第4.5話 バラバラの心、ツギハギの体 

腹部を弾丸が貫き、かなりの出血とのことだったが、命に別状はないとの事だ。

傷の塞がりも早く、退院でもよかったのだが様子見も兼ねて今日は病院生活である。

表世界の住人にとっては珍しい夜。雨は止み、星が空に輝いている。

シロたちも一緒に泊まると主張したが、大人数では迷惑となる為、教師という立場も兼ねて先生が付きそうことになった。

「暇だから週刊連載少年雑誌ステップでも買ってきてよ。後アイスもね~」

というリンの頼みから購買に足を運び、アイスと飲み物、頼まれていたステップを買い、そっと部屋へと戻る。

リンは窓を見つめていた。月の光が反射し、顔を映す。

彼女の瞳から、静かに雫が流れていた。

扉の音にも気づかず、窓を眺め続けているリンに「ただいま」と戻ってきた合図をする。リンは急ぐように目を擦り、涙を隠す。

「綺麗な空だな~って思ってさ。ほら、表世界は夜がないからさ。せっかく病院生活だし、たくさん見とかないと損かな~とか思ったりして」

髪をわしゃわしゃとしながら繕うリン。

問い詰める気にもならず、そっとベットの隣にある席に腰を下ろす。

リンは袋を鳴らし、アイスとステップを取り出すも、すぐに机に置いてしまう。

「わかってるの」

何をとは続けず、彼女は自分の傷だらけの手を見つめている。

「こんなことしても誰も救われない。ナギサは帰ってこない」

添えておかれていた自身のスクールバックから学生手帳を取り出すリン。

1つ捲り、一枚のボロボロの写真が挟まれていることに気づく。

不愛想な表情をし、ARを携えている少女。

今の生徒会長とそっくりな眼鏡でオドオドしている少女。

横を向き、無表情のまま遠くを見つめている少女。

そして、3人を腕で集め、満面の笑みを浮かべる腕章をつけた少女。

「皆バラバラになっちゃった」

写真を取り出し、泡に触れるようにそっと顔をうずめる。

「私は……どうしたらいいの?ナギサ……」

「……」

自分の世界に入っていたリンは、隣に先生が居たことを思い出し「アハハ」と誤魔化す。そして、また自分だけの世界へと入ってしまう。

「先生を助けにいったのに……、あのままアマリリスが逃亡していたらどうするつもりだったんだろう」

思いつめないで。そんな気持ちでそっとリンの手を包むと、リンはそれを勢いよく振りほどく。

「触らないで!」

そして、自分が何をしたかを認識し、俯き震える。

「わたっ……僕が、頑張るんだ。頑張って、頑張って、なんとかする」

小さく呪文のように2、3度繰り返し呟くとリンは先生の手を自分から握る。

「ごめんね。頭ぶつけちゃったみたいでさ、幻覚が見えてるというか……先生が生徒会長に見えたというか……タハハ」

「リン」

「へ?」

握られていた手を強く握り返し、目を見つめる先生。

その真剣な眼差しに頬が少しずつ赤くなるリン。

「リンが話したくなるまで何があったのかは聞かない。だけど、今は皆がいるよ」

そういって手を離し、自身の鞄から何かを取り出す先生。

離されたリンの手は少し寂しそうに、何かに縋りつくように握っては開かれる。

「頼りない私だけど。皆のおかげでなんとかやっていけてるんだ」

空いたリンの手を左で持ち、添えるように右手から3匹のカラフルな折り鶴を渡す。

「こ、これ……」

「うん。エンジョイ部の皆で早く元気になるようにって」

金色で丁寧に繊細に折られた鶴。

ボロボロでしわくちゃ。それに羽が曲がっている白色と黒色の鶴。

「あれ……?」

一つ足りない。そう思って先生の方を見ると、先生は頬を赤くして、恥ずかしそうに頭を搔いている。

「私はこういうのは苦手でね……」

「そっか……」

少し残念だなぁ。

3匹の折り鶴を見つめながら落ち込んでいると、

そこに一匹のしわくちゃなピンク色の鶴が追加される。

「い、色もそれしかあまってなかったんだ!笑わないでくれよ」

何度も何度も折っては戻し、折っては戻した跡のあるしわくちゃな鶴。

「あはっ、あははは!」

「リ、リン……」

しばらく体をぴくぴくさせながら静かに笑い続けるリン。

笑わないでくれとお願いしたのに……そんなに下手だったかな。

ピンク色の鶴を右手でそっと持ち上げ、まじまじと見つめる。

「でも、ちゃんと鶴だよ。それに、とっても綺麗」

何度でもやり直して。最後に鶴の形になってる。

「喜んでくれたなら何より……。体は大丈夫そう?」

「うん、明日には帰れそう」

「ならよかった。明後日にはキャンプがあるからね」

「退院して早々にハードだねぇ。先生が後ろに乗せてよ~」

「荷物があるからゆっくり行けばいいさ」

そうして、これからの事を沢山話して、朝が来た。


来るときに利用したらしい軽トラックを借りてリンを迎える。

「シロとクロは荷台に乗せてたらしいな」

「そ、それはぁ……緊急時だったからさ……」

「警察に見つかった時もそういうのか?」

「あはは……」

助手席の扉を開き、リンを抱き上げる先生。

「あ、ちょっ、せ、せんせい!?」

「安静にって言われてたからね。我慢して」

「うぅ……」

恥ずかしさを抑え、大人しくするリン。

運転席に戻り、ハンドブレーキを上げる。

「帰り、何か食べる?」

「……センタクキ―」


リンの過去に何があったのかはわからない。

これからどうにか出来る事なのかもわからない。

それどころか、自分自身のこれからもわからない。

だけど、この平和を大切にしていきたい。そう思うのであった。


――To be continued









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