第73話 殲滅開始(北)
〜シャルティア視点〜
戦場に向かう途中、私は今回の出来事の本質を考えていた
何故、帝国の皇帝は今王国に侵攻しようとしているのか
何故、魔族と帝国の動きが重なっているのか
後者は帝国が魔族と手を結んだと考えればまだわかる…だが、前者は余りにも愚策だ
自国の兵力も回復しきっていないにも関わらず兵を動かした…それに、魔族との動きを隠そうともしていない
仮に王国を落としても諸外国に魔族との関係が露見してそれを理由に討伐の対象となるのは明白…
「…これは、帝国は既に…いや、この場合皇帝が……近くにいる10万の兵も…裏で動いている者がいますね、敵の狙いは王国も帝国もどちらも滅びる事…ソロモン様を襲った犯人が主犯と見て間違いない…その正体と目的は…………今の情報ではここまでですね」
私は思考を切り替える、眼前に蠢く魔物達を確認した…立ち止まりその塊に声をかける
「随分と隠れるのが下手な方ですね…そのまま消して差し上げても宜しいですよ?」
そう言うと魔物達は群がっていた物から離れていきそこから老紳士が現れる…しかし、赤い目尖った耳、白い髪に白い肌…口を閉じていても見える牙
「吸血鬼…ですか」
「ほぅ…一目見ただけで私の正体を見抜くとはなかなかの慧眼だ、レディ」
「大したことありませんよ?吸血鬼の特徴を隠しもしない貴方を見れば誰であれわかると思います…しかし、何故?貴方達、吸血鬼は人間と魔族の争いに関しては無干渉を貫いていたはずです…それが今、魔族の計画に加担している」
「ふふ…大した理由ではない、私は一族から追放され、魔族側に拾われた…ただ、それだけさ」
「そうでしたか…まぁ、貴方の事情などに微塵も興味があるわけではないのですが…吸血鬼全てが明確に人間の敵となっていないのは安心しました…さて、それでは今すぐ降参して魔物を戻しなさい…そしたら苦痛なく殺して差し上げますよ?」
「ふふ…面白い事を言うじゃないか、レディ?ここに来たという事はかなりの実力者なのだろうが、果たして…その要求を通せる強さに達しているのかな?」
瞬間、吸血鬼が消える…私は前方に手をかざす、そして魔力を収束させ
「!何を…」
「申し訳ありませんが、先にあちらを片付けさせていただきます」
魔物の大群、その中央に突如大きな竜巻が現れ魔物達を飲み込んでゆく、私は振り返り背後に移動している吸血鬼に笑顔を向けた
「な……な、何者だ?お前は…」
竜巻に飲み込まれ風によって切り刻まれる魔物達を見て、呆然としている吸血鬼は私に問うてくる
「ふふ、ただの学園の理事長ですよ?」
「なっ!こ、これは!?光の鎖!?お、お前、まさか!?殲滅天使か!?」
指を鳴らすと虚空より鎖が現れて吸血鬼を拘束する、すると彼は懐かしい名を口にした
「あら、私の事をご存知とは光栄です…けれど…私はその物騒な二つ名は気に入っていませんの…それはさておき、貴方が知っている事…全て、お話ししていただきますね?あぁ!大丈夫ですよ?喋りたくなる様に致しますから、ご安心くださいな」
「ま、待ってくれ!しゃ、喋るから!よ、よせ!うあああぁぁぁぁぁ…………!!!!!」
「ふふふ、これだから…私は1人の方がいいのよね」
吸血鬼の悲鳴と冷たい笑い声が森に響いた
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