第88話 覚醒


作物が育たなければ、育つ場所に作ればいいのでは無いか?私が思ったのはまず、それでした

浅はかな自分を恥じる…


ハングさんに頼んで、魔都の辺りを探索してみたが…枯れ草ばかりの荒野…動物もいない…


これをどうすれば…私は何か手掛かりが無いか城の資料室で土地、伝承、気候、など片っ端から本を読み漁った…


結局、なんの成果どころか始めることすら出来ないでいたある日、遂に私は見つけた…


「大地の魔力?ですか?」


「はい、この本によるとこの世界のありとあらゆる物には魔力が宿っています、木、草、水、風、岩、そして大地、この魔界がこれほど荒れているのは大地の魔力が無くなっていることが原因だと思われます」


私は魔王さんと、ハングさんを呼んで考えを伝える


「城の書庫にそんな物が…何故今まで…」


「魔王様…その、司書官や文献や歴史の学者達は…もう…」


「そう…か…」


そうなのだ、飢餓により学者達が軒並み飢え死にしている…元々が体の弱い魔族達だった様で原因の究明に無理し過ぎてそれが祟ったのだ…私は研究途中の資料を見つけてそこから自分なりに推理してみただけなのだ


「大地には様々な場所に魔力溜まりと呼ぶ魔力の貯蔵庫みたいな場所があるんです、何千年か前に初代魔王がこの魔力溜まりを利用して自らの力を強化したと載っていました、恐らくそれが魔界がこんなになったせいだと思います」


「なるほど、確かに大地に魔力があった、と言う話は聞いたことがあるし、初代が何かをして力を得たという伝承もある…可能性は高いな…」


「しかし、それがわかったからと言ってどうするのですか?」



「魔力を戻すんです」


「戻す?」


「失われた魔力をまた、魔力溜まりに戻すことが出来れば大地は復活して魔界の自然が蘇る、そうすれば食糧だって確保できるはずです」


「しかし、仮にそのことが真実であってもこの魔界を満たすほどの魔力を一体何処から持ってくるのですか?」


「あ………」


そうだ…肝心の魔力をどうするかを考えていなかった…


「それは私がやろう」


「え?」「ま、魔王様!?」


「い、いけません!魔界が蘇る魔力量がどれほどのものか全くわからないのですよ!下手をすれば貴方は…………!?まさか!死ぬおつもりか!?」


「何を言う、誰が死ぬものか…私は魔王だぞ、この魔界で私より魔力を持っているやつなどいるものか…何より、これ以上民達が死んでゆくのを見るのはごめんだ…ユキ君の話には可能性がある、私はそれに乗るそれだけだ」


「ま、待ってください!確かに私はそう話しましたけど、まだ、なんの確証もないんです!それに!どうしてそんなに簡単に信じてくれるんですか!?」


「決まっている、私は知っているんだ…君が私の国の民達の為に寝る暇も惜しんで資料室に篭っていたのを、これでも人を見る目はあるつもりだ」


「そ、そんな事で……?」


「魔王様!貴方がいなくなればこの魔界はどうするのですか!?例え、魔界が蘇っても貴方がいなければ…」


「ハング、これまで支えてくれて感謝している…多くの民を死なせてしまった愚かな王だったが…よく尽くしてくれた」


「………貴方は………私も行きます、見届けます…魔王様…」


「わ、私も!行かせてください…私が話した事ですから…場所も資料にありました」


「では、転移する…私の体に捕まって…」


そう言われて私とハングさんは魔王さんの肩に手を置いた…その瞬間に、景色が変わった…


「ここが魔力溜まりか…」


目の前には大きな穴が広がっている…いや、穴というよりクレーター?


「昔、ここは湖だったそうです…魔力を失い枯れてしまった様ですが…」


なんだろう…ここに来てから体が熱い…何これ…?


「では、すぐに始める…ふん!!」


魔王さんがクレーターに魔力を注ぎ出した…すごい、これが魔力なんだ…感じたことのない力…うぅ、なんなの…何か、体が…


「ユキ様?どうされましたか?」


「い、いえ、なんでもないです…魔王さん、大丈夫でしょうか…」


「ギリギリまでは私も待ちます、しかし、彼の方はまだこの魔界には必要な人です、危なくなったら止めるつもりです、無理矢理にでも…」


その時、急に地面が揺れ始めた…


「な、何!?」


「これは……!?」


「ふふ…ふふふ………はーははははは!!!」


「ま、魔王さん!?」


「ユキ君!君の言った事は正しかった!この場所に魔力が満ちれば大地は蘇る!感謝するよ!」


「ま、魔王様!それ以上は!あれ以上魔力を注ぐと貴方の命が…!」


「何を言う!魔界が救われるのだ…ならばこんな命安い物だ!」


………あつい……あつい…

体があつい…なんで?なんで今なの?魔王さんが命懸けでやっているのに…止めないと…あの人は死んじゃダメだ……


「はーはっはっはっ!!ハングよ!!さらばだ!!」


「魔王様!!!」


ダメダメダメダメあついあついあついダメあついダメダメ………ダメ!!!


「ダメーーーーー!!!!!」


「!?ユ、ユキ様!?」


私はその場を飛び出して魔王さん押しのけた


「なっ!?ユ、ユキ君!?その魔力は…」


体に力が漲る…これが魔力……これなら!


私は手をかざして力を込める……出て……出て、魔力………出ろ…出ろ………


「でーろーーーー!!!!!」


私の両手から魔力が溢れ出す…


「な、なんというか魔力量……こ、これほどの魔力を人間であるユキ君が…!」


「こ、これは…魔王様よりも………」


「うぅ…。もっと……もっと…」


死なせない死なせない死なせない…誰も…死なせるもんか!


………有希………


「うわあああぁぁぁぁぁ…………!!!!」


辺りは凄まじい光に包まれて…私は気を失った…


「おに……ちゃ………」

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