4

 その夜、沙羅は夢を見た。沙羅は辺りを見渡した。そこは白い空間だ。ここはどこだろう。沙羅は首をかしげた。


 と、そこには優が現れた。元気なころの優だ。どうしてやって来たんだろう。別れを告げに来たんだろうか?


「あれっ、あなた?」

「久しぶりだな」


 優は笑みを浮かべた。沙羅と再び会えたのが嬉しいようだ。沙羅は少し戸惑っている。まさかここで会えるとは。


「どうして会いに来たの?」

「もうすぐこの家を出て行くって聞いて」


 やはり、優は別れを告げに来たのだ。新しい夫と生活していても、忘れる事なく日々を過ごしたいな。優との日々が何より好きだったから。


「うん。新しい夫と結婚するの」


 それを聞いて、優は納得した。再婚するのが寂しくないようだ。新しい生活を応援しているようだ。


「そうなんだ」

「ここを離れるの、残念だけど、新しい夫との日々に」


 沙羅は寂しそうだ。優に会うと、やはり優の方がいいと思ってしまう。どうしてだろう。もう死別したのに。忘れられないんだろうか?


「そうか。幸せにしろよ」


 優は笑みを浮かべている。新しい夫の元でも、幸せに過ごしてほしいと思っているようだ。


「離れる事になって、ごめんね」

「いいんだよ。幸せにしろよ」


 そして、夫は消えていった。沙羅はその様子をじっと見ている。




 次の日、いよいよここを離れる日。家にはすでに引っ越し業者のトラックがやって来た。いよいよ住み慣れた我が家に別れる時だ。


 家の前には近所の人々が集まってきた。色々あったけど、今日でお別れだ。名古屋でも幸せに暮らしてほしい。そして、元気でいてほしいな。


「航、行くよ!」


 その声とともに、航がやって来た。航はすでに荷物をトラックに積んでいて、あとはトラックに乗るだけだ。航はわくわくしている。これから名古屋に住む。ここよりずっと豊かな所だ。新しい父の元で幸せに暮らそう。


「うん!」


 航はトラックのベンチシートの真ん中に座った。いよいよお別れだ。しっかりとこの風景を目に留めておこう。


「今まで、ありがとうございました」


 沙羅は近所の人々に向かってお辞儀をした。悩んだ時は相談に乗ってくれた優しい人ばかりだ。まるで1つの家族のようだった。だけど、もう会えない。名古屋でも、こんな近所の人々に出会えたらいいな。


「いえいえ」


 と、そこに琢也がやって来た。寂しくてやって来たようだ。


「航くん、また会えるよね」


 航は窓から顔を出した。琢也が来てくれるとは。琢也はやっぱり友達だな。


「うん。また、名古屋まで遊びに来てね」


 琢也は考えていた。いつか、名古屋に行きたいな。そして、航と再会したい。一緒に名古屋を旅したい。名古屋城やオアシス21に行きたいな。


「わかった。また遊びに来るよ」

「ありがとう」


 沙羅はトラックの助手席に乗り込んだ。航はベンチシートの真ん中に座った。いよいよ出発だ。


 沙羅がドアを閉めるのを確認して、トラックは出発した。近所の人々や小学校の子供たちは手を振って見送っている。中には、泣いている人もいる。だけど、彼らはこんな別れを通じて、成長していくのだろう。


「さようならー」


 沙羅はその声に応えて、窓から体を出し、手を振った。


「さようならー」

「あれ?」


 と、航はサイドミラーに野良猫が移っているのを見た。野良猫も会いに来ていたようだ。だが、沙羅は気づいていない。結局、優の生まれ変わりだとわからないまま、別れてしまった。気づいてほしかったな。


 次第にトラックは山道に入り、その先のインターチェンジから高速道路に入った。名古屋までは高速道路で向かう。トラックはスピードを上げて名古屋に向かう。その光景に、航は興奮している。


 次第に航はウトウトして、眠ってしまった。その様子を、沙羅は優しそうに見ている。どんな夢だろうか?




 航は夢を見た。そこには1匹の野良猫がいる。あの野良猫だ。


「航・・・」


 航は驚いた。野良猫がしゃべっている。まさか、しゃべれるとは。でも、それは夢の中だけだろう。


「パパ?」

「うん。パパだよ」


 航は笑みを浮かべた。また夢の中で再会できるとは。


「パパの生まれ変わりだって、わかってくれなくて、ごめんね」

「いいんだよ。また会えてよかったよ」


 野良猫は航の足元にやって来た。撫でてほしいようだ。航が背中を撫でると、野良猫は喜んだ。


「パパ。会いたかった」


 航はいつの間にか涙を流していた。優を忘れられないんだろうか?


「俺もだよ。航、新しいお父さんとも、仲よくするんだぞ」

「わかった!」


 新しいお父さんの元でも仲良くして、名古屋でもたくさん友達をつくるから、これからもどこかで見守っていてね。


「お父さん、いつでもどこかで見守っているからな」

「パパ!」

「今までありがとうな」


 そして、優は消えていった。航は泣きながら目の前を見ている。だけどそこには優がいない。




 次第に沙羅も眠たくなってきて、寝てしまった。引っ越しの準備で疲れたんだろう。


 沙羅も優と出会う夢を見た。また優が出てくるとは。よほど寂しいんだろうか?


「あれ? あなた?」

「沙羅・・・」


 と、優の姿は野良猫に変わった。今まで追い出していた、あの野良猫だ。どうしてあの野良猫がいるんだろう。まさか、航の言っていた通り、その野良猫は優の生まれ変わりなんだろうか?


「まさかあの野良猫って」

「そうだよ。俺の生まれ変わりだったんだよ」


 その時、沙羅は気づいた。やはり、あの野良猫は優の生まれ変わりだったんだ。なのに、私は追い出してしまった。本当に申し訳ない事をしてしまった。


「わからなくてごめんね、あなた」


 沙羅は泣き出した。散々追い出したことを悔やんでいる。航にも謝りたい。でも、もう遅い。あの野良猫とはもう離れてしまった。もう野良猫に謝れない。


「いいんだよ。君の姿をまた見れて、本当に嬉しかったよ」

「あなた、あなた!」


 こうして、野良猫は光の中に消えていった。沙羅は引き留めようとするが、野良猫は消えていった。沙羅はその場に泣き崩れた。わかってやれなくて、ごめんね。




 沙羅は目を覚ました。トラックは高速道路を走っている。


「あなた・・・」


 だが、そこには優はいない。いるのは航と引越業者の人だけだ。


「どうしたの?」


 沙羅は辺りを見渡している。航は沙羅の行動が気になった。何か忘れものだろうか?


「まさか、あの野良猫が生まれ変わりだとは」


 航は驚いた。今になって気づいたのか。だけど、その野良猫にはもう会えない。どうしてあの時、気づかなかったんだろう。


「やっと気づいたの?」

「うん」


 沙羅は涙を流した。わかってやれなくて、ごめんね。連れて帰って、一緒に暮らせなくて、ごめんね。これからは、夢の中で会おうね。


「でも、パパとの日々のように、もう過ぎた事なんだね」


 航はどこまでも続くような高速道路を見ている。その高速道路はまるで道のようだ。その先に長い人生があって、山あり谷あり、トンネルありで、その中で様々な事を経験していくだろう。そして、その終わりで、悔いの残らないような日々を送ったと言えるような人生にしたいな。


「これからは思い出の中で会おう」

「そうだね」


 窓の先にはセントラルタワーズが見える。そこは名古屋だ。新しい日々が近づいてきた。だけど、優の事を忘れないで生きていこう。いつか、人生を全うして、天国で再会できるように。

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猫が死んだ夫の生まれ変わりだと君は信じない 口羽龍 @ryo_kuchiba

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