第38話 決めるのは自分自身


「話が逸れてしまいましたね…アーク様、初代の事を今考えるのは無意味です…」


「あ、あぁ……今はヴァニタス達のことだったね…えっと…彼等を学園で匿うのは理解できた…で、帝国の王弟によるクーデターだよなこれって…つまり次の皇帝になる可能性が高いヴァニタスとアンを暗殺を企み、自らが皇帝になろうとしているその王弟の刺客から匿う為にこの学園に入学させた…と」


「概ね、その通りです」


「……本人達はなんて言ってたんだ…」


「…………それが…」


シャルが気まずそうな顔をした


「どうしたの?シャル…」


「実は2人とももう国には帰らないと言っているのです」


「え?それって国を捨てるってこと?」


ずっと黙って聴いていたアメリアが反応した


「えぇ、彼等は父親である皇帝からは愛されてはいなかった様なのです…これは有名な話ですが皇妃は2人を産んですぐに亡くなっているんです…双子の上難産だったそうで…それが理由なのかわかりませんが…皇帝は2人を全く気にかけなかったと…皇帝としての責務のみに身を捧げていたと」


「それは…」


ヴァニタスとアンが悪いわけではない…この世界の医術は魔法に頼った面があり前世の様な高度な技術がない…勿論、向こうの世界でも不治の病は存在する…前世の僕もそれが原因でしたんだから…それでもこちらよりは死亡率が断然低い筈だ…出産の事はよくわからないけど…皇妃が助かる可能性もあった筈なんだ…そう思うと歯痒さを感じる


皇帝は皇妃を失った悲しみか怒りを2人に押し付けたのだろう…2人が国を捨てる選択をさせるほどの…でも、愛する人を失う事はとても辛い…そのせいで人生を諦めてしまう人もいるのも事実だ…


「彼等によると、皇帝は皇妃以外の側室も持たなかったそうです…愛して…いたんでしょうね…」


「それでも…ヴァニタスとアンゼリカを蔑ろにしていい理由にはならないよ……皇帝を責める気にもなれないけどね…」


「私は…国が…無くなって…家族も…臣下も…民も…誰も…いなくなった…です…でも…もし…臣下も…民も…まだ残って…国が…あっても…私は…お父様と…お母様が…いない国を…王族として…収めようとは…思えない…かも…です」


「アル…」


「私は王族でも貴族でもない、ただの田舎の村娘だったからアルやその2人の気持ちを理解出来るとは思わないけど…国を捨てるほど…辛いことがあったのよね…」


「王族だって…人間…です…支えてくれる…人達が…いなかったら…折れて…しまう…です」


2人には支えてくれる人がいなかったのかな…臣下や帝国の民達は…2人にどう接していたのだろう…


「シャル…この話を僕にして、どうしろって言うの?」


「アーク様なら2人の道を灯すことが出来ると思いお話しました、かつての貴方が私達にした様に…」


「僕は何もしてない…できないよ…君たちが自分の力で乗り越えたんだ、僕はその手伝いを少ししただけさ」


「その少しの手伝いを期待しております、自らの道筋を決めるのはあくまでも自分自身…ただ暗闇の中、己が進む道に迷う者を光で灯し…彼等の導となってください…私達の勇者様」


「……僕は勇者なんて柄じゃないよ…いつも自分の為に動いてるんだ…」


僕は君達に泣いてほしくなかっただけ……でも彼等にも泣いて欲しいとは思わない…

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