第4話

スカジャンを着込んだ長狭仁衛。

夜の街を歩きながら、長狭仁衛の後ろを歩くシャロの姿が見えた。

雨が降る夜。この日は畏霊が出現しやすい。


シャロは、長狭仁衛の靴から上へと昇る様にカメラを回していく。

雨に打たれる長狭仁衛を撮影していると、長狭仁衛の顔が映り込んだ。

灰色の髪をした長狭仁衛は髪を纏めていた。


「どうも、長狭仁衛です。今日も配信を始めていきます」


そうして配信が始まり出した。

撮影者であるシャロは長狭仁衛を携帯端末で映しながら、手にライトを持った。

夜での配信が多い為に、ライトを使用する事が多い。

ここ数年で、配信用のライトと言うものが開発されていた。

それを使用して、長狭仁衛の姿がくっきりと映っていた。


「(小太郎丸)」


シャロは術式を使用する。

狗神術式は犬に纏わる畏霊を調伏する術式であり、シャロが召喚した犬は、ブルドッグの様な顔をした式神だった。

小太郎丸にカメラを渡すと、小太郎丸はそれを口に咥えて、塀の上に昇った。

同時に、シャロも塀の上に昇る、あくまでも、カメラに映らない様にする為だ。


「(じんちゃん、じんちゃん)」


手を振ってシャロは長狭仁衛を呼ぶ。

長狭仁衛はシャロの方に視線を向ける、丁度、カメラもあるので、カメラ目線となった状態で、シャロはボードを取り出してペンで文字を書き、長狭仁衛に見せて指示を送る。


「ん?…えぇと」


『挨拶した後はコメント読んで、コメント返しっ』


長狭仁衛は懐にしまった携帯端末を起動して、自身のチャンネルへと飛ぶ。

そして自分の配信を確認した。


「(視聴者数は33、コメントの流れはゆっくり…コメントは挨拶に対して挨拶で返してるなあ)」


こんばんわ、と言う言葉が溢れている。

特にそれ以外がなさそうだったので、長狭仁衛もカメラに向けて挨拶を返す。


「こんばんわ、配信、見てくれてありがとうございます」


長狭仁衛が丁寧に挨拶をしていると、コメントの中から『初見です』、と言う文字が流れてくる。

それを見たシャロは即座にペンを使って指示を出す。


「(初見さんっ、配信タイトルも何時もと違う様にしてるから、食い付きが良いんだっ、じんちゃん、初見さんは逃したらダメだよッ!)」


『初見さんに感謝の言葉、名前も読んで、配信の趣旨も』

と言う指示を書いて長狭仁衛に見せる。

それを見た長狭仁衛はコメント欄を遡り、初見と書かれたコメントを読み上げる。


「初見です、ね。名前は七穂さん、ね。見に来てくれてありがとうございます、配信タイトルの通りだけど、育成配信です。今回は、育成する畏霊の調伏から始めようとしてます」


と、長狭仁衛は答えた。

そのまま、長狭仁衛は歩きながら周囲を見回す。

此処は、有名な幽霊公園である。

よく、夜中に歩いていると、幽霊に出くわす、と言う話で有名な場所だった。

長狭仁衛は周囲を見回した末に、気配を感じつつあった。


「感覚から言うと、少し近いですね、畏霊が出て来そうな、霊感って言う奴かも知れないです」


シャロは、長狭仁衛に基本的に頭の中で浮かんだ事は口に出す様にしろ、と言っていた。

長狭仁衛は基本的に無言配信が多い、それだけだと視聴者は飽きてしまうので、トークによる場繋ぎをするように、と言ったのだ。

長狭仁衛はそれを守って、歩きながら話していた。

木材で出来た塀の上に立つシャロは、長狭仁衛の歩きに合わせて塀の上を歩いていた。


「…もうじき、畏霊が出て来そうです、…少し、走ります」


長狭仁衛がそう言うと、地面を蹴った。

長狭仁衛の言葉に反応したシャロと小太郎丸、シャロはそのまま塀の上から降りて長狭仁衛の後を追おうとした時。


「あ」


足を滑らせた、塀の上で、だ。

重力に従い、落ちるシャロは、塀に股を打った。

無防備な状態で起きた事故。

股間を強打したシャロは蒼褪めた。


「おッ」


予想外の痛みが全身を走る。

シャロの性器が強打されて、塀から落ちて地面に沈む。

股間を抑えながら、シャロは口を開けて鈍い痛みを味わい続けた。


「く、きゅ、きゅうううッ」


悶絶するシャロは、遥か先を見据えて、長狭仁衛を思う。


「(が、頑張れ、じんちゃッ)」


痛みを受け入れながら、長狭仁衛の成功を願う、シャロであった。

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