第23話 ロネの複雑な感情

一族が眠る時間、ミジーナ宅の個室でロネは再び眠りにつこうとした。



 もしもここで暮らすことになるならここはロネの自室にしていいと言われ、今は一人きりだ。

 なのになぜか身体が眠ろうとしない。


 ロネは窓の外を眺めた。

 けして夜がこないこの場所は、空が暗くならない。

 里の者達が眠る時間になっても、外は明るいままだ。

 窓を開けて、空を見ると、そこには眩しい太陽の光が見えた。


 暖かいその光は、戦いで気を失ってここで目が覚めた時に、自分の手を握っていたユトの暖かさを思い出した。

 ユトとロネ。その性格は正反対だ。

 両親に愛され、その大事なものを奪われて人を恨み、そう思いながら生きていたロネ。

 ユトは両親に愛されず、酷い仕打ちを受けたというのに、人を憎まず優しさで生きていこうとしていた。そしてここではディルオーネ討伐の為に、ロネと共に戦いの中心となっていた。

 ロネは復讐に燃える炎だとすると、ユトは人々を照らす太陽のように思えた。

 炎と太陽、なぜ同じ光るものでありながらこんな違うのか。

 なぜユトは自分に対し、あんな優しい態度でいれるのか。

 ロネは複雑な想いを抱えた。ユトに何かの感情を抱いている。

「なんであいつに……」

 なぜだろう? ユトのことを考えると心の奥が複雑な気持ちになる。

 最初は憎き両親の仇である者の息子だからと殺そうとすら思っていた相手だ。

 ユトの父親が憎くて、憎くて、ならば父親のかわりに殺してやろうと思っていた。

 ロネの両親が殺されたのだって、ライトブラッドに怒りを燃やしたディルオーネが八つ当たりにやったことだった。

 しかし、だからこそユトはロネのディルオーネの好きにさせたくないという気持ちに協力した。

 自分と同じ、ライトブラッドと人間の混血という同じ境遇だからこそ共感しあえる部分もあったのかもしれない。

 彼は自分がロストルーゴの者に連れていかれそうになった自分をかばってくれた。

 母の同胞であるライトブラッドの里が危ないとわかると、共に行った。自分には関係のないことだと無視して逃げることだって可能だったはずなのに。

 ロネの両親が殺された原因には自分も関係してるから自分がやったことだから責任を取るといった。

 自分にも血が流れているということで、共にここを守る為に戦った。

 共に戦い、そうしているうちに、何か変わったのかもしれない。

 そのおかげでディルオーネを討つこともできた。

 憎き仇だった張本人を討つことができたのだから、もうユトを憎む理由もないのかもしれない。

 ロネは感じていた。ユトは共に戦った仲間であり、自分のことを受け入れてくれる存在だと。


このまま彼と別れていいのか?

人間と異種族の混血という同じ境遇だからこそ共感しあえる部分もあったかもしれない。ロネの混血のことで悩んでいた苦しさ、それはユトだけがわかることだ。

 かつて迫害されていた自分と同じ境遇だからわかちあえる。そんなパートナーにもなれるかもしれない。

彼となら、やっていけるかもしれない。自分を受け入れてくれる、と。


「そんなはずはない、あいつの言うことはまやかしだ」

 ユトが混血になったせいで、ディルオーネは自分達の両親を奪う引き金になったのだから、原因はユトにあるといっても過言ではない。

 しかし、ユトはそんな自分を受け入れてくれた。

 ユトは初めて会った時、ロネに自分が殺されそうになった時も、恐怖におびえることもなく、「君が望むのならそうすればいい」と微笑みながら答えた。

 あの時は異常だと思った。自分が殺されることに恐怖を抱かないだろ。

 しかし、あれもユトの優しさによる個性だったのかもしれない。

 ユトは普通の少年ではないと思えた。しかし、その奥底には優しさがあったからなのかもしれない。親を殺され、混血により迫害を受けた自分はその怒りや憎しみをユトを殺すことで晴らそうとしていた。

 しかし、ユトは逆に混血になったことを運命だと、世界を愛することを受け入れて優しさを得た。自分と同じ混血という立場にありながら、考え方も反対だったのだ。

「私は……」

 このままユトと別れていいのか……?

 ここで別れてしまえば、永遠に二度と会えなくなるかもしれない。

 共に戦ったという記憶もやがて風化していくだろう。そうなってもいいのか?

 自分のことを忘れ、ユトはまたもや孤独な旅に戻っていく。彼を一人にしていいのか?

「何を……すればいいのだろう……」

 ロネはとにかく、心の感情が落ち着かない。こんな気持ちを抱いたことはないと。


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