病院乱痴気ピクニック
人間の知らないところで、じつは病院はピクニックをしている。病院では人が死ぬのだから、陰気な空気が流れているのが常だ。出入りするのは老人や病人ばかりで、彼らに澱んだ空気を入れ替える元気があるはずもないのは明らかだ。病院には気晴らしが必要だ。つまり憩いの場だ。こうして月に一回くらいは、仲間で集まってどんちゃん騒ぎに興ずるのだ。
一口に病院と言っても様々だ。流行りの感染症でパンク寸前の臨海病院は、戻ったらまた検査だとぼやいている。やんごとなき御方の手術もした歴史ある大病院は、救命や仕事の意義を説いている。豪華なターミナルケアが主軸の金満病院は、儲け話を持ちかけてばかりだ。医療ミスの隠蔽に失敗した地方病院は、青い顔のまま酒を飲み続けている。大陸にある野戦病院は、銃痕を見せて笑っている。ピンク病院は、下ネタばかりのウザ絡みだ。
おや、催しをするようだ。これはカルテメンコだ。各病院の選りすぐりの患者のカルテで勝負するのだ。特に強いのは、そう、脂。病院達は、脂質異常症患者のカルテをメンコにして叩きつけ合う! 飽食の現代では、コレステロール・中性脂肪異常値患者は層が厚く、なかなか決着がつかない。おっと、歴史ある大病院から切り札だ。油症患者のカルテだ! 周りをあっという間に蹴散らし、逆にいくら叩きつけられてもひっくり返る様子はまるでない。勝負は決した。
お次は医療廃棄物で凧揚げ競争だ。糸はもちろん手術糸、ストックした骨切りを骨格に使って、風を受けるのは切除した臓器なんかがちょうどいい。みんな思い思いの凧を作ったようだ。野原を走り回って空にあげる。ああ、これは野戦病院の圧勝だ! とにかく高い! なんせ使っている内臓の張りが違う。戦死した若者の臓器はよく空気を受けて高揚力を発生するようだ。
楽しかったピクニックもそろそろ終わりの時間だ。みんな思い思いのリフレッシュができたのか満足顔だ。逼迫して多忙な現場、人命を預かる場所、常に死が漂っている、それが病院だ。日々なんとかやれているのは、こうした機会があるからこそなのだ。
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