花火サンダル
男が一人、走って逃げていた。その履き物は光り輝いており、真夜中の住宅地には似つかわしくない。
公園に逃げ込んだところで、体力が限界だった。
追手は4人組で、光が漏れないように、周りから見えないように、男を囲んでから痛めつける。
気を失いかけた男から、発光するシューズを剥ぎ取ろうとした。
からからからという音に、男たちは警戒を強めた。
スーツ姿の、40歳は超えているだろうという男が、金属バットを音を立てて引きずりながら、集団に向かって歩いている。
「おっさん、こんなところ来たら危ないよ?」
男たちは、今度はスーツの男を囲み始める。下卑た笑いが輪の中に響く。
一人が吹き飛んだ。
スーツ男のバットは、脇腹にコンタクトしてそのまま肩口に向けて振り上げられた。
下顎を擦るような打撃で、また一人が倒れる。返す刀でさらに一人が倒れた。ピンポイントな金的だ。
最後の一人は得物を取り出していた。ナイフを持って、震えながら対峙している。
スーツ男は笑っておどけて見せた。
同調して笑みを見せた瞬間、肘が強打された。もうナイフを持っていられるはずもなかった。
「お前ら、どいつの下だ?」
スーツ男が問う。虫の息の男たちは、自分達は何も知らないと口々に叫ぶばかりだった。
Fireworks®︎は、巷で流行っているスニーカー・サンダルだ。
スポーツ系のメーカーの商品で、特徴的なのは発光機能あることだ。
夜間の散歩やジョギングでの安全性を企図して付与されたもので、一般には、「花火サンダル」と呼ばれた。
しかし、大売れしたのは思わぬ方面だった。
バイク乗り達が好んで履き始め、闇夜に走る閃光にチンピラ達が魅せられたのである。
今では不良や半グレの間では、絶大な人気を誇り、バイク乗りに限らず定着している。
Fireworksの流行と高騰は、ある事象を引き起こした。Fireworks狩り、通称「エフ狩り」だ。
花火サンダルを狙った追い剥ぎで、夜間から明け方にかけた襲撃事件が多発した。
元は安全を企図してつけられた機能だったはずが、今では犯人に居場所を知らせるためのビーコンになってしまった。
犯行を行うのも、主には不良少年たちだった。
スーツ姿の男は、無駄足だったと気づく。今回のタレコミは外れだった。
エフ狩りの犯行少年の背後には、反社会的団体の存在が囁かれている。
巨大な犯罪組織で、Fireworksの裏市場を牛耳る他、薬物や人身売買も行っているとされる。
男はマル暴の警察官で、ここ数ヶ月追っていたが、まだ何の実態も掴めていない。
着信があった。新たなタレコミだ。
スーツ男は、現場に向かって歩き始めた。
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