ほくろ時計

おばあの部屋から出てきた、小さな目覚まし時計をもらうことにした。

生前使っていたもので、おばあちゃんっ子だったわたしはよく覚えている。

畳の部屋に布団を敷いて横になって、豆電球のまま少しだけお話ししてから寝ていたことを思い出す。

おばあは寝つきが良くて、わたしのほうが後に眠りにつくことが多かったなあ。


わたしは華の現役中学生なので、とても忙しい。

特に、毎日、夜遅くまでスマホや小説をチェックしなくてはならないのだ。

いつも日付が超えるまでインスタにカクヨムに大忙しだ。

でも、今日は早めに寝てみようと思った。

枕元にある目覚まし時計が、ふと目に入ったからだ。

目覚まし時計の長針は「12」を指そうとしていた。

ん? よくみると黒い汚れがあって「12」が「12.」のようになっている。まあいいや、寝ちゃおう。


学校では優等生で通っているわたしだが、今日は大きな失敗をしてしまった。

なんと正午をまたぐ四時間目の理科の授業で眠りこけてしまったのだ。

担当の松本には怒られるし、クラスのみんなには笑われるしで、もう最悪。

特に、ハゲの松本の陰湿な注意は、とても不快だった。

それにしても、昨日はいつもより早く寝たはずなのになんでだろう。

暖かかったからかなあ。

今日は11時には寝なくちゃ。


今日も居眠りしてしまった。それも11時の三時間目・理科の時間だ。

二日連続で寝こけるわたしに激怒した理科の松本は怒髪天を衝く様子だったらしいが、

一向に起きる気配のないわたしにクラスは大爆笑だったそうだ。

怒鳴りすぎた松本が声を枯らした頃にようやくわたしは起きたようだ。

わたしは、友達からも、大して喋ったことのないクラスの男子からも、おもちゃにされた。


時計の12が黒く塗りつぶされている。

それに気がついたのは、寝る準備をしていた時だった。

いや、12だけでなく11にも黒くて丸い、ほくろのようなものが重なって、上半分しか見えなくなっている。

おばあちゃんの時計なのに、誰がこんなことをしたんだ。

工具を持ってきて、身長に時計のカバーを外して、拭き取ろうとした。

やけにこびりついた汚れで、擦っても擦ってもなかなか取れやしない。

気がついたらわたしは眠ってしまっていた。


次の日の二時間目は理科で、やはりわたしは眠っていたらしい。

松本は怒ることなく心配していたそうだ。

わたしは一体どうしてしまったのだろう。


枕元の時計は、また黒くなっていた。

なんかもういいや。わたしは昨日よりも早く眠ることにした。

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