止まり、周囲を照らして目的地に辿りついたことを確認する。

「ここから分かれ道。表記C-102を確認。間違いなさそうだね」

「えぇ、ここからは暗視装置ナイトビジョンを使います」

ケイが降ろした鞄から、ヘルメットとヘッドマウントキットが人数分出される。

この重さが人数分詰まった鞄を背負いながら、あの速度で走っていたことに驚く。

まだ入っているようで、ソラにだけ防弾チョッキが渡される。

「規定Ⅱ。9mm弾を少々防げる程度の気休めですが、ないよりはマシです」

彼女たちには必要ないものらしく、ソラが着用している間にチャンバーチェックやマガジン数の確認、セーフティーの確認などをして戦闘に備えている。

正しい着方なのかはわからないが、ケイに着用したことを伝える。

こちらの顔を見ていたヒトミが、ソラに呼びかけた。

「そんなに怯えなくていい。いざとなったらヒトミが守るから」

青ざめていたらしい。優しく笑うヒトミの姿はなんとも頼もしい。

「戦艦に乗ったつもりでいろ。私たちは強い」

「深呼吸をして。それと、一応渡しておく」

手渡されたものは拳銃だった。

「Glock19 Gen5。護身用に持っとけ。撃った事はある?」

「な、ない……」

そのまま手を握り、説明を始めるミツミ。

「ここがグリップ。ここを握ると玉が出るようになってる。後は引き金を引くだけ」

説明を受けても実感が湧かない。

「暴発の心配はない。死ぬと思った10秒前に引き金を引け」

実際の重量より、重く感じた。これは、殺傷能力を持った武器なのだ。

自然と手が震える。なんとか抑えようと左手を添えても止まらない。

「止まれっ!止まれっ!」

命がかかっていることだ。彼女たちだけに任せる訳にはいかない。

自分の身は、自分が守るんだ。これ以上重荷になってどうする。


言い聞かせようとしても震えは止まらない。

――そっと、優しくメノの手が添えられる

「大丈夫、怖くない。これは、誰かを守るための力」

子供を宥めるように優しい声音で、ソラの手を撫でる。

震えは次第に収まっていき、銃をしまう。

落ち着いたのを確認し。大丈夫ですとケイは微笑む。

それを使う時は、来ません。その為に私たちが居るのですから」


次の目標へと向かいながら、これからについて説明が始まった。

「現在位置は下水道エリアの中でC―102と呼ばれる所です。道が3本に分かれていますが、これらは全て別々の所に繋がっています。真っすぐいけばD―102、左はC―103、右はC―104に繋がっています。私たちの調査エリアはCエリア103から108です。ここまでわかりましたか?」

「ここまできた道のりのような場所を5カ所調査するんだね」

「正解です♪理解が早くて助かります」

「……甘すぎない?」

メノのツッコミを気にすることなく、ケイはつづける。

「C103―からC 108の間で怪しい建物は機械工房エンジニア・クラフト、廃劇場、旧プリンシパリティ学園跡の3つですね」

自動人形オートマターがどこから来ているかの調査も兼ねてるんだっけ」

「そうです。3つあげましたが機械工房は外れでしょう」

「違法改造、機械工房あいつらが自分たちの美学に背く訳がない」

「それに、そんなあからさまな所は既に会長が調べているでしょう」

「人の管理から離れた2つが調査対象だな!」

名推理と言わんばかりに自信満々なメノに、誰一人反応しなかった。


「エリアD、Eは別班が調査中。F以降はヴァーチェの管轄になるので今はどうすることも出来ません」

「調査だけなら二手に分かれる?」

「時間がないのでそうしたい所ではありますが、少し妙です」

「何が?」

「自動人形をまだ一機も確認していません」

「そうだね。物音一つなかった」

「統率が取れなくなった自動人形は、目的もなく彷徨うはずです」

「誘いこまれてる……?」

「目撃情報から既に24時間が経過しています。巡回エリアを変更した可能性もあり得ますが……」

「常に最悪を想定する」

先ほどケイが言っていたことを思い出し、思わず口からこぼれていた。

余程嬉しかったのか、ケイは口元を隠す。

「その通りです♪集団で動き、迅速に対処しましょう」

「決まりだな」


そうして、6人は慎重にC―103エリアへと歩いていく


――――To be continued







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