第3話 自称魔法使いと魔法道具制作
特別な魔法の地図を持つ者だけがたどり着けるという、不思議な洋館があった。
一度行ったことがあるならもう一度行けそうなものなのだが、地図がなければなぜか
地図さえ持っていれば、あっちを曲がり、こっちを曲がり、同じ道を何度も通った気がしながらも、気づけば
その
柵門からのぞく古い洋館は
そんな屋敷の主、ケヴィンは、西洋風の建物にぴったりな西洋風な顔の造形をした、小学一、二年生くらいに見える小さな美少年だ。
夏休みが始まった
その代わり、彼のお気に入りの部屋──ソファも
だいたいいつもの時間、昼ごはんが終わった頃に門扉がギイと重く開く音がした。
地図を持つ少年、ユウヤが
「やあ、
ケヴィンはそう言いながら、
勝手知ったる様子でソファに
ケヴィンは、
「その黒い服や大きな三角
「
「たまにはコーラが
「
「餌付けって言い方はひどいだろ! 期待はしてるけど!」
ユウヤは言いながら、ぶるっと
「ほら、
(まずその厚着をやめて、
と心の中で毒づきながら、ユウヤはポットから二人分のカップに紅茶をそそぐ。
次に来る時には忘れずにパーカーを持ってこようと決意した。
この後は、ケーキを食べながら話をしたり、ユウヤが持ってきたゲームを
ユウヤは魔法使いを自称するケヴィンに興味深々で、知り合ってから先、こうやってよく一緒に夏休みを過ごしている。
ユウヤにとってはこの時間が好きだからそうしているわけだけれど、ケヴィンがそれで楽しいのかは、よくわからなかった。
というより、ケヴィンについてはわからないことだらけだ。
はっきりわかったことといえば、彼の
魔法も、先ほどのようにお茶やお菓子を出すところくらいしか、見たことがなかった。本当のところは手品なのかもしれないと、ユウヤは最近
「今日は行きたいところがあってな。ユウヤにも付き合って欲しいのだが」
「うん、いいよ! 初めて一緒に外に行くね!」
「日本の夏は
(どう考えても、
とユウヤは思ったけれど、いままで何度言っても
ケヴィンは「さて」と言いながらわざとらしく
その杖でクローゼットの
「どうだ。どこか別の場所に
ケヴィンは、ユウヤがいままで見た中で一番の得意顔を見せた。
「うっ……そ……。ケビンて、本当の本当に魔法使いだったの?」
「初めから言っているではないか。どこから見ても、魔法使いだろうが。 信じてくれているものと思っていたがな。
ああ、しかし、外では大きな声で言ってくれるなよ。一応
「いいなぁ。魔法。ぼくも魔法使いになりたい。
ケビンに教えてもらったら、なれたりするもの?」
「ユウヤには──五年、はやいな。その時、覚えていれば考えよう」
ケヴィンはそう言いながら扉をくぐり、砂浜へと足を
砂浜は日本のどこか、海水浴場にもなっている場所のようだった。
けれど、水着を持っているわけでもなく、まさか泳ぎに来たのではないだろう。
夏休みとはいえ平日なのでそんなに混雑していなくて、海の家があるあたりにパラソルやテントが集中している。
海水浴客を遠目に見るあたりの
「なにしに来たの?」
ユウヤが聞いた。
「魔法道具を作る材料が
“大空を
「“浜辺の漂流物”って? どんなもの?」
「なんでもいい。流木でも
ケヴィンは
「えええええ! ケビン!?」
ユウヤが慌てて
ユウヤはひとまず彼をズルズル引きずり、涼しい部屋へと連れて
黒くて重い上着を
「これだから日本の夏は」
と毒づいた。
「
ユウヤは宿題と一緒に持ってきた下じきをうちわ代わりに、パタパタとケヴィンに風を送りながら言った。
「魔法使いっぽくなくなってしまうではないか」
「じゃあ、魔法でなんとかできないの?」
「
「“浜辺の漂流物”は、どうする?」
「ではユウヤに任せよう。僕様の心配はしないくていい。ケットを
ユウヤは今まで聞いたことも会ったこともなかったけれど、ケットというのはケヴィンに仕える
まもなくその執事が冷たい水や氷を持って書斎に入ってきた。黒くてかっちりした、
「そういうわけで、
「その代わり、魔法道具作るところ、見せてもらえる?」
「
次の日、体調もすっかり良くなったケヴィンは全く反省のない服装でユウヤを屋敷に
いつもの書斎ではなく、
ケヴィンは、ユウヤが指示どおりにたくさん拾ってきた流木や貝殻などや、他にも用意した固形あるいは液状の材料をぽいぽいと
それを
「すっごい、魔法使いっぽいね!」
「どうだ、魔法使いっぽいだろう?」と聞かれる前にユウヤが言うと、ケヴィンは満足そうににんまりと笑った。
「そうだろう、そうだろう! この後は
ケヴィンは
ユウヤは、器の一つを受け取って、指示された通りに
ドロリとした液体はだんだんハンバーグのタネのようにまとまり、それを
「魔法道具って感じ、あんまりしないなぁ?」
ユウヤは正直な感想をいった。
「見てくれは悪いが、僕様が魔法の力を
「何に使うもの?」
「さあ、それは秘密だ。結局使わないかもしれないが、使うとなった時にはユウヤも楽しんでくれ」
「うわ! 気になる! 楽しむものなの?」
ケヴィンはそれには答えずに、
「そういえばさ、もうすぐ花火大会があるんだよ。日本の花火大会って見たことないでしょ? ケビンも一緒に行かない?」
「──行かない。興味もないしな」
「えぇー。残念。じゃあ別の
「いや、どうにも気が進まない。魔法使いの
「なんだそれ?」
「それに……今のところ誰を
「なんでそれ、知ってんの……」
ユウヤはガクリと肩を落とした。ケヴィンの言う通り、今のところ花火大会に一緒に行ってくれる友達は見つかっていない。
(まあ、僕様が手を回しているからだが……)
ケヴィンがまた
この、ユウヤも制作を手伝った魔法道具は、花火大会の日に使われることになる。
けれど、それはまた別のお話────
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