あのまばたきの意味

島本 葉

あのまばたきの意味

 わたし達には秘密の遊びがある。

 両親に、周りの友達に気づかれないように、そっと目配せを交わすのだ。

 まばたきに込める意味は色々だ。

「わたしがやったって言わないで」

「俺がやっておくよ」

「あっち行って!」

「玉子焼きもらっていい」

「チャンネル変えるよ」

 なんか秘密の合図みたいでカッコイイじゃん。

 そんな風に言ってたっけ。


 この遊びにはルールがある。

 1つ目、まばたきで合図をするのは交代で。

 順番に合図しないと、むちゃくちゃになるのだ。

 2つ目、聞かれたらその意味を答えること。

 わからないままだと、遊びにならないからね。


 中学高校の時はお互いに部活が忙しくて、

 夕食やその後の眠るまでが、わたし達の秘密の遊びの時間だった。

 どうでもいいことをまばたきで合図する。

 当たった。そんなのわからないよ。

 そうやって笑い合うわたしたちに「仲がいいね」と両親は言っていた。

 

 大学の夏休みで帰省した兄さんに、そっと目配せをする。

 わたしのターンから始められるようにしておくのがコツだ。

「まだ続いてたんだ。いまのは?」

 兄さんが笑う。

「おかえり、お土産はないの? よ」

 

 わたし達の秘密の遊びは、回数を減らしながらも続いていた。

 けど、この遊びもこれが最後。

 タキシード姿で鏡の前に立つ兄さんに、わたしはまばたきで秘密の合図を送る。

「いまのは何?」

 当ててみてよ。そう返すとちょっと考えて「おめでとう?」と言った。

 わたしの秘密の遊びはこれでおしまい。

「そう。結婚おめでとう、兄さん」


 完

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