第一章 第一節 魔界再建

 統歴384年。


 ときの魔王となったグラディウスは魔物に対し宣言した…


 「魔物と人間の戦争に終止符を打つは我ら魔物である。

 魔界の再建をできずに地上の統治ができるものか。

 汝らを導くは我が魔王の使命。なぜ我々が生まれたのか。なぜ魔界がこうも荒廃しているのか。

 我々には人間よりも力や魔力に長ける種族であるがゆえに傲慢でありすぎたのである。

 

 魔界はそんな我らに与えられた開拓の地であることを認識してほしい。


 我はここ魔城を起点に魔都を作り魔物が住みやすい理想郷の創造を宣言する。


 汝らの力を我らに貸してほしい。地上侵攻の熱き結束を魔界の開拓に見せてほしい。」と、



 全ての魔物がこのとき驚きと魔物がもつ野心に変貌を見せた。

 古来より地上の人間を喰らい、農地を荒らし、略奪し、村々を焼いてまわった魔物が農場を作り家畜を育てるようになったのだ。


ーーー


「グラディウス陛下、魔都は現在5ルーロの地点まで完成。キラドゥ山脈への街道はまもなく完成する頃かと。」


「そうか。ご苦労。キラドゥ山脈への街道が完成すれば各方面の物資輸送が捗る。

 とくに山脈のオークの地下都市メルサとの交通が容易になれば魔都の完成もより迅速なものとなるだろうな。」

 魔界の中心である魔城と魔都が完成すれば魔物たちは魔界の開拓により希望を持てるようになるだろう。

 キラドゥ山脈は魔城の周り全体を囲む険しい山々で西側の洞窟の奥底にはオークたちが住まう地下都市メルサが存在し、そこでは魔都の構築や街道建設に不可欠な鉱石が産出されている。

 キラドゥ山脈の各方面へ街道が建設されれば山脈外の村々との連絡もより容易になるわけだ。

 「街道建設にはより力を入れよ、魔都以外からもゴブリンやトロールを呼び寄せ早期完成を目指せ。」


 「承知致しました。

 それから、羅門の件になりますが、やはり西側の帝国アルカデンと東側のアクレシア聖王国からの圧力が強いですね。

 魔都までの距離はキラドゥ山脈もありますが途中建設中の砦が完成間近のこともあり対処はより容易になるかと。

 しかし依然として勇者パーティーと呼ばれる1団はかなりの戦力を有しており一階の魔物では太刀打ちできず上級魔族の戦力でも損害はかなり大きい状況です。

 羅門を封じるにも古来より謎多き羅門。現状の迎撃策では今後の内政にかかわる問題に発展する恐れが…」


 「わかってる、わかってるよ。」

 世界に点在する8箇所の羅門。

 俺の秘術をもってしても傷ひとつつけることがかなわなかった。

 現状は侵攻してきた人間に対して都度の迎撃を行うことが精一杯。

 ましてや俺が出向くことの方が事を早く鎮められる。

 魔王軍の再建もあるし、ゴブリンやスライムといった最下級魔族の鍛錬を勧めてる今、デュラハンやゴーレム、ドラゴンといった上級魔族の雇用はコストが高い。

 新政権の樹立に際して不透明だった魔界全体の政治体制を一新して、魔物には縁のなかった制度ばかり導入して混乱が続いてる。

 魔物には頭の悪い連中も多いだけに統治は難しいものだ。

 「被害を減らすためにも下級魔族の育成は大きな課題だ。これ以上の増税は今の魔界の生産力じゃ無理があるだろうしな。

 あと旧魔王派の連中は血の気の多い連中が多いから東西の羅門警備に集中させれば少しは落ちつけるだろう」


 「そうしますと、旧魔王派を人間たちに減らさせている気もしますが‥

 旧魔王派、キラドゥの北側に集中する北部連合は最北の羅門付近に陣をはり、いつ人間界に侵攻をするか‥」


 「北部連合ねぇ。」

 北部連合はインプやゴブリン、ウルフ族を中心にした旧魔王派の1団で戦争では常に最前線にいた精鋭連中だ。

 

 「北部連合は血を欲しているのですよ。

 同じ魔物でもあそこまで戦いを望んでいる連中も今じゃ少ないですし、

 北部では比較的に人間の侵攻も少ないので牧畜に力を入れていますが北部連合が謀反でも起こせは陛下自身の身が危うくなりますよ。」


「俺の身を案じてくれる君は優しいね。」

 先代魔王崩御後の俺の左腕として内政と秘書を担ってくれている彼女は優秀なメデューサだ。

 前は慣れない前線で石化秘術を使って頑張っていたみたいだけど、俺が撤退令を出して魔界の開拓宣言をしたあとの再編成でたまたまうちに来てくれたけど‥

 

「照れてませんよ。

 内政の課題は山積みです。一つずつ片付けていきましょうね。」


 めっちゃ頭の蛇ウナってるけど。

 わかりやすくて、いい子だなぁ。

「まぁそうだね。

 魔王として全ての魔物を導く責任が俺にはある。次は北部の監査には俺がいく。

 北部連合の連中には俺からもう一度説得して、是非俺の家臣になってほしい。

 彼らの力は本物だからね。」


コンコン。

会議室の扉がノックされ1人のオーガーが入ってくる。

 「陛下。東部の第一砦からの報告ですぞ。

聖王国の騎士団、およそ120が羅門を超え我が魔界へ侵攻してきたと早馬が。

 一刻を争う自体です。現場ではゴブリンとオークを主力とした魔王軍東部警備師団が対応に当たっているかと思いますが、長くは持ちません。

 早馬で東部の羅門からこの魔城まで3日程。

 現場はもう‥」

彼は旧魔王軍の総指揮官も務めた先代魔王の側近で今は俺の右腕、ファラク。


「聖騎士120か‥かなりの人数だな。

 秘術使いがいれば損害はもっと大きくなるだろう。

 第二、第三砦に防衛戦を張って撤退戦をさせろ。数的に偵察が主な理由だろう。

 数さえ減らせれば撤退するだろう。

 仕方無いな、魔都のドラゴンライダー隊を出させろ。

 聖騎士も空は飛べない。」

 なぜ、こうまでして戦いを続ける。

 やはり、魔物の意識だけでは戦争は終わらないのか。

 俺が人間界に出て直接話しをしにいってもいいが魔王の話しに誰が耳を傾けてくれるだろうか。

 魔物の残虐さは歴史が証明している。

 これを払拭するのには時間がかかる。

 だがそれまでにお互い、どれだけの血が流れる。

 毎度、魔王でありながら無力さを感じる。クソ喰らえだ。

 今回も血を流す判断を下さざるおえないとは。



ーーー


ーライダーコマンドより各ドラゴンライダーへ。

 目標は聖騎士団。現地到着後、地上部隊を援護しつつ敵を薙ぎ払う。オーバー。ー


ー了解、オーバー。ー


ー景気づけにミュージックだ。ー


人間界から持ち込まれたコーラスという音楽が音響秘術を通して隊に流れる。


ーこちらアプリコットワン、目標を発見。攻撃隊列を維持、オーバー。ー


ーライダーコマンドより各ドラゴンライダーへ。

 弓準備。ドラゴン、火炎発射用意!

 ‥撃ち方はじめ!!ー


 ドラゴンから撃たれた火球が聖騎士たちを包む。奇襲は成功だ。打たれ弱い秘術使いたちは一気に一掃された。

 聖騎士たちは盾を持ち対空陣形を形成しつつある。


ー奴ら対空陣形を形成してるぞ。距離取れ!ー


ーバカか。アンナもんで俺たちを止められるかよ。小隊、俺に続け!一気に焼き払うぞ!ー


 一個小隊が剣を抜いて地上に急速降下していく。

 地面すれすれまでいきドラゴンの火炎を陣地の真ん中に撃ち込まれ一気に陣地が崩壊する。

 聖騎士の間を飛び抜けていくドラゴンライダーたち。すれ違い様に剣を振るい為すすべなく倒れていく聖騎士たち。

 

ーよし仕事は終りだ。帰るぞ。地上部隊、よく頑張ったな、オーバー。ー


ーこちら地上部隊よりオークキング。部隊を代表して礼を言う。ありがとう。オーバー。ー


ーライダーコマンドより各ドラゴンライダーへ。帰還する。各自損害を報告しろ。美味い飯がまってるぞ。ー


ーーイヨッシャー!ーー


 ライダーたちが叫ぶと同時にドラゴンたちも雄叫びをあげる。

 


ーーー


 「ドラゴンライダーからの報告によると聖騎士団は全滅したとのこと。

 こちらの損害は軽微。第一砦は落ちたものの既に再建を開始しています。」


 「そうか。

 健闘に感謝を。失われた命に安らぎを。」


 早急な人間界との和平締結をするしかこの泥沼の戦争を終わらせることはできない、か。

 「ファラク、俺は2、3日ここを留守にするからあとをよろしく頼むよ。

 北部連合を説得して東西の防衛に参加できるよう掛け合ってみる。」


 「陛下、僭越ながら申しますが、防衛だけではやはり無理があろうかと。

 前の人間どもの連合軍の侵攻を防げたものの魔都の崩壊寸前までこられ魔界の危機を真似きました。

 もし、次、より多くの戦力を投入されれば我々魔物は今度こそ世界から消し去られます。

 わたくしは、魔物の繁栄も安住のためには人間どもの駆逐、これに尽きるとお思いですが‥」


 「今まではそうだった。

 だが幾年経とうと戦争に終わりは見えなかった。先代魔王ですら、成し得ることのできなかったことだ。

 俺からやり方を変えるしかない。ゼロから始まることだったとしても前提を変えなければ状況を大きく変えることはできない。

 俺は魔王だが命を粗末にするようなやり方は好きじゃない。知ってるだろファラク。」


 「陛下のおっしゃることは理解できます。

 しかし、先代魔王もその前の魔王の亡きご意思を受け継いでこられた。

 陛下もそれに習うこともできたのでは。」


 「クドいな、俺は俺のやり方を変えるつもりはない。

 俺がなぜ先代同様文武両道の絶対魔王ではないのか。秘術に長けてきた。

 それはファラク、お前が俺を育てきたからだ。

 俺は前線に立てるほど強くはない。

 誰かに頼らなくては戦いに勝つことのできない軟弱な魔王なんだよ。」


 「なにを申しますか。

 陛下は決して軟弱などでは!陛下はグラディウスは世界最強の秘術使い魔でありますぞ!

 それはこのファラクが胸を張って保証いたします。

 お気を悪くしないでくださいませ。」


 席を立ち会議室をあとにした。

 魔城の通路を進み窓から魔都を見下ろす。

 ファラクとは長い付き合いだ。

 俺が幼い頃から世話を焼いてくれた世話係だった。物心ついた頃に秘術を指南してくれたのもファラクだった。

 同時に先代魔王の右腕。

 今の俺の右腕だ。俺は先代と違って魔王軍の総指揮官も兼任している。

 ファラクに限って革命もないかと思ったが行く行くは魔王軍の解体もしなければと思う。

 そのために俺がやらないといけない。

 俺が魔王であることの証明をし続けないと。

 先代魔王がなぜ突如崩御したのか。予兆なんてなかった。全ての謎を明かし全ての生物が幸せに暮らせる世界のためにできることをやらないとな。








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