第3.5話 それでも

『リンちゃん!先生が!』

『先生が!』

『とりあえず部室においで』

10分も経たないうちに4人が集まる。

先に着いていたようでリンが窓に手をあてながら振り返る。

「リンちゃん、先生が連れ去られました!」

「ドミニオン学園の、副生徒会長が!」

「反撃の一つも出来なかった」

皆、慌てた様子で汗をもそのままに報告する。

(学園全体への報告もしていないの……)

生徒会長との相談の結果、記憶が戻るまでは本来の業務は難しいと判断し、情報を非公開としていた。認知した理由もそうだが、まだ功績一つ挙げていない彼を攫う理由もわからない。それも、ドミニオン学園生徒会の副会長が直々に。

「一人で?」

「ええ」

「仕事がどうのこうのとは言っていましたけれども……」

「横取り悪魔」

(ヴァーチェの仲介?やはりジ・オールが関係している?それとも独断……?)

落ち着かせ、情報をまとめるつもりが、数多の選択肢によって自身も混乱していく。

(生徒会長に相談……?でも学園単位での事になれば身動きが取れなくなる可能性も……。そもそも先生の管理は正式にスローン学園が担当している訳でもないのか……。下手に私たちが動けば大事になる?何か理由があって、それを私たちが知らないだけ……?)

「先輩」

結論の出ない重考はクロの呼びかけによって覚める。

「どうしたの?クロちゃん」

「行こう。助けに」

「でも……」

色々なリスクを考えすぎてリンは動けないでいた。

しかし、他の皆の答えは決まっているようだった。

考えるべきことは色々ある。それでも、何より大事なものがあった。

(迷ってる暇は、ないか……)

「相手は問題児ばかりのドミニオンを力で統一させた副会長だよ?」

「アイツを倒そうってわけじゃないわ。先生を返してもらうだけ」

「今も先生は遠くに連れてかれてるかもしれない」

「裏世界までいかれると、いよいよ打つ手がなくなっちゃいますし」

皆、考えた末での解だった。


クロは部室の奥にある埃塗れの段ボールの中から何かを取り出した。

「旧生徒会の備品にこんなのがある」

首元に装置のついたフード付きコートである。

光学迷彩インビジブルコート……。なんでそれがここに」

「借りてきた」

「もう校舎自体ないよ……。立派な窃盗だねぇ……」

「解釈の自由」

「……はぁ。考えても仕方ないか。僕が行かなくても行くんでしょ?」

「行く」

「先生捕まえたらすぐに帰るからね……」

「ん、明日も学校。週末はキャンプもある」

それに、とナナミが付け加え一枚の紙を取り出す。

「せっかく名前決めたんですから、渡さなきゃです」

「隠すの大変だった」

「エンジョイ部の大事な部員なんだから!」

リンはロッカーにしまっていたSG《ショットガン》の状態をチェックし、

弾薬と共にケースへと仕舞う。

各自準備を終え、光学迷彩コートに袖を通し、皆で手を合わせる。

「行こう。エンジョイ部、活動開始」

「「「おー!!!」」」

クロの掛け声と共にエンジョイ部の奪還作戦が始まる。


「とは言っても、足だけじゃ追い付けないだろうから、車使いたいなぁ……」

ナナミの方へと視線を向けるリン。待ってましたと、ナナミは車のカギを取り出す。

「ちょうど廃棄スクラップ予定の軽トラックが一台余ってたんです♪」

「できる子だねえ~ナナミちゃん」

駐車場に止まっているピカピカの軽トラック。

本当に廃棄予定なのか怪しいが、難しいことは考えていられない。

リンがハンドルを握り、ナナミは助手席。シロとクロは荷台へと乗り出した。

「荷台はシートベルトないからね!死ぬ気で捕まりなよ~。それじゃ、とばすよ!」

アクセル全開。

法を全力で無視した速度で走り出すトラック。

ナンバープレートに刻まれた企業マスコットの目の飛びでたペンギンのような何かが涙を流しているように見えた。


――――To be continued





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