ユト、父との戦い
第20話 ユトの説得
ユトとディルオーネは剣を交える。
ディルオーネがユトを斬りつけようとする度に、ユトは剣で防御した。
ユトの攻撃など、ディルオーネにかわすことくらい簡単だ。
「ふん。腕はなまっていないようだな」
ギラリと輝く刃が交じり合う。
ユトはミグレから受け継いだその大切な剣を、父の説得に使っている。
ユトはディルオーネから距離を取り、剣を向けたまま説得した。
「父上っ! こんなことはやめてください! ここには何もせず、帰ってください!」
ユトはなるべくディルオーネに傷をつけないようにと、説得にいそしんだ。
「お前は実に愚かだ。それだけの力を持つほどに成長するならば、あのまま普通に家で大人しくしていればよかったものを」
ユトがもしもディルオーネに家を追い出されずにあの場所にいれば、立派な影戦士の跡取りとして仕事をこなせただろう。
かつて、自分を強き戦士として育てていたはずの父に、その力で対抗しているとはなんとも皮肉なものだ。
きっと、父は自分にこの強さを自分の思う通りに継がせたかったのだろう、と。
「俺が混血だからなんだっていうのです!? そんなのここの人達には関係ない!」
ディルオーネの罵倒に耐えながらユトは必死で父親を説得しようと声を挙げた。
「種族なんて関係なく、みんなで生きていけばいいじゃないですか! なぜこんなにも力で支配しようとするんです!? それぞれだって生き方があるのに!」
「なぜだ? もとはと言えば、お前があんなことになったからだろう。こいつらはお前を混血にした仇のはずだろう? お前の為に、汚れたライトブラッドの血などあってはならないのだ」
「俺は彼らを恨んでません! 世界には優しい人がたくさんいることだって知っている。みんながあなた方のように迫害するような人ばかりではないと!」
「それは所詮きれいごとだ。お前には何がわかる? 代々伝わる家系を守っていかねばならんとしてきた私の気持ちが。その息子が使い物にならなくなって、妻を失った私の気持ちが」
「だからといって、母上だってこんなことを望んでるとも限らない! 父上が、もっと母上を支えていれば、母上だって死なずにすんだのかも」
その言葉に、ディルオーネは頭に血が上った。
「ふざけるな! 何もかも、お前のせいだ! あの青年も許せんがお前の勝手な行動も許せなかった! 私の思う通りにしなかったこともだ! ラーナがなぜ死んだ!? お前のことで絶望したからだろう!」
ディルオーネは自分の息子に責められているようで、気分が悪いのだ。
ユトにとってもこれは傲慢だとはわかっている。母のこともすでに死んでしまったものをどうすれば救えたか、などは今更考えても意味はない。
「元々、こんなやつらがいたことがあってはならない! お前を助けたというものだって、あんな場所にいたからだ! 助けを望んでいるわけでもなかったお前に勝手に秘術を使い、そして取り返しのつかないことにした! あれならお前があそこで死んでいた方がずっとマシだった!」
ディルオーネにとっては、全ての元凶を生み出したライトブラッドが憎くて憎くてたまらないのだろう。それならば実の息子が死んでいた方がましだったくらいだと。
ロネの父親を殺害したのだって、本当はレネオット自分の元から逃走したからではなく、ライトブラッドの女性と結ばれたことに、怒りを感じていた八つ当たりのようなものではないのか。個人の感情による八つ当たりだ。いいはずがない。
「ここまで来て引き下がれるか!」
ディルオーネは息子も死ねばいいとばかりに、本気で剣を振りかざしていた。
そのディルオーネと対等に渡り合える戦闘能力をユトは身に着けていた。
それはミグレの教えが良かったからだろう。
「どうした息子よ! 実の父は斬れないだとか、そんな精神だからこうなるのだぞ!」
実の父親を直接斬るなんてことはできない。なので回避だ。
説得をすることが目的なのだから、ユトは直接ディルオーネに語り掛ける。
「こうして俺達と戦っていると、無駄に命を落とすことにもなりかねないんです。ここを支配するだとか、ライトブラッドを殺すだとかそんな考えはやめて、あの屋敷へ帰ってください」
「ふん。その無駄な正義感が身を滅ぼすということがわかっていないようだな」
ディルオーネは手加減なしで実の息子を斬りつけようとするが、ユトは防御するか回避するかの行動をとっていた。
ユトが説得している間も、周囲では喧騒が巻き起こっていた。
部下達がカイナ達を叩きつける勢いで武器を振るい、カイナ達はそれらをかわしながら打撃を与え、自分の身を守る。
中にはやはり打撃ではなく、自前の魔法である閃光をほどばすものもいた。
もちろん、人間に効くわけもないのだが。
「お前らの魔法なんかが効かないということくらい、わかっているだろう」
ディルオーネとその部下達には魔法を避けるくらいは可能だ。
射撃に当たったとしても、その光弾をかわすことなど、容易いものだ。
どちらにしろ、その魔法は人間の身体を通り抜けるだけなのだから。
しかし、これでいい。カイナ達は部下たちを足止めしてくれてさえいればいいのだ。
「みんな、頼む」
「おうさ!」
ロネにそう言われると、カイナ達はさらに戦術に力を入れて動く。
とにかくディルオーネとその部下達と乱闘を繰り広げた。
カイナは押し進めるがごとく、敵にさらに蹴りや打撃を与えていった。ジョウ、マーラ、ジーク達もそれに加勢する。
そうやってひたすら攻撃していれば、こちらがやられることはない。
かすり傷一つ負わない男性達は狩りで鍛え上げられた持前の素早さを生かす。
「いくぞ、ディルオーネを狙え!」
装飾品で一気に魔法の威力をためたカイナ達は、魔法で光の玉を作り上げ、ディルオーネにめがけて発射した。
もちろん、彼らが魔法を使っても、人間であるこの敵達には効かない。
それでも威嚇にはなるのだ。
そして光で油断させた隙に、体術で攻撃する。
「くそっ! 散れいクソどもが!こんなもの、効くわけないだろう」
ディルオーネは身のこなしで彼らの攻撃をかわし、剣を振り上げた。
しかし、ディルオーネとしても、それぞれの魔法の威力は効かないとしても、素早さの高いカイナ達の攻撃を避けるのは大変だ。
「それえ! 押せえ!」
皆で一斉にディルオーネに突進すると、ディルオーネはそれをかわすために、高く跳んだ。
そして、剣で薙ぎ払うように威嚇すると、ディルオーネは辺りを見渡した。
「あいつは、バカ息子はどこへ行った」
カイナ達の攻撃に気を取られていたうちに、先ほどまで目の前にいたユトの姿が見えなかった。ふと気が付けば周囲にユトの姿がないのだ。
ディルオーネはカイナ達に気を取られ、ユトの姿を見失ってしまっていた。
ぐるりと周囲を見渡したがどこにもユトの姿は見当たらなかった。
先ほどまで、自分の目の前にいたのに、いない。これはやられたのではなければ、逃げたたのか、とディルオーネは思った。しかし、一つの考えが思い浮かぶ。
「あいつ、おじ気づいて逃げ出したか」
ディルオーネは嘲笑した。
真面目に戦っていたと思いきや、実際は敵前逃亡の卑怯者だと。
ユト達はディルオーネに仲間達の攻撃が効かずに無駄だとわかると、自分は無責任に仲間達を置いて逃げ出したと。
「やはりな。所詮は自分の身の方が大事だろう。自分を混血にした種族を助けるつもりなんてないのだ」
ライトブラッドの味方をし、自分を説得しようとしてはいたが結局は逃げ出す。とんだ卑怯者だと思った。仲間達には戦わせておいて、肝心の自分は逃げてしまうのだ。やはり自分にはかなうはずがないと諦めたのだろう。
しかし、ディルオーネはもう一つ気付いた。
「あの小娘もどこへ行った。奴と一緒に逃げ出したか」
よく見ると、最初にここへ来る際に一緒にいたはずのロネの姿もない。
「やはりあの娘もしょせんは子供。大人にかなうはずもないということがわかったか。あのロストルーゴから逃げ出した時のように、私との闘いも逃げたのだ」
ディルオーネは笑いながらカイナ達へと叫んだ。
「お前ら、あいつらは逃げ出したぞ! こんな戦いになんの意味がある?」
先頭をきっていたリーダー達がいないのだから、残るはこのライトブラッドの戦士達だけだ。
リーダーがいないのならば、このままここを押して、先へ進むことも時間の問題だろう。
もうここを先導していた二人がいないのだから、ここはやがて力任せにできる。
このままここを制圧して、土地を奪い、男共を殺し女子供を捕らえ、なおかつ息子を始末できるのならばディルオーネにとっては都合がいいと思っていた。
自分を阻止しようともくろんでいた息子の姿がないのだから、ここは自分の勝利も目前であると思ったからだ。
「うるせえな! お前がとっととひけばいいだけだろ!」
「そうだ! ここから出て行けばいいだけだ!」
カイナ達はディルオーネに対して罵倒した。
その言いざまがディルオーネには気に入らなかった。
やっかいな二人はいなくなったというのに、まだこいつらがいる、と。
「くらえ!」
カイナ達は蹴りや打撃にさらに力を増幅させて攻撃した。
ディルオーネが攻撃をかわしつつ、ふと周囲の木々を見上げると、探していた人物を発見した。
入り口の結界。ここには山だけに周囲には背の高い木がたくさんあり、その中のうちのそれぞれ違う木の上に、二人は枝の上にかまえていた。
「やつら、あそこにいたか」
ライトブラッド達が地上で戦闘をして、そちらに気を取られているうちに、二人は木に登り、逃げたのだろうか、とディルオーネは思った。つまり、彼らに時間稼ぎをしておいて、この場から離れたのだろう、と。
ユトは西の方角にある木に、ロネは東の方角の木に登っていた。
二人で同じ場所に逃げるとそこを狙われたら終わりだからこそ、別々に逃げたのかもしれない、と想像する。
「自分達は安全なところにいて、あとは仲間達がやられる姿を見物しているだけのつもりなのだろう。あいつの考えそうなことだ」
ディルオーネから見ればユトとロネが何を言っているのかは聞こえない。なので二人が考えていることもわからない。
地上と木からは離れているからだ。
「くたばれディルオーネ!」
カイナ達はディルオーネ達への攻撃を続けている。
さすがのディルオーネも複数同時にかかればてこずる。
木の上に目をやると、ユトとロネが何かをしようとする構えが見えた。
手を前に突き出し、まるで何かを発射するかの素振りだ。
「ほう、仲間に私の相手をさせて、その隙に私を狙おうというわけだ」
ディルオーネには二人が何をしようとしているのかをすぐに察することができた。
「ふん。堂々を魔法を撃とうとするなんて、そんなものが通用するか」
ユトとロネが光魔法を射撃しようとしているのだとわかったのだ。
「あいつらは木の上から魔法を撃つつもりだろうが、私には、そんなもの効くわけないだろう」
上の方から来るのであれば、魔法の角度も見えるのだから、そんなもの避けられるに決まっている。
それをロネとユトは二人でやろうとしているのだろう、とディルオーネは考えた。
「別々の場所から魔法を撃てばどちらかのものは私に命中するからと狙っているからだろう。二人でやれば可能性は倍だからな」
一人で撃つよりも、二人で撃てば命中する確率が上がる、それを狙っていると考えたのだ。
「お二人が魔法を出すまで俺達で時間稼ぎをするんだ!」
カイナはそう叫んだ。
ジーク、ジョウ、マーラの三人も手を抜かない。
カイナ達は四人がかりで体術を使い、ディルオーネと部下が自分達を倒して二人のところへ行こうとすることを阻止する。
「ふん、お前ら雑魚の相手をしている暇はない。お前らを始末して私があそこへ登ってやつをしとめればいいだけだ。今すぐあいつらのところへ行ってやろう!」
「させるかよ!」
カイナはディルオーネの腹に一発の蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
その蹴りをくらって、ディルオーネはよろけた。ずどん、と地面にしりもちをついたのだ。
ディルオーネが躓くと、一瞬の隙ができる。
「くそ……」
ディルオーネが立ち上がろうとする動作をしようとした瞬間だった。
マーラがユトの方角へと右手を挙げた。
それと同時に、ジョウがロネに左手を挙げる。
「お二人とも! 今です!」
とカイナが大声で叫ぶ。
すると、ユトとロネは手を掲げ、何かを発射しようとしていた。
お得意の魔法である。木の上から発射すれば、確かに自分達を危険におかず、一方的に標的を攻撃できるだろう。
「行け!」
ユトとロネは息を合わせたかのように、同時に魔法を放った。
莫大な光が放出された。それは光の速さでだ。
二人は宝物庫で見つけた装飾品により、より強い魔力が増幅された光の弾を打ち出したのだ。
正面から魔法を加えるのでは行動が読まれてしまう。
「お二人の魔法が来るぞ! 離れるんだ!」
「おう!」
「あ、待てお前ら!」
カイナが叫ぶと、ジーク、ジョウ、マーラ達も一斉にディルオーネのもとから退避した、そのままその場所から全速力で走り、ライトブラッドの里がある方へと去って行ったのだ。
混血なあの二人の魔法はライトブラッドにもダメージがいく。その魔法が自分達に当たらないようにだろう。
あるいは恐れをなして戦いを捨てて逃げたのか。
「くそ、逃げたな卑怯者どもめ!」
ロネとユトの魔法が発動したことを瞬時で目でとらえると、ディルオーネは地面をけり上げるように素早く立ち上がり、体制を立て直した。そして部下に叫んだ。
「お前ら避けろ!」
「はい!」
部下たちが一斉に散り、それぞれがバラバラな方角に動き出す。
そのまま光の弾がディルオーネ達の元へ降り注ぐかと思い、彼らは退避したのだ。こうやって散ればあの魔法は回避できると。
そしてもちろん、鍛錬を積んだディルオーネには今更こんな魔法など避けるのはたやすい。
「ふん。こんなのも私に命中するわけないだろう」
ディルオーネは自分に向かってくるであろう魔法の位置を見極め、回避の姿勢に入った。その時だ。
「なに……!?」
二人の放った魔法の光は地面に向かって撃っていたように見えたが、その魔法は空中を突っ切るように光の刃が地面に落ちてくるのではなく、戦闘が繰り広げられているはずの場所ではなく、そのまま通りすぎていったのだ。
ユトとロネが放ったのはディルオーネ達のいる地面ではなかった。
これではディルオーネ達には当たらない。ディルオーネ達のいるには直撃する方向ではないのだ。
魔法が放たれた光の弾は背後の森へと吸い込まれていった。
自分たちに降り注ぐ攻撃かと思いきや、それは予想外の場所へと飛んで行った。
「ははは! まさかこの状況で魔法を投げる場所を間違えるとはな。あいつらの魔法は狙いを外したのだな。へたくそ共め。仲間にも逃げられて、災難だな」
もうあの二人の仲間もこの場から逃げ出した、自分達を邪魔するものもいない。
邪魔者がいないのだから、あとは手下を木に登らせて仕留めればいいだけだ。
ディルオーネがそう算段したその瞬間だった。
突然まぶしすぎる光が地面にほどばしったのだ。
まるで巨大が岩が落ちてきたかのように、強い衝撃が大地に走った。
その衝撃は地面をえぐるように穴が開き、土埃が舞った。
ディルオーネを含め、その部下達もが一斉に吹き飛ばされたのだ。
「ぐああっ!」
土煙が舞い上がり、周囲が見えない。自分達にいったい何が起きたのかもわからないまま、その場にいた全員が衝撃の痛みにより叫んだ。
土埃が収まると、そこでロネとユトが地面に降り立ち、彼らを見下ろしていた。
「お前達のことは魔法では狙っていなかった」
ロネが人間たちを見下ろしてそう言い放った。
「な……にが」
土埃によりくらんだ視界、口の中に砂が入り込んでうまくしゃべれないディルオーネに、ユトは先ほど魔法が直撃した先の方向を指さした。
「あそこに魔鏡を仕掛けておいたのさ」
ユトが指す方角に会った太い木に、巨大な鏡が斜め上の角度に向くようにとくくりつけられていた。
それは宝物庫で見つけた、ライトブラッドのそれぞれの強さを測る魔鏡だった。
本来は光を反射させてそのまぶしさで能力を測るものであり、同じようにそこへ魔法を打ち込めばその弾も反射される。通常の鏡ではなく、他の武器同様特殊な素材で作られた鏡だから魔法をぶつけても表面も割れないのだ。なので跳ね返す。
そこに二人の魔法をぶつけたわけだ。カイナ達にディルオーネの相手をさせて、時間稼ぎをしてもらい、その間に準備をする。
この鏡はあそこにあった道具同様、特別な素材で作られており錆びないがごとく、強固な物体である。
通常のライトブラッドの光魔法ならばただ光を反射させるだけで同族にも人間にも効かない光を映し出すだけだが、二人の混血の血ならば、それを人間にダメージを与えられる弾を作り出せる。
それにこの鏡へとぶつければその威力も反射させられるというわけだ。
なのでわざとこの鏡を斜め上に設置することで、その光を反射させて下の方向の地面へとぶつかるようにした。
普通に堂々と魔法を放ったのでは戦闘において熟練者なディルオーネはきっと避けるだろう。
ならば直接命中させるよりも、あえて違う方向へ放ち、油断したところへ直撃させる。なのであえて、鏡を利用して後ろから狙うつもりだったのだ、
装飾品により魔力を増幅させ、鏡を設置することでそちらを狙い、魔法を回避させることもなくなるように、あえて戦闘の地形からは隠すように設置していた。
最初は地上で全員で一斉に乱闘を起こし、時間稼ぎをしておく。
その中に紛れてユトとロネは木の上へと登る。
そして仲間であるカイナ達には魔法が当たらぬよう、退避させる。
そして二人が一斉に巨大鏡に魔法を打ち出す。その威力により、その場に残されたディルオーネ一味だけが大ダメージを受けるというわけだ。
凄腕の鍛錬者であろうと、倒せるそういう作戦だったのだ。
ロネにとっては、憎き男は痛い目を見させたいということで、この作戦はいい方法だと思っていたが、ユトにとってはディルオーネを殺さない方向でいくはずだった。
この作戦としては、戦闘中にディルオーネを説得し、その場で帰らせるということを目的にして計画していて、この方法は使いたくなかった。
なるべく説得して、自分の足で帰ってもらいたかったというのが本当は理想な形になるはずだった。
しかし、やはり先ほどの戦闘でディルオーネはそれを受け入れる性格ではないと判断し、やむなくこの作戦を実行するしかなかった。
もしここで帰らせることができなかったら、里に侵攻されるのは間違いないので説得がダメならこの場で討つしかない。
最悪の手段ではあったが、やはりディルオーネの性格には理想の形なんて通用するはずもなかったのだ。
ライトブラッドの力は覚醒させれば体力を向上させる。そしてその血はさらに光が増す、それでいて人間の血も混じるので人間にも攻撃できる。
ロネもまた同じく、人間との混血だ。だから敵には光と痛み、両方を与えられる。
大きな落雷を落とした、それを一斉に放ち、ディルオーネの身体を吹き飛ばした。
ディルオーネはその衝撃により、身体ごと吹き飛ばされたのである。
「うっ、ぐう……」
まるでうめき声のようにうなるディルオーネは服がボロボロになり、大きくはだけている箇所もあって、その皮膚からは大量の血が流れていた。その身体の下には真っ赤な血だまりができている。
光魔法の衝撃で身体中が地面に叩きつけられ、その衝撃が体中を突き刺し、そして皮膚が擦り切れて出血したのだろう。恐らく臓物もかなりの衝撃を受けている。
彼の部下達も同じように、身体を動かそうとしなかった。
「まだ息がある」
ディルオーネはうめきながら苦しそうではあるが、まだ死には至っていない。
しかし、もう身体を動かすこともできないほどに痛みにより衰弱しているのだろう。衝撃で身体のあちこちの骨も折れている。なのでもう動くこともできない。
ロネは両親の件で憎んでいた男をこうすることで心が晴れるかと思ったが、ここまで無残な姿になった彼を見て、なぜか戸惑いの気持ちが出た。
憎くて憎くて殺したかったほどの相手。こいつを倒せる力が自分にないのならば、せめて息子だけでも始末しようとユトに接触していた。
結果的にはそのユトと手を組むことになり、こうして自分達の手でこうすることができた。
しかし、いざ体中から血を流し、瀕死になった姿を見ると、なぜか気持ちが晴れない。
「こいつをどうする? このままとどめをさして処分した方がいいのでは?」
ロネとしてはいつか自分の手で殺してやりたいと思っていた相手。
ならばここで直に自分でとどめをさせばこの戸惑いの気持ちは晴れるのだろうか?と思った。
しかし、ディルオーネはもはや立ち上がることもできないほどの状態だ。弱り切って目の前の敵から逃げることすらもできない。
「く……そ……」
ディルオーネはプライドによる悔しさを嚙みしめていた。
どちらにせよ、これだけ血を流しているのならばやがてディルオーネの息はそのうち途絶える。ととめをささなくても、いずれ死ぬだろうというのは目で見えていた。
ユトは目の前で倒れる父の姿をじっと見つめた。
自分にとって力ではかなわなかった相手を、こうして自らの力で伏せさせたと。
出血の量が激しく恐らく残された時間もそう多くもないだろう。どちらにせよ、もい助ksrsない。
ユトは父のこの姿を見ていて、何か感情が沸いてきたのか、ロネにこう言った。
「ごめん、父上と二人だけで話させて」
このままとどめをさせば戦いは終わるというのに、ユトは何か話したいことがあるようだ。
「とどめをささないのか。早くなんとかしてしまった方がいいのでは……」
「うん。でも、何か言わせて」
二人が何をしようとも、どちらにせよこの状態のディルオーネはもう動けないだろう。
ロネも弱り切った相手に自分がとどめをさすのはなんだか後味が悪いという感情があったのか、ユトのその真剣な表情に任せておいた方がいいとも思った気がした。
「……わかった。あとは任せる」
「ありがとう」
ディルオーネをユトに任せ、ロネはその場からそっと離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます