第3話 アットホームな生徒会

腕章を届けて貰い、リンが帰った後、

普段の運動不足が響いたのか、睡魔に抗えず眠りについたソラ。

安らかな彼のひと時は、突然終わりを告げる。

ゲシッ

ゲシッゲシッ

「ちっ」

パァァァァァァァン!

強烈な爆発音により飛び上がるように起き上がるソラ。

何事かと周りを見渡すと、そこには一人の見知らぬ少女が立っていた。

「……初めまして」

「やっと起きたな。仕事の時間だ」

「ん……?」

携帯の画面には大量の目覚まし通知。

スヌーズ機能は知らぬ間に止めていたらしく、時間は22時31分。

――遅刻である。

時刻になっても返事がないので、入ってきたのだろう。

しかし、どうやって?

少女の手元を見ると、コトネにもらったものと同じカードキーがある。

マスターカードキー的な何かだろうか。

と、そんな事を気にしている場合ではない。目の前の少女は完全にお怒りだ。

「すみません!」

「……」

謝罪を無視された。どうすればいいのだろうか。

立ち尽くしていると、再び彼女の蹴りが腹に炸裂する。

「さっさと着替えろ。そんな服装で任務をするつもりか!」

手加減されているとはいえ蹴りは蹴り。

腹が千切れる前に急いでスーツに着替えることにした。

腕を組み、舌打ちをしながら早くしろと指がトントンとたてられている。

(これが……庶務長?)

自分が100%悪いのだが、正直こんな怖い人ばかりの職場で胃が持つ気はしない。

「まったく、なんで私が……。本当にコイツが副会長の言っていた凄い人なのか?」

「おまたせしました!」

寝坊した時のような緊張感で早急に支度を済ませた。

「おい」


また何か怒られるのだろうか……。うぅ……、助けてコトネ。


「まともに服も着れないのかお前は」

そういって背伸びしながらネクタイを整えている。

(意外と優しいんだな)

なされるがままに少女を見つめていると目が合った。

「チッ!」

余程顔が気に食わないのか、またしても腹に蹴りを入れられる。

腹筋が6枚になるのも時間の問題である。

「名前」

「え?」

「お前の名前!呼ぶときに困るから早く言え」

「高木 ソラです……」

燕骨えんこつメノだ。次寝坊したら殺すからなソラ」

「はひぃ……」


緊張が全身に染み渡った状態で無言のままメノについていく。

しかし、この程度ではへこたれないのが先生クオリティ。

頭は考え事でいっぱいである。


これが庶務長……。他の皆も怖いのかな。

「ふふふ……、優しく殺してあげますからね♪」

「近寄らないで下さい。殺しますよ」

「あはは、殺しちゃうよ☆」

ソラの中で知りもしないドミニオン生徒会メンバーの印象が決まりつつあった。

「先生、あんまりふざけてると殺すよ」

ついには、コトネすらも殺すと言い始めた。

「違うっ!コトネはそんな事言わない!いわないもん!」

突然叫び始めるソラ。メノからすれば完全にヤバい奴である。

「うわあ!な、なんだ!急に叫ぶな!殺すぞ!」

蹴りが入れられるとわかっていたはずなのに、どうして人は過ちを繰り返すのか。


しかし意外な事に、恐れているのはメノも一緒だった。

(な、なんなのコイツ……。デカいし怖いし急に叫ぶし。なんで私なのよ!

 副会長はコイツの事、凄い人だし優しい良い人だよって言ってたのに!

ま、まさか……私が舐められてる!?あ、あれだけ蹴りを入れたのに……。

 威力が弱すぎた?で、でもこれ以上強く蹴ったら怪我させちゃうかもだし……

 庶務長の代理で来たのに、何かやらかしたら怒られちゃうかもだし……)


気が付けば目的の場所に着き、他のメンバーが待機していた。

「おかえりなさいメノちゃん。貴方が例の新人さんですね?」

一人がこちらに気づき話しかけてくれる。

身長が高く、優しそうな声音をした眼鏡のお姉さんである。

「そう、変な奴。皆も気を付けろ」

どこかを見つめたままの3人は気にする様子もない。

「初めまして、高木ソラです。今日はよろしくお願いします」

姿勢を正し、挨拶をして一礼すると彼女は手を口に当て驚いていた。

「あら、こんな礼儀正しい人がドミニオンに。流石コトネさんの推薦ですね」

「どう見たらこいつが礼儀正しいんだ!遅刻したんだぞ!ち こ く!」

「メノちゃん。この人は表世界からいらしたんですよ。時間が馴染まないのは当然の事です。初日からそんな怒ってばっかりだと嫌われちゃいますよ?」

ソラの顔は溶けたように気持ち悪くニヤけていた。

メノと顔を合わせ、皆が彼女のような怖い人だったらどうしようかと思っていたが、目の前にいるのは女神である。

「皆騙されてるんだ!すぐに化けの皮が剥がれる!私は嫌われてないもん!」

はいはいとメノを軽くあしらい、少女は上品な立ち振る舞いで一礼する。

鹿野しかのケイと言います。普段は医療科で活動していますが、生徒会庶務も兼任しています。怪我をしたらすぐに教えて下さい。ほら、貴方たちも自己紹介して下さい」

ケイに呼びかけられ、フードを外しながらこちらに向かう3人はそっくりな顔をしている。

「ヒトミ」

「フタミ」

「ミツミ」

端的に、抑揚のない声で3人は自己紹介を済ませる。

「すみませんソラさん。この子たちは3つ子で苗字は皆、羅生といいます。とってもめんどくさがりなんです。仕事もいっつもサボってばっかりで、いつも私に隠れてゲームを……」

そのまま言葉を発する速度は速くなっていき、やがて聞こえなくなった。

「ケイはいっつもこうなんだ」

コツンと肩を当て、気にしないでくれと言ってメノは先に進んでいく。

それに追うようにヒトミ、フタミ、ミツミも歩いていく。

3倍速と言わんばかりに声が消えていたケイが帰ってくる。

「あれ、皆さんは?」

「先に行きましたよ……」

「まったく!人の話は最後まで聞きなさいとあれほど叱ったのに」

そうしてケイも先へと行ってしまった。


風が吹く中で、立ち尽くすソラ。

ここが、私の職場である。

これから問題を解決し、功績をあげるための職場仲間である。

「やはり一筋縄では行かないね、裏世界」

空を見上げ、深呼吸をする。やるしかないのだ。頑張れソラ。

私は、先生なのだから。


空から、リンとコトネが親指をグッと立て、見守っている気がした。

頑張るからね……先生。









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