現状の打開3-2
「合流したとき、宮野さんに渡そうか」
「だなァ」
本を神崎に渡す。
神崎が持っていなければならない。
俺は一時的に捜査権を与えられたに過ぎず、俺が持っていたとしても証拠にならないし、何が出来るというわけでもない。
自分が望んだこととはいえ、不便な事この上無い。
「現場は発見時のままなんだよなァ?」
「そうだよ。記憶している限り、何か動いたり無くなったりはない。遺体が病院に運ばれた以外はね」
ゆらゆらと部屋を歩き回る。
考え事をするときは、じっとするよりも体を動かす方が頭も回る。
犯行現場はこの部屋で間違いない。
外部犯ではないことから、犯人は堂々と扉から侵入した。
ベッドで眠っている圭太。
殺すためにボールペンを手に取り、振りかぶる。
「ん?」
そこまで考え、何かが引っかかった。
おかしい、かもしれない。
「何か引っかかったの?」
「神崎ィ。ベッドに寝っ転がれェ」
「えぇっ?」
躊躇う神崎の首根っこを掴む。
「待ってよヒロくん。せめて、ベッドの横にしてよ。服に血が着く。洗濯が大変だ」
「ちゃァんと再現しねぇとなァ」
とはいえ、流石に神崎の一張羅である白タンクトップを汚すわけにもいかないか。
同じ条件となるよう床に組み伏せ、跨る。
せめてもの譲歩だ。
ボールペンを右手に持ち、振りかぶる。
「本気で刺さないでね」
「それはフリかァ?俺の事をなんだと思ってんだァ、お前はァ」
ゆっくりと腕を下ろしていく。
首の左側に刺さるよう、手首を曲げる。
「やっぱりかァ」
刺す直前に、壁に手が当たった。
これなら左手でペンを持ち、首の右側を刺す方が簡単だ。
「右利きなら強行突破でそのまま刺すんじゃない?」
「その間に抵抗されてェ、殺せなかったら本末転倒だろォ」
「先に気絶させておいた?」
「見た感じ、首に締め跡は無かったなァ。医学的知識の無い人間はァ、頸動脈と気道の違いが分かんねぇことが多いィ。誤って殺すってことも往々にあんぞォ。漫画だ何だで描写されてるようなァ、腹を殴るってやつも無理だァ。人間はそう簡単に気絶しねェ」
気絶だとしたら、どうやって気絶させる?
俺ならどの手段を取る?
「薬。睡眠薬はどうかな」
呟かれた言葉に思案する。
「悪くねぇ発想だなァ。思い出せェ、神崎ィ。テメェが台所で作業してた時ィ、無くなっていたコップはあったかァ?」
「記憶している限りでは無し。もっとも、家にあるコップを使わなくても、紙コップ使えば良いと思う。けど、睡眠薬は目立つよ。所持してたら、真っ先に疑われる。絞めると同じく、分量を間違えれば死に至る」
確かにそうか。
だが、頭の片隅にでも置いておいた方が良いだろう。
殺人は、何通りもの方法がある。
有り得ないことだと捨ておけば、真実を見逃してしまう。
ひとつひとつ可能性を潰していけば、自ずと真実は見えてくる。
例えその真実が、信じ難いものだったとしても。
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