第39話 居場所


シャルの話を聞か終わるとすでに放課後になっていた


「アーク様、特に意識をして2人に接しようとしなくて大丈夫ですよ…貴方はありのまま、思う通りに寄り添ってあげてください」


そんな事言われても…僕に何が出来るって言うんだ…産まれてすぐに母を亡くし、父からも愛されなかった2人…国を捨てるほどの虚無感、悲壮感、孤独感…彼等が何を思って決断したのかはわからない…


「僕も一応は王族だけど家族にも大切にしてもらって屋敷の皆や師匠、アメリア達の様な大切な人もいる…同じ気持ちを持つ事も出来ないのに……導……か」


「いた!アーク!!」


「ん?…」


聞き覚えのある声に呼ばれそちらを向くと…大変ご立腹な顔をしたシルがこちらを睨んでいた…忘れてた…


「シ、シル…ごめん…少し用事があってさ」


「何があったの?」


「え?」


僕の顔を見たシルが怒りの表情を引っ込め不安そうな顔で僕を見つめている


「あなた、今すごく悲しそうな顔してるわよ…気付いてないの?」


「え…あ、気付かなかったよ…怒らないの?」


「もう!約束をすっぽかしてどこに行ったと思えばそんな顔してるんだもん!話くらい聞くよ?私達、と、友達…でしょ?」


シルが照れた様に言う


「うん、そうだね……少し聞いてくれないかい?僕じゃどうにも考えが纏まらなくて…」


「出来る事なら、手伝うわ!」


「シルは国を捨てたいって思ったことある?」


「い、いきなり重いわね……国を捨てる……ないわ」


「それはどうして?」


「だってこの国にはお父さんとお母さん、村の皆、貴方がいるから!」


「そっか…そうだよね、普通は大切な人達がいれば国を捨てるなんて思わないよね……なら、怒らないで欲しいんだけど…もし、シルが両親からも誰からも愛されなかったら国を捨てた?」


「え?…………わからないわ…皆、私に良くしてくれるし…そんな事想像なんてした事ないから……もしかして、アーク…国を出るの?」


「あぁ、ごめん…僕の話じゃなくてね…知り合いなんだけど…誰からも愛されてなかったみたいなんだ…それで国を捨てて違う場所に行ってしまった人なんだけど…その人に何が出来るだろうって」


「そう……誰からもってのは、寂しいわね…ずっと1人だったって事でしょ?人は1人では生きてはいけないからとても辛いはずよ…そうね……側にいてあげる事じゃないかしら…」


「側に?…それだけ?」


「うん、ずっと1人だと急に歩みこられると戸惑っちゃうし、警戒するかも…だからまずは側にいて友達になれる様に少しずつ話していけばいいと思う…私は貴方の味方だよってわかってもらえればきっと…ね?」


「側にいる…か…うん、ありがとう…シル」


「いいわよ!友達なんだから!その人この学園の人なんでしょ?上手くいったら紹介してね!」


「うん、勿論だよ」


「うん!期待してる、じゃあ…私は戻るわ、明日は忘れないでよね!」


「わかった、それじゃあ…ありがとう、シル」


シルと別れ、寮へと戻るとちょうどヴァニタスと会った


「やぁ、ヴァニタス…今から夕食?」


「あぁ、そうだが…ちょうどいいお前も付き合え、少し話がある」


「わかったよ、僕も聞きたい事がある」


ヴァニタスと一緒に食堂で夕食を取る


「それでなんだい?」


「お前の魔法の事だ、入学試験の日に使っていた魔法剣…あれはどうやって覚えた?」


「父上から学んだよ…」


「お前の父親…確かこの国の騎士団長だったな…なるほど、かの御仁に師事を受ければあれだけの技を会得できるか…お前の努力にも敬意を表する…羨ましいよ…」


「ヴァニタス……」


父親のことを言っているのだろうか…


「ヴァニタス、聞いてもいいかな…」


「なんだ?」


「この国にはどうして来たのかを…」


「………簡単な話さ、俺は…俺達にはあの国に居場所がなかった…それだけだ…」


「居場所…」


「母は俺達を産んで死んだ…父はそんな俺達を母の仇としか思ってなかった…臣下も自分の権力のみを求める醜悪な人間ばかりだ…一時は民のためにと思ったが…それも無駄だと知った…あの国は…帝国は王族だろうが、貴族だろうが、平民だろうが、何も変わらない…強欲で怠惰で怠慢で我が身の事しか考えないそんな人間達しか居なかった…探せばまともな奴もいたかもなでも…もう無理だった…俺も、アンも…限界だったんだ…それで俺達はこの国には逃げてきたんだ……」


「ヴァニタス……」


「全部知ってたんだろ?…お前は只者じゃないからな」


「どうして…」


「お前の魔力は明らかに普通の奴とはかけ離れている…それと俺の感だ…」


「うん、君たちの事情を聞いている…」


「なら、俺達には深く関わるな…学生の範囲なら会話をしてやる、俺もお前の魔法には興味があるからな…だが踏み込んでくれるなよ…俺達はもう俺達しか信じない…お前はいい奴なんだろう…それでもなんだ…アークライド…」


そう言ってヴァニタスは部屋に戻って行った…だったらなんでそんな顔してんだよ…馬鹿野郎…

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