第65話 信じろ


俺達は急いで広間に走った、そこで見たのは信じられない光景だった


「お師匠!!??」


「突然、ここに魔法陣が現れたかと思ったら、ソロモン様が…」


血だらけで横たわるソロモンの姿がそこにはあった…


「ソロモンさん…そんな、なんで…」


「アメリアちゃん!!手伝って!!」


母上が治療魔法を掛けている、その真剣な顔からかなり危険な状態の様だ…


「……………」


声を掛けられてもアメリアが反応しない…目の前の現実を信じららないのかと思ったが、震えている…アメリアの故郷は盗賊によって彼女以外は皆殺しにされている…恐らくその時の記憶が蘇ってきたのだろう


「アメリア!!しっかりしなさい!また、母親を失うの!?」


「っ!?」


母上が普段とは違う様子でアメリアに投げかけた、それを受けたアメリアははっとし、すぐさまソロモンに駆け寄り魔法を行使する


「止血は済んでるわ、でも傷が深いし血もかなり流れている、ヴァニタス君、アンちゃん、貴方達の血液は師匠と同じよ、輸血に使うから少し貰えるかしら」


「勿論です!」


「幾らでも使ってくれ!!」


「私も何か手伝う」


「私も出来ることはありませんか?」


皆ソロモンを助けるために必死で出来ることを探す、けど俺はただ立ち尽くしていた


「…………ソロモン…なんで…」


彼女の傷を見る、明らかに人為的に付けられた傷だ…ソロモンが負けた?誰に?……


「誰だ…」


誰が、彼女をこんな目にあわせた……誰が俺のソロモンを傷付けた?


「…………許さない…」


師匠……ソロモン……俺は…

頭の中が真っ黒になりそうな時、肩に誰かの手が置かれた、力強くて大きな手だ

振り返ると


「何をしている、アーク」


「ち、父上…」


我が父、アドルフがいた…彼も急いで戻ってきたのだろう…少し息が荒いし、汗もかいている


「殺気が漏れているぞ、僅かだがな…」


「父上…俺は…」


「お前の気持ちもわかる、愛する者を傷つけられて怒らない筈はないからな、ましてやお前なら尚更」


「………………」


視線を下に落とす…当然だ、俺は怒っている…あの人をあんな目にあわせた奴がいるって考えると頭がおかしくなりそうだ


「だがな、今、お前がやるべき事はそうではないのではないか?」


「……え?」


顔を上げると父上は俺を見ていた…とても厳しく、しかしどこか優しい目で


「お前にとって彼の方はなんだ?彼の方の為にお前が今、すべき事はなんだ?愛する者が死の淵に立たされた時、お前がなすべき事はなんた!?」


「俺の…成すべきこと………ソロモン!」


「わかっているならいい、城に早馬を出した、王妃様も駆けつけてくださるだろう…お前は彼女を信じろ」


「はい、ありがとうございます…父上」


俺はソロモンのそばまで行き、母上やアメリアの邪魔にならない様に彼女の手を握った…


俺には回復魔法の才能がないから、使えない…前の世界でもただの学生だった俺に医学の知識もない…俺には傷を治す術がない…それでも彼女を信じてそばにいる事は出来る…


手が冷たい…顔と土色になっている…息も辛うじてしている様だ…


「ソロモン…頼む…頑張ってくれ…」


両手で彼女の手を握り祈る


「大丈夫」


声が聞こえて顔上げる、アメリアが懸命に治療していた


「必ず、助ける…もう絶対…家族を死なせたりしない…だから、大丈夫」


「アメリア…」


「任せなさい、アーク…私にとっても師匠は大切な人、それに今は貴方の婚約者、私達の家族よ…絶対に死なせたらなんかするものですか」


「母上……2人共、お願いします」


治療は日を跨いでも続けられた

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