ロネの旅
第5話 占い師からの贈り物
ある都市にて、人々が行き来する。
いつも通りに仕事へ向かう人々、商売をする者など、様々な住民達が行き来をする路上。
そこへ、灰色の外套をまとった少女が歩いていた。
外套の中には、銀色の髪がわずかに見えている。もはや子供というよりは、大人に近い少女だろうか。
「今日もちゃんと旅の物資を補充しに行かなきゃ」
そう言って、その少女、ロネは足を進める。
あれから三年の時を得て、ロネは十五才になった。
背も髪も伸び、凛々しい顔立ち。手には母の形見のリングが輝く。首元には同じく形見のペンダント。
銀髪に金色の瞳、そして成長したその顔はは、まるで母親であるミリナの生き写しかのようだ。
母に似て、あの美貌を受け継ぎ、とても可憐な少女へと成長した。
この世界では十五才は成人という扱いだ。ロネの年齢はもう立派な大人である。
この世界でいう「大人」になったロネはあれから一人で立派に生きていた。
ディルオーネを討つという決意を固めた三年前から、厳しい道のりを乗り越えてここまで来たのだ。
ここまで生きる為に、様々な困難もあった。
旅の資金を得る為には仕事がいる。
ライトブラッドの混血ということで、差別対象になりかねないその身体では通常の仕事を探すのはなかなか困難であった。
だが、ロネには普通の人間とは違う部分がある。それは母から受け継いだ光魔法だ。その為に、ロネにはそこそこの戦闘力があった。半分は人間の血なのだから、生物にもダメージを与えられる。それで数多くの魔物と戦ってきた。
ある意味、これは父と母が自分の生きる為に与えてくれた贈り物だと思った。
それで外の洞窟や森に迷宮といった場所で魔物を倒し、得た品物を売って旅の賃金を稼いだ。
もちろん、それにはかなりの危険が及ぶ。混血児ということで、迫害されるかもしれないと、仲間を作ることができないロネはいつも一人だ。なので一人で戦うということは、いつ命を落とすのかわからない。
誰にも頼れないのだから、いつ死ぬかもわからない危険な生活も仕方ない。
女性ならば身を売ることでそこそこの金額が稼げるだろうが、それは絶対にやならないと決めていた。母がそれで苦しい目に遭ったことをよく知っているからだ。
そんなことをしなくても、戦う力があればロネはもう立派な大人の仲間入りとして、生きていける。
もちろん成人したとはいえ、やはり女性一人の旅など、安全は保障されない。
身体を売らなくとも、無理矢理男には襲われそうになる危険もある。夜になればあの収容所にいた男達のように、寄って来る輩もいる。その度にロネはうまくかわしてきた。
ロネはディルオーネの家族を探していた。しかし、ディルオーネの近くには近寄れない。自分があの娘だと知られのはまずい。
ディルオーネの血はロネに何かを感じさせた。
父親を殺しに来たあの時、その感覚を味わった。血がびりびりになっていた。憎しみがそうさせたのかもしれない。
しかし、自分がディルオーネに近づけば、あの時の娘だと察され。どんな目に遭うかわからない。
なので作戦を考える。
ロネは食料など物資を調達する為に町を歩いた。ここは活気のある町だった。
普段からロネは浅黒い外套を身にまとい、歩いていた。
ロネにとっては身体と頭まで隠せる外套は必須だ。ロネの銀髪と金色の瞳は母譲りのライトブラッドの娘とわかるかもしれない。そうなれば、いつ母のように迫害されるかもわからない。こうして正体を隠して生きていくしかないのだ。
ロネはディルオーネの特徴を覚えていた。
青い髪で、紫色の瞳。
息子を討ったことで、ディルオーネは自分に怒りを向け。対面することができるかもしれない。 相打ちになってもいい。どうせ自分の命など、両親がいないこの世界では必要ない。
「食料と、水と……」
旅に必要な物資を色々購入し、昼下がりにもなると腹も減り、休息を取りたくなる。
ロネは表通りにある食堂で休むことにした。
昼下がりの食堂は、ピーク時の真昼間ほど混雑はしていないとはいえ、そこそこの客層は入っていた。昼間だというのに、酒を飲むもの、ちょっと遅くなった仕事の休憩時間に昼食を食べに来る者など、目的は様々だ。
奥では料理人が慌ただしく調理をし、ウェイターが料理を運んでくる。
客が混雑する店内。その中でウェイターの一人がロネのテーブルのもとへやってきた。
「おまたせしました。ごゆっくりどうぞ」
ロネのテーブルに、一人前のメニューが運ばれてきた。
なるべく安い食事にしたいと思ったロネは、質素なパンとスープを注文した。
ロネは食事というものは、ただ空腹が満たせればいいくらいに思っていた。
どんなものを食べても、あの家に住んでいた頃の母の手料理ほどの味を感じなかったのだ。
もう二度と味わうことのない、あの懐かしい味。今はもう食べられないと思うと残念だった。
そう考えると味なんてどうでもいい。ただ生きる為だけに仕方なく食べるものだ。
ロネは注文したそのメニューをもくもくと口に運んだ。
外見を見られたくないので、食事中も常に外套とフードは外せない。
食事をする衣服としては不便だが、ロネがこれを外せるのは野宿と宿屋に泊まることができた時だけだ。人のいる町では素顔を出せない。
人に自分の外見を見られるくらいならば、多少不便であってもこちらをとる。
「ごちそうさまでした」
ロネはパンとスープを食べ終わり、食器を置いた。
すぐにでも店を出ようとたが、そこで隣の席にいる男性二人が話している声が聞こえた。
「俺、前にあの店に行ってみたんだけど、すっげえ当たった」
ふと、近くのテーブルで男達が話している声に耳を傾けた。なにか役に立つ情報が手に入るかもしれないと。こういうことがあるから食堂はある意味噂の情報源は良い。
(なんの話だろう?)
気になったので、その続きをロネはテーブルに座ったまま聞き耳を立てることにした。
ロネが聞き耳を立てていることにも気づかず、男はしゃべり続ける。
「俺があの子に告白するにはどの日にどんな場所がいいですか、って聞いたら、占ってくれたんだ。それで先週、あの占い師に言われた日にあの子を呼び出して告白したらうまくいったんだ。あの占い師のおかげだ」
どうやら話の内容は、気になっていた女性に告白をする為に、なんらかの導きをもらえたということなのだろう。
「だろ、あそこの角の占いは凄く当たるんだ。俺も前すっげえ当たった」
どうやら「占い」というものの話らしい。
この世には、人の良し悪しを占い、今後の為に導くヒントを与えてくれる占いというものがある。
ロネは占いなど、信じてはいなかった。当たるも八卦、当たらぬも八卦。
もし占いなどに自分の運命が占えるというのなら、父を失ったあの惨劇は避けられたかもしれないと思うと、それは悔しいだけだ。未来がわかるというのなら、なぜ人の運命を変えられないのか、と占いを信じる事はできなかった。
しかし、この男性客の会話で気になった部分がある。
「占いが当たる」というものだ。
男達の口調からして、これはただの占いの話ではないのかもしれない、とそのまま聞き続けた。
何か、その言葉にひかれてしまうのだ。
もちろん占いを信じているつもりはない。しかし、ただの占いではないのかもしれない。
しかし、今のロネは少しでも自分に有益な情報を探している。自分に役に立ちそうな情報であれば、なるべく拾いたい。
とりあえず知っておいて、それを今後信じるかはどうせ後で考えればいい。
「あの占い師。凄く評判なんだってな。それだけでもこの町に来た意味があるくらいだ。結構よそ者があの占い屋目当てにわざわざここまで来るってくらいだからな」
「俺ももっと早くあそこへ行けばよかったぜ。そしたらもっと早くあの子と付き合えたのに」
男性客たちは絶賛する。それほどまでの凄腕の占い師だというのだろうか。その占い師に会うために他の町の者がここへ来るというくらいに。
一体どれほどのものだろうか。ならば、その占い師を頼るものは多くなるのではないだろうか。
「ただなあ、占ってほしい内容によっては結構な金をとるからな。難しい占いほどに、大金を請求されるそうだぜ」
なるほど、それがなかなかその占い師を頼ることができないという理由か。
占いの内容によって、難しければ難しい程の金額を請求される。
「だよな。当たるかどうかわからない占いに、なかなかの金を出す勇気もないよな。俺はどうしても告白して失敗したら恥をかくのが嫌だったから、少しくらい無理をしてもいいかなと思った」
この男性客にとっての告白とは、ただの交際ではなく、いわるゆ今後の一生の人生を決めるであろう大きな出来事だったのだろう。
そして、男性客はこう言った。
「なんでも、探したいって人がいる時に、そいつがどこにいるかを当ててくれるんだと。行方不明の人とかも、その占い師の言う通りの場所を探せば見つかることがあるんだとよ。もちろん完全にじゃないけどな行方不明の子供の居場所を探してくれるってのも協力してくれるみたいだ。もしくはこれから会いたい相手を探してくれるとか」
ロネはその言葉に一瞬心を掴まれたような気がした。
探したい者を探してくれる。それはもはやロネがこれから探すであろう、ディルオーネの息子を探し出すことができるのではないかと。
「へー。そいつは頼りになるな」
「ただ、やっぱ難しい相談ほど、金がいるんだとよ。だからなかなか頼めないのが残念だ。
噂では金持ちのやつらが頼ったりしてるらしいけど、占っても出ない時は出ないと」
それでは完全ではないのではないか。ロネは一瞬期待したが、やはり占いはそんなものである。
「けど、これから自分が会いたい相手の姿を見させてくれるってのは便利かもな。恋人探しに役に立ちそうだ」
「よし、俺もまた今度行ってみようかな」
男性客たちはそう言うと、立ち上がり会計に行った。
隣の席に残されたロネは、その会話に興味は持った。
完璧ではないとはいえ、もしかしたらディルオーネの手掛かりを見つけられるかもしれないと。
食堂を出たロネは、会計の際にその占い師がどこにいるかを店員に尋ね、早速その占いの館へ行ってもみることにした。
もちろん、それが頼りになるかはわからないことくらい知っている。
先ほど男性客が言ってた通り、占いの結果が出ない時は出ないという。
それに、もしもロネが占ってほしい内容、ディルオーネの家族を探し出すというものが難しいと判断されれば、きっとロネには払いきれないほどの金額を請求されるかもしれない。
ロネに大金を払える金などない。しかし、その占いの館という場所がどんなものなのかは気になる。
占いなど、信じるつもりはない。しかし、ロネにとってはここで何か、ディルオーネの手掛かりを探し出すヒントがあるかもしれない、と思った。
藁にも縋る思いで、とはまさにこのことだ。
「そんなところで情報が得られるとは思えないけど……」
ロネは自然と足がその建物へ向かった。ダメ元なのだとわかっていながら。
ロネは店で聞いた占いの館へ行くことにした。
そこは占いが評判で稼ぎがいいと思われる店だけあって、その外見はこの町の他の建物より、ずっと豪華な見た目だった。まるで金持ちが暮らす豪邸のようだ。
レンガ造りの豪華な建物は、三階まであるだろう。屋根は赤く、窓は豪華にステンドグラスのような色合いのガラスが張られている。
やはり、ここに住んでいる者は只者ではないということが感じられる。
ロネには感じた。光でも匂いでもない、何か神聖なる空気を感じるのだ。
町の雑踏と違い、ここだけが世界から切り離された聖なる空間のような。
この中に、一体どんなものがいるのだろうか、と気になった。
「入ってみようかな」
ダメ元で入ってみようと思った。もしも占いの内容を言って、高額な金を請求されれば、そこで断って帰ればいいだけだ。そう思うと、ロネの足は自然と館の入り口に進んだ、
入口の扉は両開きになっていた。緊張しながらも、その扉を開いた。
重みのある扉を開くと、カランカラン、と扉につられている鈴が鳴る。
その鈴の音はまるで別世界の扉を開いたかのような気がした。
「ここが……」
まずロネの眼に入ったのは、その不思議な店内の構造だ。
店内はいたることろに紫のレースが飾られ、なおかつ色とりどりの蝋を使ったであろう燭台がともされていた。炎の色も様々で青色や紫の火が揺らいでいる。それだけで不思議な雰囲気を感じる。
店内にはところどころに、占いに使われる水晶玉らしきものから、謎の文字が書き込まれた銀色のオブジェに、まるで炎をかたどった宝石などが飾られていた。
そして、不思議と目を吸い寄せられるような絵画も飾られている。
普通の絵ではなく、不思議な形の紋章が浮かび上がり、それがますますこの店の不思議な雰囲気をかもしだす。
その時、奥のカウンターのような机から声がした。
「いらっしゃいませ。占いの館へ」
それはなんだか不思議な声だった。何か吸い寄せられるような不思議な特徴的な声。
カウンターに座るこの人物こそが、ここの店主であろう占い師だろう。
占い師は紫のローブを身にまとい、その顔をヴェールのようなもので顔を隠していたので表情は見えなかった。
顔は見えないが、ネイルには赤いマニキュアが塗られ、その指にはいくつもの銀色や金色の指輪が輝く。わずかに見える唇には、濃い赤色の口紅が塗られていた。その雰囲気がまた、不思議なものを感じさせる。
カウンターに座るこの人物こそが、ここの店主であろう占い師だろう。
「これはこれは、あなたのようなお嬢さんがこんなところへ。ようこそ」
その声からは若い女性とも思えるが、凄腕ということで、もしかしたら熟練の占い師かもしれない。もしも魔法の使い手なのならば、老いを感じさせる若さを保つ魔法を自分の身に使用していてもおかしくないからだ。
わずかにみえる身体からは年齢は推測されないがその雰囲気から凄く高齢な老婆の可能性もある。年齢不詳の女性だ。少なくともロネよりは年上だろうが、もしかしたらとても年上かもしれない。
「あの……」
ロネが何かを言いかけた。「ここはどんな店なのですか?」や「あなたは何者ですか?」といったことを聞きたかったのかもしれない。しかし、それよりも先に占い師が言葉を発した。
「どうぞそこへかけてください」
ロネは言われるがままにカウンターの前へ座った。
「ここは占いの館。人々を導く場所。ここに来るものは様々な理由を抱えています。ご用件はなんでしょう」
何かを言わなくては、とロネは聞いた。探し人が見つかるかもしれないと。
「ディルオーネという男を探している。そして、その家族を。事情があって、どうしても会わなければならないのです」
「なるほど、人探しといったところですか。では、手相を見せていただけますか?」
言われるがままにロネは手を差し出した。占い師は一呼吸おいて、ロネにこう言った。
「あなたからは何やら憎悪の炎が感じ取れますね。その人物はけして恋人や家族といったものではないでしょう。していえば、かつて大事な方をその者に奪われ、その原因となった者を恨んでいる…などでしょうか」
「……!?」
「あなた自身も、悲しみを秘めていますね。その人物を討てねばならないと」
占い師はぴしりとロネの考えていることを探り当てた。まさにロネの境遇を当てたその占い師に、驚愕した。
もしかして本物なのか、それとも、商売上わざと適当に言っているだけなのか。
「そしてあなたは人に言えない秘密を抱えていますね。その身体に流れる血はただの人間ではなく、まるで別種族の血も流れているかのような。そう、例えば光る血の種族など」
占い師はロネの正体を見破った。自分がライトブラッドの混血児だとばれてしまうのか。と一瞬恐怖した。しかし、占い師はそこへは何も言わなかった。
「ここではあなたはお客様です。人はそれぞれ事情があって、ここに来るのです。お客様の秘密を聞いたりはしません。お客様が何者であれ、私は誰構わず対等に占いをするだけです」
そこは咎められなくてほっとした。
しかし、ロネは気にしていたことを聞いた。
「あのう……ここって占う内容によってはとてもお金をとるって聞いたのですが……」
もしもここの占いで高額な金額を請求されるとなれば、ロネには余裕がない。
ただでさえ旅を続けるのにいっぱいいっぱいで金銭は常にいつもギリギリなのだ。
「そうですね。内容によっては。では……」
占い師は、ロネの掌を見つめてこう言った。
「代償は、あなたの血液というものでどうですか?」
なんと、請求されたのは自分の血液というものだ。金銭ではなく、身体に流れる血。なぜそんなものを要求するのか。
「私としては光る血というものは気になります。今回の占いに使うために、あなたの身体に流れる血をいただきたいのです」
ロネは一瞬考えた。どうせこの占い師には自分がライトブラッドの混血ということはばれている。高額な金額を払うよりは、確かに身体に流れる血を提供する方がまだ渡すことができる。
自分の考えることを言い当てたこの占い師はもしかして信用できるのかもしれない。
そうでなくても、自分に有益な情報は欲しい。
「わかしました。血を、渡します」
「了解です。では、腕を差し出して」
ロネが腕を差し出すと、占い師は小さなナイフのようなものを出した。
そして、ロネの腕にすっと線を引き、出血させる。一瞬痛みを感じたが、そこからは一筋の血が流れた。鈍く光る、ライトブラッドの混血。それを細長い小瓶のようなものに垂らした。
「血液はその者の心の中を最大限に表すもの。いわゆる、その人そのものの身体の一部。この血を使い、占いましょう。まずはここに手を乗せてください」
占い師は魔法陣が描かれた布を取り出し、そこへ小瓶に入れたロネの血液を垂らした。
じわり、と血が魔法陣に染み込み、ロネの血に反応するかのように、それは黄金色の輝きを発した。
「この術はなかなかここまで発動しません。それだけ、あなたの血は特殊ということです。普通の人間にはこの術は発動しません。あなたの血液だからこそ、この術は発動したのでしょう」
占い師いわく、この術は通常の人間に使用しても発動はしないらしい。ロネの異種族の血というものがあったからこそ発動したわけだ。
しばらくすると、何やら立体的な映像のようなものが浮かび上がった。
「あなたの探している人物は、この者ですね」
「これは……」
映像に表示されたのは茶髪の少年だった。ディルオーネの青髪とは違う。
しかし、特徴的な紫の瞳、ディルオーネと同じ身体的特徴を持つ、。
髪の色は違うが、それは父であるディルオーネに似たのでではなく、もしかするとディルオーネの妻である母の遺伝子なのかもしれない。外見はそんなところだ。
そして、腰には青い鞘に何やら不思議な紋章が描かれた剣を携えている。そしてその柄には三つの赤い宝石が埋め込まれていた。
そして、首には緑色のチョーカーを身に着けていた。
この少年に会ったことはないが、恐らくロネの血液にだけ反応したこの占いの映像に出ているということはそうなのかもしれない。
「こいつが……ディルオーネの息子……?」
ロネは探すべき人物の映像を見たことにより、心が沸き立つものがあった。
この少年こそがあの憎き男の子供。息子から、ディルオーネの居場所を聞き出せばいい。
自分が家族を失った悲しみを、あの者に感じさせるのだ。
「ここまではっきりと映し出せるということは、この者はここの近くにいるということです。居場所がここより遠ければ、濁り、ここまで鮮明なものは表示されません」
「ということは、ここの近くに……!?」
「ええ、恐らく」
近くにいるということは、意外と早くこの者と対面できるかもしれない。
「面白いですね。これは、実に私の研究道具を出しましょう」
占い師はそう言うと、カウンターの下から銀色の輪を取り出した。その大きさは腕輪くらいだろう。
「これを媒体として、力を封じ込めます」
占い師が机の上に置かれた魔法陣に、何やら力を込めると、魔法陣の光がその腕輪に吸収されていく。
「こちらを手首に装着してみてください」
銀色の腕輪に、魔法陣の光を詰めたもの、それをロネに差し出した。
「これは? 一体なんんです?」
ロネはそれを手首にはめてみた。
すると、不思議なことに、一瞬だけその周囲の空気が震えたような感覚がした。
ロネが拳に力を入れると、わずかながらその石は鈍く光った。
まるでロネの混血のように、その血の僅かな輝きのような光だった。
「あなたがもしも、その者に近づけば、その腕輪はオーラを増すでしょう。近づけば、そのオーラでわかります」
ロネはまさにライトブラッドの光魔法の力を秘めている。それならば、この腕輪の能力は増幅させられるということだ。
「なんだかあなたにはなんだか力を感じます。本来ならばそれ相当の対価を支払っていただくのですが、あなたにはただで差し上げましょう」
「いいんですか?」
「この腕輪の能力ははあなたの血液から生まれたもの。あなたの貴重な血液……身体の一部をいただいたのですから。それは持主に帰すべきというわけです。人を導くのが占い師の役目。時にはそんな気まぐれもあります。私はあなたのその感情に惹かれたのでしょう」
「本当に、ありがとうございます。こんなものまでいただいて……」
「いえいえ。私も久しぶりに面白い経験ができました。むしろお礼を言うのはこちらです」
腕輪を触るロネに、占い師は彼女に聞いた。
「本当に、それでよいのですか?」
「何がです?」
「あなたがその人物に何をしようとしているのかは問いません。もしも誰かの仇を討ちたいというものであれば、私は人殺しや犯罪を肯定するようなことはお勧めしません」
占い師は察しているのだろう。ロネがこの人物に会って何かをしようとしているかを。
それではこの占い師のやったことは、ロネの心を援助したようなものになる。
もしもただロネの一方的な理由でもしもこの少年を殺したいなどと考えているのであれば、それはディルオーネが自分の両親にやっていたことと同じだ。
それでもこの息子に会って、その父親がこんな非道なことをしたのだと伝えたい。せめてもの憂さ晴らしだ。そうしなくては、両親にされた恨みが晴れない。
「……ただの自己満足でやろうとしているだけです」
あえて、内容は伝えないようにすることにした。
「そうですか。では、ご武運を祈っています」
占い師に見送られ、ロネは館を出た。
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