第3話 段ボールさんと顕微鏡
無事に理科室へ辿り着いた
そこまでは良かったのだが、問題があるのは理科室の構造の方だ。
そのため、教室の机のように段ボールで覆って座ることは出来ないのだ。
ダンさんは何度も机に段ボールをぶつけた後、無理だということを理解してシュンと落ち込んでしまった。
先生にもドカドカ騒がしいと注意されてしまい、いよいよ試行錯誤を諦める彼女。
顔は見えないものの、雰囲気からして相当ガッカリしていることは間違いない。
そんな様子でこれから一時間過ごしてもらうのも忍びない。頼斗は悩んだ末、とある決断をすることにした。
「ダンさん、後で僕のノートを見せてあげるよ」
「……ほんと?」
「うん。だから、授業だけ聞いてて。それなら机を使わないから被れるでしょ?」
彼女は小さく頷いた後、机から一歩離れた場所で椅子ごとダンボールを被る。
今度は見事すっぽり入ることが出来た。この状態が世間にとっての普通では無いし、先生もあまりいい顔はしていないけれど……。
「……ありがと」
ボソッと聞こえてきたその言葉のおかげで後悔はしていない。正しいことをしたという自信を持つことが出来た。
ただ、ひとつの山を超えてもまた新たな山が現れるのが人生というもの。
しばらく授業をした後、残りは実験に当てるからと先生が後ろにある大きなテーブルの方を指差しながら指示をする。
「それじゃあ、二人一組になって後ろの顕微鏡を使うように。見えた微生物の絵を配ったプリントに書いて提出すること」
先生の言葉に、みんなそれぞれペアを作って移動していく。頼斗も隣の席のギャル子さんからお誘いを受けたのだけれど――――――――。
「猫っち、ウチと組む?」
「あ、いや、僕は……」
「そっか。もうダンダンと組んでるんだっけ?」
「だ、ダンダン?」
「段ボールだからダンダン。あれ、そう呼んでるのってウチだけ?」
「そうかもしれない。でも、僕はまだ彼女に声は掛けてないよ」
「その割には、向こうはその気みたいだけど」
ギャル子さんに言われる前から、背後に段ボールの圧をひしひしと感じていたから分かっている。何ならお尻に当たっているし。
これはもう、他の人とやるとは言い出せない状況だ。クラスの雰囲気的にも、ダンさんに手を差し伸べようという勇者は居ないようだから。
言わずもがな、彼女のお願いを断る理由なんてないのだけれど。
「ダンさん、僕と組もうか」
「……」コクコク
「そゆことなら、ウチは別の人を探すかな」
「ごめんね、ギャル子さん」
「いいのいいの。転校生ともう仲良くなってるなんて、猫っちも隅に置けないねぇ」
クスクスとからかうように笑った彼女は、手を振りながら余っているらしきメガネの女の子を捕まえて組みに行っていた。
頼斗はあの人のことをギャル子さんと呼んでいるが、もちろん
彼女が友人間で『るこ』と呼ばれているのを聞いていた彼が、話しかけられた時につい口にしてしまった呼び名をギャル子さんが気に入ったらしいのでそのまま使っているのだ。
ギャルのるこでギャル子。そんなあだ名を笑って受け入れられるところからも分かるが、見た目は派手だが悪い人ではない。
実際、話しかけたメガネさんとも早速仲良さげに実験を始めているし。
「僕たちもやろっか」
「……」コク
ダンさんを連れて顕微鏡を取りに行った頼斗は、早速配られたプレパラートを設置してピントを合わせる。
それを彼女に見せてあげようとしたのだけれど、ここで例の山にぶつかった。
いや、正しくは段ボールがボスっと音を立てながら顕微鏡にぶつかったのだけれど。
「ダンさん、大丈夫?」
慌てて確認してみれば、目の部分に空いた穴に顕微鏡の上部分が突き刺さってしまっている。勢い余って貫通してしまったようだ。
今度はそっとやってもらおうとしたものの、段ボールを被ったままでは小さな穴を上手く覗けないらしい。
それに影が出来てしまって、顕微鏡の下の鏡に光が届いていないのも失敗の要因だ。
「……今だけ脱ぐ?」
「……」フリフリ
「ダメ、だよね。どうしようか」
理由は教えてくれないが、これだけ拒むということは中身を見られるのが相当嫌なのだろう。
女の子相手に段ボールであろうと強引に脱がせるようなことはしたくないし、何か他にいい案が無いだろうか。
頭を悩ませた頼斗は、ふとポケットに入っている布のことを思い出して手を叩いた。
「そうだ、こういうのはどうかな?」
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