第19話 戦闘開始

 一週間が過ぎた頃、異変が起きた。



「ミジーナ様! 結界の近くに何者かが現れたようです!」

 ユトとロネがここへ来てから、いつディルオーネが来るかわからないと結界の傍に見張りを立てることになったのだ。

「いよいよあいつらが来たのだな」

これまでは結界はけして破られることのないと見張りなど必要なかったが、やはり見張りの者をおいて正解だった。

「やっぱり来たか。まさかこんなに早く来るとはな。ここへは結界によりけして人間は寄せ付けないはずだが、なんらかの方法を使ったのだろう。もしかしたら結界も通り抜けられるかもしれん」

「すぐに行きましょう!」

 ロネとユト、そしてカイナ達を連れて出動する。

 そして里の者に通達をして、女性や子供、老人は身を隠し、戦闘に参加しない男達はいざという時の為にその者達を守るという姿勢に入った。

 立ち向かうのは選ばれた戦士たちだけだ。

 子供にとっても、母親たちが傍にいると安心だろうということだ。

 無駄な死者を出さないために、最低限の努力は惜しまない。

 こうしてロネやユト達は戦闘態勢に入り、結界の場所へと向かった。




 里を出て、結界の道へと向かうと、すでにそこには数人の男達がいた。

 すでに、結界を潜り抜けて、こちらの陣地に入っている。

 こちらの軍勢に気が付くと、男達は声を挙げた。

「そちらからお出ましか。ご苦労なことだ」

 その声と外見、そして護衛達、間違いなくディルオーネの姿だった。

 護衛達は鎧を身に着けていることにより、防御が完ぺきなことからこれが本気の侵攻だということができる。

 しかし、気がかりなのは護衛の数がそんなに多くないことだ。

 ディルオーネを囲み、ほんの五人ほどしかいない。

 わざわざ侵攻へと来たのに、なぜこんな少人数で訪れたのか。


 そしてなぜ人間であるディルオーネが結界を通り抜けてきたのか。

「どうやって結界を潜り抜けてきたんだ!?」

 ロネが威嚇するように声を挙げると、ディルオーネはにやりとした表情で手首につけた装飾品を見せつける。

「ライトブラッドの結界はその血を持つ者にしか通れない、か。だが私にはこれがある」

 ディルオーネは自分の手首を差し出した。手首についていたのは金色のリングに赤い宝石が複数ついている。その宝石はわずかながら光っていた。しかし、鮮明な輝きではなく、濁っている。

 まるで混血であるロネ達と似た血の色のように。

「なんですかそれは?」

 この結界を潜り抜ける道具のようなものだが、それはいったいなんだというのか。

 ユトは自分の父であるディルオーネに問う。

「お前の血を使ったのだよ。これはお前の血液によって作られた特殊なものだ」

「血?」

「あの時、私はお前の血を採取して、身体を治す方法はないかと裏で使える極秘の研究室へ持っていった」

 ユトは思い出した。そういえばディルオーネは息子が混血になっていた時に、何か手がかりはないかと血を採取していた。それを何かの研究に使うかもしれないと。

「この血液を使い分析させた。そうすることこの宝石にその力を流し込めば、ここも通れるわけだ。ライトブラッドの血が半分混じっているのだから、それを使った装飾品を作り出せば、その血の力が使えるというわけだ。これを作り出すには長い時間がかかったがな。そのせいでこの場所にすぐに来ることができなかった。しかしやっとだ。ようやく完成したのだ」

 それがディルオーネがユトを追い出してからすぐにここへ来ず、この日まで長く時間がかかっていた理由だったのだ。

「しかし、この血の力を増殖させるのにはほんのわずかな数しか増産できなかったがな。この力を分け与えられたのはわずかな数だけだ。だから護衛は限られていた。だからこそ、募った中でも特に凄腕の者だけを連れてきた」

 集落一つを侵攻に来たのに、護衛の数が少ない理由はそれだろう。

 しかし、それならばロネ達としては好都合だ。

 ユトの血があったからこそ、ディルオーネ達は結界の中へ入ってこられるようになってしまっていた。

「何がなんでもここを通すわけにはいかない!」

 カイナ達にとっては故郷に繋がるこの結界から先に通すわけにはいかない。

 一度に大勢を追い返すほどの力を見せ、ディルオーネに力を見せつけることが目的だ。

 カイナ、ジーク、ジョウ、マーラの四人も戦闘態勢になる。

 そしてロネとユトも構えた。

「行けい! こいつらを叩きのめすのだ」

「はっ!」

 ディルオーネが合図をすると、部下たちが一斉に襲い掛かってきた。 

「俺達の住処を守る為だ! ライトブラッドの誇りの為にも、あんなやつら追い払え!」

「お前らなんかに、ここは渡さない!」

 カイナ達は武器を構え、走りかかろうとしていた。

「目的は彼らを追い返すこと! みんな絶対やられないで!」

 とユトは大きな声で言った。

「ふん。愚かな息子が。自分を混血にした者どもをかばうなんて」

 ディルオーネもまた、手下たちとともに戦闘に体制をとった。

「男は容赦なくやれ! 里に侵攻できたら女子供をなるべく殺すな! そいつらは生かして奴隷にする!」

 女は娼婦として価値がある。子供は育てれば労力になる。

 年寄りは必要ない。男は攻撃をするのだから容赦なく殺していい。

 なのでここにいるユトやカイナ達は殺してもいい対象だ。

そんなもの許すわけがない。


 ディルオーネの部下達はカイナ、ジーク、ジョウ、マーラ、そしてロネが相手になることにした。そうやって時間稼ぎをしてもらうのだ。

 その間にユトが父親であるディルオーネを説得するというわけだ。

 それぞれがライトブラッドの魔法を強化させる装飾品を身に着けた。あの宝物庫にあったものだ。

ロネ達は事前に打ち合わせをしていた。


息子であるユトがディルオーネの説得に向かう、それまで他の者達は周囲の部下達をなんとかしする時間稼ぎをしてほしいと。

 負ければこの地を支配され、住民達は奴隷となる。そんなことに屈するわけにはいかない。




 戦闘が始まり、全員がかりでの乱闘が始まった。


 それぞれが攻撃手段に出て、激闘だ。

 まずは部下をなんとかせねばならない。

「くらえ!」

 ディルーネの部下の一人がカイナを剣で斬りつけようとした。

「こんなもの当たるかよ!」

 カイナは軽い身のこなしで、避けた。

 ライトブラッドの男性は、その身体に流れる光る血を輝かせるかのように、全身をを動かすごとに身体能力がある。

 今ここにいるライトブラッド達は自分達の住処と仲間を守る為に本気だ。

 光る血を持つ民族にとって、人間の攻撃を避けるなんて簡単だ。

「くらえ!」

 そして、避けたまま部下の腹へと蹴りを加えた。

「ぐはっ」 

 なるべく血を出さない為に直接的な攻撃は武器ではなく打撃だ。

 武器は威嚇であり、攻撃は即死させないためだ。

 剣は護衛用に携帯はするが、いざという時にしか使わない。

 基本は打撃だけでいい。その間にロネとユトがディルオーネを追い返すことが目的なのだから。

 しかしそこそこの打撃は容赦なくショックは受けるレベルの強さだ。

「そりゃ、くらえ!」

 そのままカイナは部下が腹を抱えて倒れたすきを狙い、足蹴りにした。

 ディルオーネの部下は凄腕を集めたと言っているが、光の速さをもつライトブラッドに素早さでは負けている。

 カイナを含めた四人の戦士はディルオーネの部下と乱闘をした。

「でやっ!」

「くそっ、こいつなかなかやるな!」

「まだまだ行くぜ!」

 ライトブラッドの光の魔法は人間には効かないのだから、使っても意味がない。

 なので戦闘は体術がメインになる。

 敵は防具をつけているが、その重さだけ素早さが下がるもとになり、カイナ達が俊足で打撃を繰り返すことにより、力で押されている。

「行くぞ!」

 ロネの手の中から光が巻き起こり、それを部下達に投げると、それははじくように爆発した。

 ロネは後ろで光魔法を発射させることに集中する。

 ライトブラッドの魔法は人間には効かないが、混血児であるロネの力は人間にも効く。

 多少の威力をはなつことにより、敵をふっとばすことくらいは可能だ。

 ロネは直接的な戦闘には他のものよりもやや劣る部分はあるが、その代わり魔法には長けていた。

 こうしてロネとカイナ達が部下の相手をしている間に、ユトはディルオーネの説得にかかった。


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