第6話

長狭仁衛の戦闘方法は単純だ。

式神使いでありながら、基本的には式神を使用しての戦闘では無く、生身での戦闘を肝としていた。


長狭仁衛による接近行動、水百足はそれに対して能力を行使。

水百足は対象を引き摺る能力を所持、水百足に付着する手が剥がれると、長狭仁衛に向けて伸びていく。


能力の使用により、複数の腕が長狭仁衛を掴もうとするが、持ち前のナイフを振るい切断していく。


「燈狐」


接近した長狭仁衛は名前を口にすると、狐が長狭仁衛の肩に乗り、そのまま跳躍をした所で、水百足の上に乗っかる。

水百足の顔面に向けて、長狭仁衛はナイフを脳天に突き刺すと共に、燈狐が口から火を放つ。

火を受けた水百足は痛みを訴えて蠢くが…長狭仁衛が水百足に向けて手を添えると共に、技能を使役した。


「(九禪くぜんりゅう・『鍔迫つばぜり』)」


力を力で抑え込む技能。

名前の由来は剣士が切り掛かった刀を、刀で受け止め、拮抗状態になる事からだ。

いかなる生物でも、動けば必ず力は発生する、その動力源となる力を、また自らの力で抑え込む事で、自他の間で拮抗状態による束縛を生み出す。


力が絡まる、とも表現されるこの技法にて、水百足の暴動は、長狭仁衛の静動によって絡み合っていた。


長狭仁衛は、元々は近接戦闘に優れた祓ヰ師だった。

彼が、術式を発現させたのは、なんとつい最近の事。

故に、長狭仁衛は近接戦闘の術が染み着いている。


「燃やせ、燈狐」


長狭仁衛の命令により、燈狐が口を開いて、水百足の胴体に深く噛み付いた。

この状態で、燈狐は火を噴くと、水百足の胴体が焼けていき、腸を焼き尽くす。

そうして、長狭仁衛はこの水百足が次第に弱っていくのを感じた。

力が弱く、潰えていくのを確認すると共に、『鍔迫』を解除する。

倒れる水百足、長狭仁衛は燈狐に新たな命令を加える。


「食べていいぞ」


その命令を与えると、燈狐は焼けた胴体を貪り始めた。


「…討伐は成功しました、水百足の体の端を見てみれば分かりますが、肉体が炭の様になって、塵に変わっていきます。あれが畏霊による荒廃現象です、塵が消えると、畏霊の肉体は空へと昇り、雲となります、…今、雨が降ってますね、赤い雨、これが『赫雨せきう』と呼ばれる現象で、畏霊が出現する原因でもあります。畏霊は死後、この様に循環していき、また新しい畏霊が出現すると、聞いています」


豆知識を疲労しながら、長狭仁衛は水百足に近づく。


「今、燈狐は水百足の核となるものを探しています。その核が、畏霊の一番のエネルギーが詰まっている場所であり、燈狐がそれを食べれば、畏霊の循環が減少します、更に、畏霊が強化されていき、今後の戦闘にも役立つ事でしょう」


燈狐が核を発見し喰らう。

すると、水百足の肉体は急速に塵と化していく。


「食べ終わったみたいですね…、あ、見て下さい、燈狐を」


長狭仁衛が指を指すと、カメラを持つ小太郎丸が視線を向ける。

燈狐が、肉体に異変をもたらしていた。


「進化ですね」


長狭仁衛は、付け加える様にそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る