叛劇のマキナ 編

1章:眠れる少女《オートマター》

第1話 裏世界の日常

エンジョイ部と別れを済ませ、無事に裏世界側にあるレッドロード国際空港に到着。

不安事だらけであるが、頑張ると言った手前、些細な事でメソメソしていられない。

鼻息を荒くして、荷物を受け取りロビーに出ると何やら騒ぎが起きていた。

「お客様、身分を証明できるものを……学生証とかはありませんか?」

「ない」

「そうなりますと、搭乗許可が出せませんのでぇ……」

「それは困る。なんとかならないか」

「あぅ……」

後ろに待機している人が大量にいる中で進まない問答をしている二人。

「早くしろ」

「早く警備隊を呼べ」

と凄まじい野次の中で一切気にする様子のない少女と困り果てた職員。

耐えかねた直ぐ後ろの客が拳銃を取り出し構える。

「警備隊が対処しないのならワシがどかしてやろう」

服をきた機械が問題客の方へと銃身を向ける。

その瞬間、強風が起こり、手元から拳銃は離れ、遠くへと飛んでいく。

問題客の方へ見ると、足を高く上げている。

とてつもない速度で拳銃を蹴り飛ばしたのだ。

少女は深く被っていた帽子とフード、マスクを外し、上げていた足をロボットへと振り下ろす。

「簡単に銃を抜くな。それとも戦う覚悟があるのか?」

ハスキーな声で無表情のまま見下ろす少女。

「あぁ……あぅあぅ……。ひぃぃぃぃぃぃ」

どうしたものかと慌て、泣き出してしまう職員。

揉め事が起きたことでどこからか武装をした警備隊が集まる。

「こ、こいつがいつまで経ってもどかないから!」

「銃を人に向けた。それだけで十分だ」

そのままロボットは警備隊に連れていかれる。

また同じ状況に戻るのかと眺めていると、遠くから少女と同じコートを身に着けた

不気味な仮面で顔を覆った人たちが少女の元へと集まる。

「おまたせ。はい、これアハザの分の身分証」

「その名前で呼ぶな。後、その仮面を外せ」

仮面を外した少女たちは証明書を見せ、先へと進む。


――こ、これが裏世界……‼

表世界の空港とは雰囲気が違う。

暗い表情や怒りの表情が多く、先々で道を尋ねても無視される。酷い時は怒られた。

心は折れかけである。

(早くエンジョイ部の皆に会いたい。助けてリン!)

広い空港を看板の案内だよりに歩き続け、なんとか出口に辿り着き。

地下鉄への案内に従い、ドミニオン学園へと向かう。

地下鉄のホール内でも、表世界では見たことのない光景ばかりが目に映る。

段ボールに座り、死んだ表情をしている傷だらけの者。

焦点の合わない目で、ケケケと舌を出しながら笑い、千鳥足でどこかへ向かう者。

バニーガール。

後ろにメイドを侍らせ、葉巻を吸うお金持ちそうなロボット。

なんとも個性豊かである。

凄いなぁと眺めていると切符を購入する場所で声をかけられた。


「そこの、止まりなさい」

綺麗な水色の髪をした如何にも警察ですと言わんばかりの服装の少女。

「ヴァーチェ学園風紀委員です。大人しく協力してくださいね」

手を挙げるように拳銃を向ける真剣な表情の少女。

(私も例に漏れず怪しかったようだ)

裏世界の洗礼だと自分に言い聞かせ、言う通りにするソラ。

「なんで私に声をかけたの?」


素朴な疑問のつもりだった。ここに来るまでにもいかにもな面々が居た。

その中で自分が対象になったのは何故か理由が知りたかったのだ。

しかし、彼女にとっては言うまでもないというようにため息をつく。

「バレないと思っているんですか。ちょっと人間っぽいからって騙されません」

(ああ、どこかで聞いたことのあるやつだ……これ)

生徒会長に言われた暴言を思い出し、悲しい気持ちになった。

この世界において、私は異質なのだろう……。

あの時のように身体調査結果などの保証するものを持ち合わせていない為、どうしようかと思っていたがコトネからもらった封筒の事を思い出す。

「その押印を見せれば裏世界は比較的安全に歩けると思う」

これが今有効なものかはわからないが、何もしないよりマシだろうと鞄を漁る。


「少し待って下さい。見せたいものが」

「そういって発砲する気なら無駄ですよ!私はとっても強いですから!」

「まあまあ……」

なんとか封筒を取り出し、彼女に渡す。

これでどうにかなるといいなあ。と気休め程度に出したが、その効果は絶大である。

「ひゃ!あ、アマリリスの!し、失礼しました!私は急用を思い出しました!

 退勤時間ですのでー!」

丁寧な一礼をした後、彼女は風のように走り去っていく。

本人の言う通りだった。学園につくまで何度も足を止められたが、この封筒を見せるとすぐに解放して貰える。それほどまでに彼女の存在は裏世界にとって大きい。

コトネに感謝し、看板を頼りに歩き続け、なんとかドミニオン学園に辿りついた。


道中のネオン街などと比べると落ち着いた印象の校舎である。

並列した街灯、整備された道と沿いに咲く草花。

裏世界に来てから別世界のように感じていたが、ここはどこか安心感がある。

時間帯で考えるなら生徒たちは既に帰っているだろうか。

時計を見ながらどうしようか考えていると背中に衝撃が走った。

何事かと後ろを振り向くと、そこには頭に生えた2本の角が特徴的な学生が居た。

「は?邪魔だよ。どこ見てんだ。ふっとばすよ」

そのまま校門を抜け、玄関へと進んでいく角の少女。

次々と生徒たちが玄関へと向かう。その殆どが角や尻尾などの身体的特徴がある。

(これが魔族ってやつか……。それに、ドミニオン学園は今から登校?)

そのまま人の流れを眺めていると、聞き覚えのある声がかかる。

「おはよう、先生。早いんだね」

振り向き姿を確認すると、やはり間違いなかった。

天理コトネ。コトネちゃんだ。

「どうしたの?変な顔して」

目つきは鋭いまま、口角を僅かに上げ、微笑む彼女にソラは飛びついた。

「ば、えっ!な、なに……?」

びっくりしたせいで力加減を間違え、思い切り突き飛ばすコトネ。

その威力は常人が耐えられるものではなく、床に倒れこんでしまう。

「いきなり抱き着かないで!」

初めて動揺するコトネを見た気がする。

度が過ぎた行動に謝罪をしつつ、ソラはコトネについていく。

「話は聞いている。来てくれてうれしい。私は……その、怖がられる事が多いから」

(こんないい子で可愛いソプラノ声で小っちゃくて美人で優しい子を……?)

突き飛ばされたせいか、ソラは若干故障していた。

「でも、無事でよかった。裏世界ここはあぶないから。教えてくれれば迎えに行くのに」

そういってコトネは少し拗ねたように両人差し指をくっつけている。

「そういうところだよコトネ」

「え?何が……?」


ドミニオン学園の紹介をしてもらいながら、二人は校舎を回った。

これからの方針を改めて話し合う為に、一度座れる場所

ドミニオン学園生徒会室へと向かう。


――To be continued










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