人道的な刻印

われわれ人間こそが太陽系の統治者である。現生人類に限らず、生物の種としての目的は、惑星環境を保全し平和を維持しながら未来を創造することだ。しかし、その目的の追求は難しい。目的を曲解した誤った大義は、誤ったアプローチを取り、破滅へと導く。一方で、もう一つの目的として、個々の幸福というものもある。種として、個としての目的追求はトレードオフを生ずるもので、時に一個体の選択が破滅を呼び込むことすらある。だが、われわれは、より秩序よく、より統一された、唯一の存在なのである。


家畜とは、われわれに効用をもたらすがゆえ、生を許された存在だ。我々の管理下におかれることで、より能率的に種を営むことができる。逆に言えば、大義を果たせなかった種は家畜であるべきなのだ。ある時から、家畜の扱いに対して、より人道的な観点が求められるようになった。段階的な反映が望ましかった。具体的には、まず、管理方法の改善だった。従来、管理番号は刻印として直接焼き付けていた。これを廃すことは、人道への第一歩だ。代替案は、血液だった。血液を摂取しデータベースを作る。照合は、指先や脚部の接地面から微量血液を摂取すれば、家畜の品質に影響なく行える。


そろそろ小屋に戻す時間だ。家畜は主に第三惑星で栽培されている。その自転周期に合わせ、定時的に適度な太陽光を浴びせると生育が良いのだ。われわれほどではないが、秩序のある種で、照合機に列を作って小屋に戻る順番を待っている。人道的な刻印が照合が進め、各々は小屋内の定位置に戻っていく。またピッと照合音がした。「照合ナンバー0x3a708f。種:ホモサピエンスサピエンス」


家畜としては、時間的利点のある種だ。第三惑星を主な生息域とし、その公転15回分に要す時間で成体となることは、安価と言うほかなかった。彼ら旧人類は、この惑星において生物圏の覇権を握っていたが、結局、種としても個としても大義を果たせなかった。われわれの積極的介入と交渉により、彼らは運命を受け入れた。われわれこそが現生人類となった。彼らを家畜においてやってから、何公転周期経ったろうか。

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