第6話 お迎えと段ボールさん
あの後も少し校長先生と話をして分かったことがある。それは、ダンさんが転校してきた理由が先生直々に呼んだからであること。
元々どこの学校だったのかなんて話は教えてくれなかったものの、どうやらかなり遠くからやってきたらしい。
ダンさんは肌が白いし、遠くと言えば雪国の方だろうか。そんなことを考えていると、左腕の時計を確認した校長先生が「ああ」と声を漏らした。
「かなり長く付き合わせてしまったね」
「いえ、有意義な時間でした」
「そう言って貰えると助かるよ。この後、何か用事があったりはするかい?」
「帰るだけです」
「それなら車を回そう。運転手に頼んでおくから、ダンと二人で乗せてもらうといい」
先生はそう言うと、スマホで誰かに連絡をした。裏門の近くに車を移動させておいて欲しいと。
姪っ子であるダンさんはともかく、自分まで乗せてもらっていいのかという遠慮はあったが、朗らかな笑顔を向けられれば今更断るのも忍びない。
今日くらいは甘えるとしよう。
「それじゃあ、これからもダンを頼むよ」
「任せて下さい」
少し強気なことを言い過ぎたかなと思いつつも、取り消した方がかっこ悪いのでそのまま二人で校長室を後にする。
それから裏門の方へと向かうと、いかにも運転手っぽい手袋を付けた男性がお辞儀をしてくれた。
「お嬢様、お待ちしておりました」
「……」コク
「そちらの方はご友人でしょうか?」
「……」コクコク
「では、御一緒にお送り致しましょう」
ダンさんの方から友人だと言ってくれた嬉しさに浸りつつ、彼は運転手さんに住所を伝えてナビに入力してもらう。
元々入っていたナビは校長先生の家までの道だろうか。確か、ダンさんは両親ではなく先生と一緒に住んでいると言っていた。
つまり、彼女の家でもあるということ。送ってもらうなんて迷惑かと思ったが、自分の家はそこまでの道のりにあるようだ。
それを知って少しホッとする。校長先生からの提案とは言え、少し図々しいかもと思っていたから。
「どうぞ」
運転手さんにドアを開けてもらい、頼斗はヘコヘコと頭を下げながら乗り込む。
車のことはよく分からないが、入った瞬間に鼻を刺激した皮の香りは多分高級車だ。校長というのはそんなに稼げる職なのだろうか。
そんな頭を過った卑しい考えは、車が静かに走り出した瞬間に掻き消えた。
普通の家に生まれて普通の車にしか乗ったことが無かった頼斗は、高い車の何がいいのかと思っていたが、お値段分の価値は確かにある。
音が静かであることもそうだが、乗っている時の振動も少ない。それに座り心地が良いから、背中を預けているだけでとても快適だ。
特に気にしていなかったが、思い返してみれば運転手さんがダンさんをお嬢様と呼んでいた。
そんな呼び方をされるのは、大きな御屋敷を持っているような富豪くらいだろう。
ただでさえ謎だらけの彼女に、またひとつ分からないことが増えてしまった。
「家、同じ方向だったんだね」
学校ではそれなりに上手く接せられていたと思ったが、車の中だと何を話していいのか分からない。
ついついもう分かりきっていることを口にすると、返ってきたのは無言の頷きだけだった。
空気を読む癖があるせいで、静かだと何か話しをしなくてはと気を急かされる。
こういう時のためにコミュ力を鍛えておけば良かったと後悔していると、ミラーでこちらの様子を確認した運転手さんが口を開いた。
「お嬢様、お暇でしたらあの話をされてはいかがでしょう。到着までに丁度良いかと」
「あの話?」
「ええ、以前教えて下さいましたおとぎ話です。私も聞いたことがなかった珍しいものでして」
「それは気になりますね」
ダンさんは少し不満そうに運転手さんを見つめたような気がしたが、言われてしまったものは引っ込めようが無い。
頼斗が既に興味を持っていたこともあり、彼女は渋々そのお話を教えてくれた。
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