巡り逢い1-1

試し期間の二週間が過ぎた。

その間、コンビニのバイトに顔を出したのは四日間。

二週間の間、蓮とは会っていない。

部屋を訪れても鍵を取り付けたらしく、どれほどドアノブを捻ろうがドアを叩こうが、ビクともしなかった。

ドア越しに声を掛けても反応は無い。

また、引きこもり生活に戻ってしまったようだ。

「元博、猫ちゃんそっち行ったよ!お仕事中にボーッとしないで!」

「ああ」

インカムから飛ぶ僚真の声に、慌てて返す。

今は迷子の猫探しの真っ最中だ。

二日前に依頼され、元博と僚真が駆り出されている。

「元博はそのまま、猫ちゃん追いかけてて。僕、向こうから回り込むから」

「回り込むって言ったって、ここ一本道だぞ」

「いいから先輩の言うこと聞くの!」

それもそうか。

肯定し、猫を追って走り出す。

一見入り組んだ裏路地に思えるが、高い塀に囲まれていて逃げ道は無い。

姿を見失わなければ問題ない。

とはいえ……。

「やはり猫は逃げ足が速い」

運動にはあまり自信が無い。

僚真の作戦がどうであれ、手早く済ませて欲しいところだ。

「捕まえた!」

「嘘だろ 」

今こいつ、どこから現れた?

目の前にパッと現れた僚真。

元博の目の前で逃げていた猫は、今は僚真の腕の中だ。

不機嫌そうに唸り、ガリガリと僚真の腕を引っ掻いている。

僚真はタンクトップだから、モロに引っ掻き傷が残りそうだ。

「暴れたら危ないよ、猫ちゃん。さあ、帰ろうか元博。社長さんに、依頼達成のメールを頼んでもいいかな」

「ああ。それと、何がどうなったのか説明してくれないか」

「良いよ。歩きながらね」

猫を抱いている僚真に代わり、事務所へ帰宅の旨をメールする。

すぐに大五郎から了承の返事が来た。

「元博が猫ちゃんを追いかけてる間に塀を登って、パルクールの要領で移動したんだ。ジャンプで横と斜めはショートカット出来るから、走るより速くてオススメだよ」

「アンタしか出来ない芸当だな。忍者みたいだ。俺には到底無理な行動だが」

「これでも、まだまだ全力じゃないんだけどね。リハビリ中だから、あんまり無茶は出来なくてさ」

この一週間、元博はほとんどの依頼を僚真とこなしてきた。

僚真は身体能力が高い分、様々な依頼に駆り出されるようだ。

だが、それにしても僚真が負う量が多いように感じる。

「一昨日も言っていたな、リハビリ中だと。怪我か病気でもしたのか?」

「話してなかったっけ。一年前に仕事中に事故に遭って、右足を粉砕骨折したんだ。長い間入院してて、こうして外に出ての仕事は、ここ三ヶ月の間からだよ。退院したのはもう少し前なんだけど、事務所のみんな、過保護だから内勤しかさせてくれなくてさ」

合点がいく。

つまりは仕事とリハビリを同時進行しているということか。

効率の良いやり方だ。

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