第4話 不器用な優しさ
攫われた先生を助けるべく発進したエンジョイ部。
彼女たちは、ファーストフード店に一度立ち寄り、会議という名の食事をしていた。
勢いのまま出たはいいもののアマリリスがどこへ行ったか見当もつかない。
GPSでの探知もできなければ、まともな情報もない。
学園に協力を仰ぐ訳にもいかない。手詰まり状態だった。
「どうしたものかねぇ」
「誰か一人は追跡するべきだった」
「頭がいっぱいいっぱいで……」
「……(もぐもぐもぐもぐ)」
かれこれ30分、意味のない会議が続いている。
ポテトを一本ずつ口に運ぶシロ、スマホをいじるクロ、両手を頬に押し付けむにむにしているナナミ。皆、困り果てていた。
「このまま時間を浪費するわけにもいかないし、予想でいいから動こう」
皆が手を止め、リンの方へと顔を向ける。
「具体的には?」
「目的がわからない以上どこに行くかわからない。動きを予測して二手に分かれよう。それと、二人を見つけても合流するまでは絶対に手を出さない」
手も足も出なかったことを思い出し、唸りながら頷く3人。
「殺されなかっただけ奇跡だからね。裏世界は目的の為なら手段は選ばない」
「それはよくわかってる。先輩、早く」
やれやれと呆れながらも時間がないことも事実、
リンはグループに2つの位置情報を送る。
「倉庫と……空港?」
「ヴァーチェ絡みの依頼なら倉庫を経由すると思う。副会長の独断なら空港を使うはず。その二つ以外なら確認してから追いつける」
位置情報を確認し、荷物をまとめる。
「倉庫は特にエリアが広いから3人で捜索をお願い。空港は便も場所も限られてるし、僕一人で行くよ」
車へと乗り、救出作戦が再始動する。
「さあ、今度こそ先生を助けるよ」
「「「おー!」」」
一方、アマリリスと先生は裏世界ではなく旧スローン学園校舎。
立ち入り
抱えていた先生をそっと床へと降ろし、ポケットから水を差しだす。
「おつかれさま。怪我や痛い所はない?」
「……」
「毒や薬品は入ってない。貴方をどうこうするつもりもない」
受け取らないまま、アマリリスを睨む。
「あの子たちに手を出した事なら謝るわ。時間がなかった」
ペットボトルの水を床へと置き、先生の衣服のポケットを探る。
「携帯や電子端末があるなら出して」
彼女に言われて携帯電話の存在を思い出し、助けを求めようとアマリリスの手を払う。しかし、その手をアマリリスに抑えつけられる。
「大人しくして。説明はちゃんとするから」
とてつもない力で押さえつけられ、抵抗しても動かない。
大人しく携帯を落とすと、彼女は手に取り、携帯を機内モードにする。
「他にはなさそうね」
一段落と言うように彼女は大きなため息をし、抑えていた手を離す。
「今日、ヴァーチェがスローン学園に来る。指導教員への謁見という名目でね」
コートを下敷きにして腰を下ろしながら彼女は続けた。
「情報は隠蔽されているから詳細な額はわからない。だけど、莫大な金額がヴァーチェに支払われている。判断材料の一つでしかないけど、それまで気にも留めていなかったヴァーチェがその振込以降、スローン学園への連絡を頻繁にしている。」
「……?」
「何がなにやらって感じね。一般には非公開だけど、先生がセラフィムから招待を受け、ヴァリアスの学園特別指導教員となった事は各学園の上層部には知らされいる」
「それでヴァーチェが会いに来るのがおかしな事なの?」
「最初からそうしていたのなら、疑わなかったかもね。先生は知らないかもだけど裏世界は力やお金が全て。そんな所が多額のお金を貰って動きだすとしたら」
先生はようやく彼女が何を言いたいのか気づいた。
「つまり」
「そのお金は先生を対象とした依頼に支払われた」
スマホで誰かとやりとりし、情報を整理した上で話を再開するアマリリス。
「訪問時間は9時程度、スローン学園との話し合いは5人程度で来ると思う。裏には武装した部隊が3つ。多すぎてもバレるだろうし、考慮した中での最大数でしょう」
「なんで私一人にそこまで」
「わからない。記憶喪失で戦闘力は皆無。襲撃してまで手に入れようとする価値があるとは思えないもの」
「なら、どうしてアマリリスは来たの?」
「貴方がスローン学園にいなければ、無理に襲撃しないでしょう。
それについては既に向こうの生徒会長に伝えてある」
「優しいんだね」
一瞬言葉を理解していないようすで口を開けたまま硬直するアマリリス。
そして、それが誰に対して、なんと言っていたのかを処理し、顔が赤くなる。
「…………そんなことない。学園がこれ以上減れば治安にも影響が出る」
「そんなにヴァーチェは強いの?」
「以前なら造作もなかっただろうけど、今のスローン学園では厳しいと思う」
「そっか……」
「それに、無駄な争いは避けた方がいい。貴方を攫えば、血が流れずに済むのなら
私はそうする」
説明を受け、約束の時間まで待機することをお願いされ、言うとおりに時間を待つことにした。アマリリスの推測通り先生が行方をくらましているとわかると、ヴァーチェ学園は潔く撤退した。生徒会長から帰った報告を受け、二人は出口へと向かう。
「今日はどうにかなったけど、これからもヴァーチェは任務の為に先生を狙ってくると思う。スローン学園に余り長く居るのは望ましくない」
エンジョイ部の皆の顔を思い浮かべ、自分のせいで争いに巻き込むかも知れない。
先生は「そうだね」頷く。
「方針はまかせる。だけど、もし力が必要なら私を呼んで」
そういってアマリリスはQRコードを差し出す。
方針が決まり次第、連絡することを約束し、その場を去ろうとする。
すると、後ろから袖を引っ張られた。
「?」
「あの子たちにも……謝っておいて。……それとこれ」
一枚の封筒と紙を取り出し、何かを書くアマリリス。
ハンコを取り出し押印、それを先生に渡す。
「ドミニオン学園生徒会副会長・
「ありがとう。よろしくね、コトネちゃん」
「……ちゃんはやめて。別に戸籍名なだけ、アマリリスでいい」
「これは……どうしたらいいの?」
「学園に入るときにそれを出して頂戴。それと、その押印を見せれば裏世界を比較的安全に歩けると思う」
じゃあね。そう言って彼女は羽を広げ、どこかへと飛び去って行った。
彼女の不器用な優しさと、裏世界での権威を知り、複雑な感情に包まれる。
返された携帯の機内モードを解除すると生徒会長からいくつかのDMが来ていた。
『こんにちは先生。詳しくはアマリリスから聞いていると思います。当件は一時解決しました。ご苦労をおかけしました。』
『それと、エンジョイ部の皆さんが先生をあちこちで捜索しています。連絡先をお持ちでしたら是非とも安否の報告を』
『それと、お疲れの所申し訳ありませんがリンさんと連絡が取れません。学校に戻ってくる際にそちらの確認もしていただけると助かります』
彼女たちに迷惑をかけてしまったなと急いで連絡をすると既読はすぐについた。
『先生!よかった心配した。怪我してない?』
『よくわかんないけど無事でよかった!』
ナナミとリンに関しては連絡が取れなかったので後で二人に聞くことにし、
ロストエリアからの戻り道を聞きながら、集合場所へと急ぎ足で向かう。
ロストエリアへの入り口に、汗を滝の様に流した二人が待っていた。
泥だらけだが、眩しい程の笑顔である。
「「おかえりなさい。先生」」
その後、エンジョイ部が先生奪還作戦で倉庫と空港にいたことを聞いた。
「ナナミはリンと一緒にいるの?」
「多分。一人だと心配だからやっぱり空港に行くって」
「タクシーで行っちゃった」
(捜索に必死で、連絡を見ていないのかな)
先生はタクシーを呼び、今後について話す。
「リンとナナミを迎えに行こうか」
「了解。何か食べてから皆で帰る」
「あ!私あれ食べたい!なんだっけ、あれよ、なんだっけ?」
「センタクキ―フライドチキン」
「そう!それ!」
そのころ、レッドロード空港駐車場。
「リンちゃん!リンちゃん!大丈夫ですか!しっかりしてください!」
表と裏の中央地・レッドロード国際空港。
昼と夜が存在する神聖な場所とされ、星空を眺める事が出来る気候の良さが有名である。しかし、今は大雨が降っていた。
力なく床に倒れるリンの体を揺すり、涙を流すナナミ。
腹部から血が流れ、道路へと零れた赤色は雨に流され排水溝へと落ちていく。
その先には、濃い影で覆われた一人の少女が立っている。
「ユウナちゃん!どうしてこんなこと……!なんで、なんでリンちゃんを!」
「……」
横たわるリンを見つめ、どこかへと立ち去っていくユウナにナナミは銃を向ける。
振り返る事なく、冷たい声でユウナは言う。
「早く連れて行け。死んでしまうぞ」
「……くっ」
銃を降ろし、リンを抱え走り去っていくナナミ。
その背中をじっと見つめながら無線をつける。
「✕✕✕✕✕」
雨音でかき消されたユウナの声に、連絡相手が焦ったように大声を出す。
「申し訳ありません!」
3人が空港に着く頃、ナナミから連絡がきた。
内容は想像していたものより酷く、3人はナナミ達と病院で合流することになった。
『無事だったんですね。
リンちゃんが重症で!レッドロード地区の病院にいますので来てください!』
――To be continued
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