第86話 私、働きたいです


おにーちゃんが死んじゃって、生きる価値を見出せない私は何故か異世界転移してしまいました…本当に意味がわからない…いや、そんな事よりも両親が心配だ…おにーちゃんに続いて私まで居なくなったら本当に自殺しかねない…


おにーちゃんの漫画では最終的には戻れる物語が多かったから希望はある、でも、それはあくまでも創作物だ、期待しすぎるのもいけないだろう…


とにかく、両親に再び会うためにここで私が死ぬわけにはいかない…あの怖い人…魔王とカエルの人、ハングさんとは多少は良好な関係を作れた…はず…どうしよう、私泣いてばかりだった…


すでにこっちの世界に来て1週間が経ってる…私はこれからどうしたらいいんだろう…ご飯はハングさんが持って来てくれるからお腹が空いて餓死っていうのはなくなった…でも、もらってばかりで申し訳ない…働かざる者食うべからずと言うし何か私に出来る事はないかなぁ…


「それにしても、このパン固いなぁ…スープも薄いし、魔王さんも同じの食べてたからお城全体…いや、国自体が食糧難なのかなぁ…」


「失礼致します、ユキ様…食器をお探しに参りました」


「あ、ハングさん、ありがとうございます……あの…私にも何かさせてもらえませんか?」


「はて?何か…とは…」


「ここってご飯があまりないんじゃないんですか?それなのによそ者の私にまでご飯をくれて…だから!私にも何か仕事をください…食事代くらいは自分で働いて返したいんです」


「ユキ様…分かりました…では、城を案内致します、城の者の仕事振りを見て貴方が出来ると思った仕事をお任せします」


「あ…はい!よろしくお願いします!」


「ふふ、少し気が早いですよ、では、行きましょうか」


ハングさんに連れられてお城の中を案内された…まずは厨房だ


「こちらが厨房です、皿洗いなど簡単な仕事もありますが、それなりに忙しいですよ」


「はぇ〜……あ、タコ?」


よく見るとタコさんみたいな魔族がいる、すごい…沢山の足で同時に数人分の料理を作ってる…


「あれは、料理長のコーランです、コーラン!少しいいですか?」


「あ、いや、お邪魔しちゃ悪いんじゃ…」


「お、なんだい!宰相様じゃないか!何か用か?……なんだこいつ?…………人間じゃねぇか!?」


「えぇ、魔王様のお客人ですが、仕事を探しておられます、人手は如何ですか?」


「あ?客ぅ?……そうさなぁ…最近、新入りを入れたばかりだから足りてはいるが、はぁ…おい、お前…俺の飯を食ったことあるだろ、どうだった?」


「え?いや、えっと…」


「気を使うな、正直に言ってくれ、大事なことなんだ」


「……あの、パンは固くてスープでふやかさないと食べれませんでした…そのスープも味が薄くて…ご、ごめんなさい!」


「謝るなよ…悪いのはうまい飯を作れない俺のせいだ」


「そんな事はありませんよ、貴方は少ない食糧をやりくりして料理をしてくれています」


「慰めはよしてくれよ…」


…どうやらこの国の食糧難は私が思っていたよりも酷く、深刻な様だ…


「………?……あれ?あれって……あ、あの!」


「どうかされましたか?」


「あれってなんですか?あの、カゴに入ったもの」


「あん?あぁ、あれは最近、食糧調達班が持って来た食材だ、ホレ」


手渡されたそれをよく見る…間違いない、これは!


「ジャガイモ…」


「ん?お前、これ知ってんのか?」


「あ、は、はい…もしかしたら違うかもしれませんけど、私がいた所では一般的な食材でした」


「ホントかよ?でも、これ試食したら何人か腹を壊したんだぜ?毒でもあるんじゃないのか?」


「毒があるのはこの芽の部分です、ここを取り除けば問題なく食べられるはずですよ……厨房、お借りしてもいいですか?」


「あ?………あぁ、かまわねぇよ、好きに使いな!」


よし!料理なんて久しぶりだ…まずはお鍋に水を入れて…あ、蒸し器がある、こっち使おう…ジャガイモの芽をとって…蒸して…塩をかけて…冷蔵庫には…バター発見!…牛もいるのかな?なら、んー牛乳…だよね?これ……なんだか私のいた世界と似た様な食材が多い………ん!?こ、これは……い、いや、今はジャガイモだ……でも、あとで確かめよう…


「完成です!じゃがバター!です!!」


「なんだぁ、蒸しただけかよ……あむ」


「どれ、私も……はむ…」


「ど、とうですか?」


「「…………………………………うま」」


じゃがバターは最強なの!おにーちゃんがよく作ってくれたなぁ…


「よかったぁ…」


「お、おい!お前、名前は?」


「へ?あ、ゆ、有希です」


「ユキさん!アンタを見込んで頼みがある!俺を弟子にしてくれ!!」


「………え?えええぇぇぇぇ………!?」

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