第50話 殺してやろうか?
「ぇ……ぁ……」
「俺は命を粗末にする奴が嫌いだ…生きたくても、自分じゃどうしようもない事で命を落とす人がいるんだ…俺は、お前より、辛い目に遭ってきた人達を知ってる…家族も友人も知人も故郷すら失っても強く生きている人達を俺は知ってる」
この世界の命は前世と比べると軽い…魔物、盗賊、病、災害、戦争、権力争いによる暗殺なんかもある…それでも、アメリアもアルもシャルだって強く、美しく今を生きてる
「なのに自分の命を軽く見て、簡単に捨て去る事なんて絶対に許さない…」
「わ、私は…」
「お前は…死にたいのか?ヴァニタスを置いて…あいつを1人にしてさっさと楽になりたいのか!?」
「ヴァニタス……」
「答えろ!アンゼリカ・ノア・ワール!」
「……たい……」
「あ?」
「生きたい!死にたくない!でも!もう疲れたの!もう沢山なの!私は他人が何を考えてるのかを考えて、相手の機嫌を損なわない様にして、無難に過ごそうと努めてきた!ヴァニタスを守る為に、あの子の周りを平穏にする為に周囲を整える事もした!私にはあの子だけだから!私の味方はあの子だけ!あの子の為ならなんでも出来ると思った!」
アンは溜め込んでいたものを全て吐き出す様に自分の思いの丈を叫ぶ…
「でも…でも…私は自分が思っていたよりも、身も心も強くはなかった…刺客に襲われて、対処出来ると思ったのに…歯が立たなかった…殺されそうになって…私は……もう、苦しまなくてもいいと…そう、思ってしまった…」
力無く座り込んでいるアンは涙を流しながら、拳を強く握っている…
彼女は優秀であった為に、人との関係を上手く作る事が出来ていたのだろう…だが、母親は産まれてすぐ亡くなり、父親に愛されず、心を許せる相手もおらず、権力を求める相手から弟であるヴァニタスを1人で守り続けて、この国まで来た…たった15歳の少女がだ…
アルが言っていた…王族も人間なんだ…支えてくれる人がいなければ折れてしまうと…アンは折れてしまったのだろう…
「アーク様…私は死にたくはないです…ですが、もう疲れてしまいました…もう人の本性を気にして生きていくのは嫌でなのです…」
「なら、辞めればいいじゃないか…ここは帝国じゃない、君だって…分かっているじゃないのか?権力目当ての愚かな奴らは、全くではないけど帝国よりはずっと少ないよ」
俺はアンの顔を上げて涙を拭い、その瞳を見つめる…
「この国にはきっと、君が心から気を許せる人々がいる…この国で産まれ、育ってきた僕が保証する…学園でも友人だって出来るよ、それに…ヴァニタスだって、もう守られるほど弱くはない筈だ、男は気が付けば勝手に強くなっているものだしな」
「アーク様…本当にそんな人がいるのでしょうか…私は…私のままで…何も気にせず…」
「勿論、僕も助ける…ヴァニタスだって君の幸せを願っているよ…そうだ!今度、僕の家に来なよ!皆、すごくいい人達だよ!」
「それは…ですが、ご迷惑では…」
「ううん、そんな事ないよ…それにアン、ヴァニタスもだけど、卒業したらどうするの?」
「え?…私達は、恐らくこれからも帝国から狙われると思われるので…ヴァニタスが安全に暮らせる様にと思い、なんとか策を考えて帝国を潰すか、私達を諦めさせようかと思っていましたが…」
「やっぱり、復讐は嘘でヴァニタスを守る為にか…なんで復讐って言ったの?」
「私個人としても、思うところがあったので…」
「そっか…で、その復讐もどきしか考えていなくて、卒業後の事は何も考えてないと……」
「うっ…はい……その通りです…」
「うん、ならやっぱり僕の家に来ればいいよ!これでも公爵家だしね、2人くらい住まわせるくらいは簡単だから」
「え?そそそそ、それは!?一体どう言った意味ですか!?」
アンは急に立ち上がり、顔を赤くして慌て出した…どうしたんだ?僕、変なこと言ったかな?
「えっと…行くところがないならウチに住まないかって意味だけど…」
「い、いくらなんでも色々と飛ばしすぎでは!?まずはもっと親密になって…いきなり同じ家に住むなんて…いくら、ヴァニタスが一緒だと言っても…」
「?まぁ、アメリアもアンいるし、師匠もいるからヴァニタスも大丈夫だろ」
「え?……アメリア?アン?………」
アンが石になった様に固まった…ホントどうした?さっきから?
「ア、アークさ…ま?あの、アメリア先生とアルシェール先生も貴方の家に住んでおられるのですか?」
「そうだけど?」
「…………はぁ」
アンが物凄く深いため息を吐いた
「え?なに?どうしたの?」
「アーク様は酷い人ですね、私を弄んで、楽しいですか?」
「いや、なに言ってんの!?」
なんの話だよ!行くとこないならウチに住めばいいって善意100%で言ったのに!
「アーク?アンゼリカ皇女を弄んだってどう言う事?」
「ア、アメリア?なんでそんなに殺気出してんの?」
駆けつけたアメリアがハイライトを消して、無表情で佇んでいた…やめて…その振り上げた手を下ろして…
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