第96話 提案
突然、ヴァニタスが宣言した…皇帝になると…
「ちょっと、ヴァニタス…いきなり何を言っているの…」
「そのままの意味だ…もう、皇帝になれるのは俺しかいない」
「私だって…「お前はアークと共に生きるんだろ?なら、もう帝国には戻らないよな?だから、もう…俺しかいない」…そ…れは…」
「お、おい…ヴァニタス…お前…大丈夫なのか?帝国の貴族達は一度はお前とアンを見捨てて…」
「それは叔父上が仕組んだ事だ、叔父上が亡き今なら過激な事はされないだろう…あの国は血筋が大好きだからな、いくら野心が溢れててもそこは違わない…それが帝国人だ…実にくだらないがな…だから、奴等は何がなんでも俺達を取り戻そうとする…自らの血族に皇族の血を入れたいが為にな」
なんだよ…それ…コイツはそんな所に行くつもりなのかよ…
「それが分かっててどうして…」
「……はぁ、お前のお陰だよ、アーク…」
「え?」
「アンにはもう、お前がいる…だから、俺がそばに居なくても俺は何も心配しなくていい…だったら、俺はお前らの生活が脅かされない様に帝国を動かす、鬱陶しい連中は黙らせてやるさ…王国と帝国…共に歩める様にな」
「そんな事…許すはずないでしょ!!」
「お前に許される必要はない…いつまでも姉ヅラしてんじゃねぇよ…アークと一緒になりたいんだろ?だったらこの道しかないだろ?他に方法があんのかよ」
「あるにはあるぞ」
姉弟喧嘩が白熱しそうになる時、陛下が言った…
「陛下…お言葉ですが…既にワールの血は私とアンゼリカ以外にはおりません…私かアンゼリカ以外に皇帝になる人間がいない、帝国は血筋に重きを置いている、必ず、私達を取り返そうとしてきます…貴国にもご迷惑がかかる…」
「そうだな、だが…皇帝になれるのは皇族の血が必要…ならば、アンゼリカ殿下の夫であれば問題ないのではないかな?」
「「「「「「「は?」」」」」」」
「……へ、陛下…それはどういうつもりなのですか?」
「ん?いや、アークに皇帝になって貰えばいいんじゃない?って話だけど?」
「貴方?何を言っているのか分かっているのですか?」
「当然だ、ヴァニタス殿下、アンゼリカ殿下の身柄を狙って帝国から刺客が来るだろう…それこそどちらかを手に入れるまで、ならば…いっそのこと2人とも返してしまえばいい、そしてアンゼリカ殿下にはアークという婚約者がいる、アークは我が国の王族だ、立場的には何も問題がない、なんせ王族同士の結婚だからな…」
「待ってください!お兄様!アークはルグウィン家の後継者なのですよ!何を…」
「エステルがいるではないか…彼女自身、もしくはその夫に継がせればよかろう?」
「陛下…何を勝手なことを…切りますよ?」
「お兄様…貴方は…私からアークちゃんを…」
両親がゆらゆらと陛下に近づく…父上は剣に手をかけ、母上は手に魔力が集まっている…怒ってるなぁ…
「ままままってくれ!まだ話は終わっていない!全て聞いてからでも遅くはないだろ!?」
「「………………………チッ」」
「舌打ち……俺…王なのに…」
「自業自得です…私だって怒っていますよ?納得出来なかったらエレナ達に加勢しますから」
「うっ……わ、わかった…」
……おじさん…
「まず、損得勘定は無視して、両殿下の意思を重視するとアンゼリカ殿下はアークと離れる気はなく、ヴァニタス殿下にも帝国には行ってほしくない」
「そうです、ただの我儘だとは分かってはいますが…」
「ヴァニタス殿下はアンゼリカ殿下、アーク達の平和を守る為に皇帝になる…と」
「あぁ、これが1番丸く収まるはずだ」
「うむ、しかし…ここでアークが両殿下と共に帝国に行く、当然、他の婚約者達もついて行く、皆、名の通った女傑達だ…そして、ヴァニタス殿下の後押し、アンゼリカ殿下の婚約者、王国の王族、ここまで揃っていれば、アークが皇帝になるのは難しい事ではない、これならば両殿下の意向に添えると思うが?」
「確かにこれならば刺客に襲われる心配もない…しかも、アーク達がいれば帝国を一から変える事も出来る」
「ここまでが感情論だ…そして、下世話な話になるが、我が国の利益だが…まず、アークが皇帝になれば王国との関係も盤石になる、敵国が一つなくなるのだ、これ以上の利益はない…それにアークが上手くやってくれれば、どこかしこに戦争をふっかけていた帝国も大人しくなる、こうなれば周辺諸国同士の国交も円滑になり、経済も回るだろう」
「確かにな…じゃが、アークを認めない貴族も大勢いるだろう、ヴァニタスが言った通り、自分の血筋を皇族に入れたい奴等は多いはずじゃ」
「そんな心配、必要かな?アーク自身も貴方達も充分、傑物だよ?」
「まぁの…」
「そして何より、アーク…君が一番どうにかしたかったんじゃないかい?」
おじさんの話を聞いて納得できる事はあったし、この方法が1番上手く纏まるのもわかる…けど、俺が皇帝に…?
「…………俺は…」
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