三題噺文庫『我濫堂』

宮条 優樹

『運命のシーサー』




 決定的なその日、職場の隣合ったデスクに置かれたそれが私の目に飛び込んできた。


「そのコップ……」


 私のつぶやきに、その机の後輩がかわいらしく微笑む。


「これですか。気づきました?」

「うん、新しくしたんだ? ステキね」


 その素朴な焼き物の絵、一頭のシーサーがとぼけた表情で私を見つめ返してくる。


「この間、バカンスで沖縄に行ったときに買ったんです。

かわいいですよね」

「ああ、カレシと行ってきたっていう」

「はい。地元の陶芸家の作品で一点物なんですよ。

ペアだからどうしても欲しくて、彼におねだりしちゃいました」

「優しいカレシだね」


 かわいいから写真撮らせて。

 言って私は、彼女にコップを持たせスマホを構えた。




 その夜、仕事が終わってアパートに帰ると、同棲中の彼が先に帰宅していた。


「ただいま。ゴハン食べた?」

「いや、待ってた。先に着替えたら?」


 そうしてキッチンに立つ彼の背に私は、


「この間、研修で沖縄行ったんでしょ?」

「ああ、おみやげ買ってきたじゃん。かりゆしとちんすこう」

「結構日焼けして帰ってきたよねえ。

研修っていうよりバカンス行ってきたみたいに」

「ん、まあ……半分は観光だったし……」

「私さあ、おみやげ別のがよかったなー」


 食器を並べる彼の手が止まる。

 私の目はテーブルの上、彼の新しいコップを見つめた。


 とぼけた表情のシーサーの絵を。


「これは手作りの一点物だからこれしか」

「だから、それのペアの方」


 彼の台詞をさえぎり、スマホの画面を突きつける。


 ペアの一方を手にする私の後輩の写真に彼が浮かべた絶体絶命の表情を、私は笑顔で見据えて言った。


「バレてるんだよ、フタマタ」





              end.


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三題噺文庫『我濫堂』 宮条 優樹 @ym-2015

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