第2話 ライバルは自称魔法使い?
小学生は夏休みにはいって、はや八月も頭。
始業式まではまだ日があるし、学校がないことが少し
ミユは昼ごはんの後、ぬいぐるみでいっぱいの自室のベッドに転がりながら、「はぁ」とため息をついた。
手には
このケータイは
だから、勢い任せの電話が
「電話が勇気でないなら、いっそ直接
ミユはのそのそとベッドから立ち上がった。
(もう、今しかチャンスはない!)
幸い、ちゃんと可愛い服には
小学五年生のユウヤは、古くて
ここまでの夏休みのうち、それなりの日数をユウヤとケヴィンはともにこの部屋で過ごしていた。
ケヴィンは名前から想像できるように外国人で、しかし日本語は
「ねえケビン」
ユウヤがその彼に声をかける。
「ケヴィンだと、何度言ったらわかる?」
「ケビン?」
「ケヴィン! ヴィ!」
「ビ?」
「……もういい。それで、要件はなんだ?」
「今日のその格好って……?」
「おお! ようやく気づいてくれたか!」
ケヴィンは
「どうだ、魔法使いっぽいだろう?
金曜日の夜にテレビをつけたら見かけてな。日本人で知らない人はいないほどの魔法使いだそうじゃないか」
「いや、でも、
「
「多様性を
その前にその魔女は見習いじゃなかったっけ? という言葉をユウヤは飲み込み、
「すごく、似合ってるよ」
と言い足した。
実際、それは
ケヴィンは満足げな顔でふふんとご
黒猫はひとしきりケヴィンに
「それで、ユウヤ様。あなたが門まで連れてきたのは、どちら様です?」
出窓の方から、ケヴィンとは違う声がした。
「ね……猫が、しゃべった⁉︎」
ユウヤは思わず
「魔法使いが連れている黒猫だぞ? 言葉くらい話せて当然だろう」
「ケビンと話していると、当然のことのように感じてくるから不思議だよ」
ユウヤはそう答えながら、窓の外を見た。
この場所は秘密基地なのだ。ユウヤは秘密をペラペラと
けれど、
「同じクラスのミユちゃんだ。でも、ぼくは連れてきてないよ」
「地図を持っていない人には、この屋敷を見つけるのは難しいんですがねぇ」
黒猫は──その表情は読み取りにくいけれど、おそらく
ユウヤは屋敷にたどりつくための地図を持っていた。
その地図を家に
「ならば、ユウヤの後をつけてきたんだろうね」
ケヴィンが
「ユウヤ。今日は帰りたまえよ。あの、ミユちゃんとやらと話がしてみたくなった」
「来たばっかなのに……。僕がいたらダメなの?」
「なんだ、君もあの女児とおしゃべりがしたいのか?」
「そ、そんなんじゃねえし! 女子とかどうでもいいし!」
「どうでもいいのなら、
正直なところ、本当に自分についてきたのか、それなら用事はなんだったんだろうかというところは、ユウヤの気になるところではあった。
けれど、まるで興味がないかのように
それとほとんど同じ頃、ケヴィンは表の柵門にミユを
そして彼は、ユウヤが初めて洋館を訪ねてきた時と同じように、あれよあれよと強引にミユを書斎まで連れていって
「それで?
「あなたに用があったわけじゃなくて……。
ユウヤ、ここに来なかった?」
「ああ、来た。しかし、残念だったな。入れ
「どこに向かったか知ってる?」
「なんだか必死だねぇ。理由を教えてくれたら、代わりに彼の行き先を教えようじゃないか」
(年下のくせに、なんだか
ミユは
「今日の花火大会にユウヤを
半ばヤケくそに、ミユは叫んだ。
「それはそれは。
「ち、ちがうよ! 初恋とか、そんな話じゃなくて! 聞かれたから答えただけで!」
「まあ、そういうことにしてもいいが……」
ケヴィンが、ユウヤに見せたようなからかうようなニヤニヤ顔を、ミユに向ける。
「しかし、君には
ケヴィンは急に真面目な顔つきでミユをじっと
「ユウヤを花火大会に誘うのは辞めたまえ」
「……は? どうして?」
「想い人をデートに誘いたいというわけでもないんだろう? ならば彼でなくてもいいではないか」
ミユは
変わった言葉遣いや格好をしているけど、どう考えても自分より可愛い。
ユウヤはこのところ、コソコソと出かけることが多いようにミユは感じていた。
(もし、ユウヤがこの
そう考えながらも、ミユは負けじとケヴィンを
「それなら、ユウヤがどちらを選ぶか勝負よ! ぽっと出のあなたなんかに、負けないんだから!」
「……ん? なにか
「ユウヤは、きっと
「それは
(かんっぜんにバカにされてる!)
ミユはいい加減
上から目線の態度や言葉遣いも、西洋風の
ミユはふんっとそっぽを向くと、ずかずかと足音を立てながら部屋を出ていった。
ミユは
「ねえユウヤ! 私と今夜の花火大会行ってくれるよね!?」
「
黒猫がとことこと、ケヴィンに近づいて言った。
「そうだな。まず、魔女の格好をしていたのが失敗だったようだ」
「それが主な原因ではないように思いますが……。
それで? あの子の勝負に乗るんですか?」
「いや、勝ち目などないだろうよ」
「なら、どうするんです?」
ケヴィンは「ふぅむ」と
花火大会の会場で、ユウヤはそわそわと、同行者を待っていた。
「おまたせ!」
と小走りに待ち合わせ場所に現れたのは、
「ほら、女の子の浴衣
と、お姉ちゃんの彼氏がこそっとユウヤに耳打ちする。
「あ……ゆ、ゆかた、かわいいね!」
ユウヤがぎこちなく
ミユにとっては、保護者がわりに高校生のお姉ちゃんたちががついてくることは正直いって気に入らなかった。そうでなければお父さんが来るというので、それよりはマシと、お姉ちゃんのデートにお
夜、小学生だけで外に出るなんてなかなか許してもらえることではないのだ。
「
そう言うミユのお姉ちゃんに案内されて、ユウヤたちはその場所に向かう。もうそろそろ始まる時間なので、足早に歩いた。
けれども──ポツリ、ポツリと、雨が
はじめは気にならないくらいだったものが、あっという間に強くなってきてザーザー降りになる。
シートで場所取りをしていた人たちも、その辺を歩いていた人たちも、
ミユたちも、
風も強くなってきて、まわりにたくさんいた花火見物客はだんだんとあきらめて帰路についている。
どこからか「中止だって」という声も聞こえてきた。
「私たちも、帰ろっか。残念だったね」
ミユのお姉ちゃんが、
(せっかく、せっかく勇気をだして誘ったのに!)
とうとう泣き出したミユは、どうにもならないけれど
「やあ、ご両人。こんばんは」
女の子が泣いていることなどお構いなしに、黒いレインコートの子どもがミユとユウヤに向かって声をかけた。
「ケビン? 花火大会には行きたくないって言ってなかった?」
「
「はい? ミユ、誰この子?」
「ご令姉殿も、こんな天気ではあるが交際相手とのデートを楽しむと良い。
なに、心配はいらないよ。こちらには大人もいる。何より、ちゃあんと許可を取っているからな」
ケヴィンはトン、と、ミユのお姉ちゃんのスマホを指で
彼女が頭の上に「?」をいっぱい
「そういうわけだ。では、行こう、ご両人」
相変わらずの強引さで、ケヴィンは花火の会場から
「打ち上げ花火くらい、僕様がみせてやる。一度くらい大魔法使いらしいところを
ケヴィンはニヤリと笑いながらそう言うと、雨の
夜空いっぱいに色とりどりの花火がパッと明るく
ケヴィンがもう一度、二度とボールを投げるように腕を
「君のやっていること、言っていること、本当にわけがわからないね」
ユウヤが言うと、ケヴィンはふふんと、得意気な顔を返す。
「わかってたまるものか。
僕様があくせく働いてるあいだ、君はせいぜい彼女といい
(色々と、無茶言うなぁ)
ユウヤは
天気は悪いけれど。
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