第90話 先生


私がこの世界に来てからもう一年半が経ちました、なんだか慌ただしくてあっという間だった…


魔界にも魔力が満ちて自然が増えて来たお陰で作物が育つ様になり、食料問題も少しは解消されて来ました、それでも一朝一夕には出来ないので、少しずつではありますが…


私は前の世界の農業の知識を活かして皆さんをお手伝いしています、まずはジャガイモをもっと実を大きくできる様に工夫したり、葉野菜などの育て方も農家の魔族達に教えました


そして、川も綺麗になったので魚はいないかサハギンやリザードマンなどの水場が得意な魔族達に探してもらったけど、まだ魚は1匹もいなかったそうです…復活したばかりだから生き物がいないのかも…何処からか連れて来て放流しないといけないのかな…


魔王さんやハングさんは息を吹き返した魔界の為に奔走している様で、忙しそうです

そんな中、私は畑の改良で外にいる時の休憩中にふと、川で遊ぶ子供達を見つけました


川が綺麗になってあんな事もできる様になって子供達は楽しそうに笑っている、あの笑顔の為に頑張ってこれたと実感するも少し羨ましいと思ってしまった…


「私も、友達とあんな風に笑ってたのかな…」


前の世界で、おにーちゃんが死んでから友達と遊ぶなんてしなくなった…それどころか人と関わることすら辞めちゃって1人だった…


「寂しいなぁ…」


そんな事を私はポツリと呟いて…そんな気持ちを振り払う様に仕事に戻った


その独り言を聞かれているとも気づかずに…


その日の夜、食事も済ませて国の食糧関係の書類に目を通していると誰かが尋ねて来た


「はーい、空いてますよー」


「失礼するよ、ユキ君…まだ仕事をしていたのか、しっかり休めているのかい?」


尋ねて来たのは魔王さんだ


「はい、ご飯も前より沢山食べられる様になったので…でも、まだまだ国民全体には十分に行き渡っていないので…少しでも早くお腹いっぱいに食べられたらって…」


「この国の…いや、この世界の者でもないユキ君にそれほどの事を押し付けてしまって申し訳ない…感謝しているよ」


「いや、そんな…こちらこそ住む場所を与えてもらっているので、そのお返しですよ…それより、何か用があったんじゃ…」


「あぁ、すまない…入ってくれ、今日は彼女を紹介しに来たんだ」


魔王さんが呼ぶとまた誰か入って来た…

うわぁ、綺麗な人…同じ女の私でも魅了された様に目が離せない…


「彼女はゼシア、サキュバスと龍のハーフだ」


「よ、よろしくお願いします」


「……へぇ、驚かないんだ…」


「え?…何をですか?」


「普通、サキュバスと龍の混血なんて聞いたら驚くもんなんだけど…」


「ゼシア君、ユキ君は別の世界の人間だよ、我々の常識を知らないんだ」


「異世界人ってこと…へぇ、そのせいなの?その異質とも言える魔力は…」


「ふむ…君を彼女に会わせたのはそれも理由の一つだ、君に、ユキ君の先生になってもらいたくてね」


「え?先生…ですか?」


「あぁ、あの時君は魔力に目覚めた、しかし、その保有量が尋常ではない…恐らくは私以上の魔力量だろう…魔力の使い方を知らない君はとても危険だ、君自身も周りもね…だから、その力をコントロールする必要がある、本来なら私が教えたい所だが…公務があって中々時間が取れない…そこで誰かいないか探していたんだが…」


「たまたま、この魔都に来ていた、私が選ばれたってわけ…しっかし、魔王さんが直接来たのには驚いたな…」


「え?魔王さんがお願いしに行ったんですか!?」


「そうだよ、それにさっきの先生の話の前に「あー!ゼシア君!そろそろ私は仕事に戻るよ…あとは任せたよ!ユキ君、それじゃあ」……ふふ、あの魔王があんなになるなんてね…」


「あ、あの…ゼシアさんが私の先生になってくれるんですか?」


「ん?あぁ、そのつもりだよ、報酬も貰ったからね…ちゃんと仕事はしないとね、それにあなたにも興味が出たから」


そう言ってゼシアさんは誘惑的な笑みを浮かべたのだった…

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