第36話 君には才能がある


結局、寮の門限を初日で破るわけにはいかず3人には逃げられた…夕食は寮の食堂で済ませて自室に戻る…


「ふぅ、明日から授業が始まるか…」


僕は上手くやれるだろうか…友達も作れるのかも不安だ…マリィは従兄妹だし、ヴァニタスは魔法目当て…アンはよくわからない…帝国の狙いもまだ謎だし…アメリア、アルは教員としてここに働きに来てるんだし、シャルなんかは理事長だ気軽に会いに行けないだろう…となるとちゃんとした友人を作らないとぼっちになってしまう…公爵家というので権力によってくる以外の人と仲良くなりたいのなぁ…そんな事を考えながら教室に向かう途中で


「あ、あの!」


「ん?……君は…」


不意に声を掛けられる、どこかで見た様な気がする…どこだっけ?


「あの!私シルって言います!昨日はありがとうございました!」


昨日?………なんだっけ?……あ!


「あー昨日男子生徒に絡まれてた子か!」


「はい!そうです…あの時はお礼も言えなくて、本当にありがとうございました!」


「いや、いいのに…わざわざ気を使ってくれて申し訳ないな…あれはせっかくの入学当日なのに彼等のせいで不快な気持ちになったから、自分の為にした事だよ」


「それでも、助けてもらったので…母からも恩には誠実に向き合いなさいと教えられていますし」


「いいお母さんなんだね…あっ僕は、アーク…アークライド・ルグウィンだよ…よろしくね、えっとシルでいいのかな?僕もアークでいいから、様もなしで敬語もね」


「い、いえ!そんな公爵家のお方を馴れ馴れしく出来ませんから!」


「でもね、シル…この学園に入学したからには僕らは対等な一生徒だ…魔法を学びに来ている僕らには身分なんて必要ないでしょ?あるのはここで学ぶという意思だと僕は思うな」


「は、はい…えっと…そうです…そうだね、ア、アーク…君?」


「あはは、いきなりは難しいかな?まぁ徐々に慣れればいいよ、シルはクラスは?」


「わ、わかりました…あ、わかった…えっとAクラスで…だよ」


「へぇ、優秀なんだね…どうしてこの学園に?」


平民でAクラスか…才能があるんだろうな…魔力を探ると潜在能力が結構あるな…キチンと学べば上位の魔法師になれるぞ、彼女は…


「えっと、私は王都から離れた小さな村の出で、両親は農家なんです…それでたまたまうちの村に冒険者がやってきて、しばらく滞在してたんです…優しいお姉さんだったんですけど…その方と少し仲良くなって魔法の事を教えてもらって、魔法を覚えれば畑作業とか楽になってお父さんやお母さんの助けになるんじゃないかなって思って…お姉さんに魔法の適性が高いって言われて…両親に相談したらやりたい事を精一杯やって来いって送り出してくれたんです」


こ、こんないい子がいるなんて…両親の畑仕事を助けたいってだけでAクラスに入れる実力が身につくまで努力するなんてこの子は凄く優しい子なんだな…力になってあげたい


「ねぇ、どうせならSクラスを目指してみない?」


「え?わ、私がSクラスなんて…無理ですよ!Aクラスだって奇跡的に入れたのに」


「いや、君の潜在能力はずっと高い正しく学べば1ヶ月も経たずにSクラスの実力になれるよ」


この学園に入学してAクラスって事は基本や応用はできてる筈だ…恐らく環境的に十分な知識が学べなかったんだろう…それでもここまでの力をつけたこの子の努力は凄まじい…正しい知識と理解をすればかなり伸びる…僕の予想ではマリィやアンにも届く筈だ


「で、でもそんなのどうやって…」


「僕に任せて!君を必ずSクラスまで連れて行くから!君にはそれだけの才能がある…僕は今のままの君を知ってしまったらほっとくなんてできない!勿体無いよ!どこまで出来るか知りたくならないかい!?」


「ほ、本当に私にそんな才能が…?」


「ある!断言しよう…君は宮廷魔法師にだってなれるし、冒険者ならSSクラスにだってなれる!勿論、相応の努力が必要だ…決して楽ではないよ、君が思っている何倍もね……どうする?」


「私、魔法師や冒険者になりたいわけじゃないんです…少し魔法が使えて両親の助けになれたらなって思ってて…それが私のやりたい事なんだって……少し考えさせてください…本当にやりたい事…探してみます」


「うん、待ってるよ…シル、君の人生なんだからよく考えて悩んで答えを出すといいよ」


「はい…ありがとう、アーク…」


キーンコーンカーンコーン


「「あ…」」


「や、やばい!夢中になって話しすぎた!遅刻だ!」


「ど、どうしよう!今のは予鈴だけど今からじゃ間に合わないよ!」


「シル!君のクラスはどこ!?」


「え?えっとSクラスの2つ隣!」


「よし!なら教室がある廊下まで行こう!手を出して!」


「え?な、なんで?そんな事より走らないと!」


「いいから手を!」


僕は強引にシルの手を掴むとテレポートを発動景色が一瞬で変わる…よかった、誰もいないな


「よし、上手いこといったな」


「え?え?私たち外にいたよね…なんで廊下に…アーク…今のって…」


「話は後にしよう!教室に行かないと!」


「あ!アーク!ちょっと!…もう!後で説明してよね!」


僕らは急いでそれぞれの教室に入った

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