第29話 危なかった


子フェンリルことフェリを連れて帰ってきたのだが…


「まぁ!可愛いワンちゃんね〜綺麗な毛並みでもふもふだわ!」


「ほぅ…随分賢い様だな」


「ワンちゃん〜!」


「おい、そいつ…フェンリルの子供ではないのか?」


「「え"」」「?」


最初は歓迎していた両親だが師匠が正体を告げると固まってしまった…当然か…

何とか3人で事情を説明すると了承してくれた

屋敷の者以外では犬と言うことにして正体は隠すと言う条件付きではあるが

確かにフェンリルが街中にいるのが知られると騒ぎになりそうだ


エステルもフェリが気に入った様で良くご飯をあげている…フェリもエステルによく懐いている…戯れあっている姿は何とも微笑ましい光景だ


ちなみに森にいた密猟者は騎士団に引き渡した…父上からはまだ何も詳しい情報は聞き出せないそうだ…恐らく使い捨ての手駒ではと思う…アルに頼んでギルドにも調査してもらおう

フェンリルを狙うなんて碌な事ないしな


フェリがウチに迎えられて数日後僕らは再び死の森にやってきていた

今回は依頼ではなくアメリアとアルとの訓練だ


「そこ!」「スキあり…です!」


2人とも全力で僕に襲い掛かる

アメリアの飛ばす稲妻を避けアルが振り下ろす大剣を白刃取りで受け止める…衝撃で地面が沈む…


「今!…です!」


アメリアが背後に迫り稲妻を纏ったレイピアと突き出してくる…


「嘘!」「ありえない…です…」


背後で金属が打つから音が発せられる

僕は振り向きもせず背中に魔力障壁を極小に展開してアメリアの攻撃を防いだ

2人は飛び退き距離を取る


「なんて魔力操作の精度よ…しかも私がどこを突くか見ないでわかるなんて…」


「アーク様…気配察知…すごくなってる…です」


「どーしたの?2人とも僕、まだ魔法剣も使ってないよー」


2人がぶつぶつ言っているので、分かりやすく挑発してみた


「いい気になって…アル!魔力全開で行くわよ!」


「了解…です!!」


2人の魔力が更に上がる

アメリアの体に稲妻が帯電している…アルは全身から凄まじい魔力と闘気が迸っている…

2人が同時に地を蹴る


「覚悟しなさい!」「行く!…です!!」


「かかってこい!」


剣に魔力を乗せ迎撃に入る……

アルの斬撃を剣で逸らすように受け流す…まともに受けたら折れそうだ…大剣を踏みつけ地面に深く刺す、そのままアルに剣を振り抜こうとするとアメリアが真上から落雷を落としてくる…ってそれアルにも当たる…アルは大剣から手を離し既に離脱していた…誘われたか!


自信を中心に火柱を展開して上に立ち上げ迎撃…アメリアがいない!

しまった!上に気を取られ過ぎた…


下を向くと身を屈めたアメリアが懐に入ってきていた…右手を突き出し恐らく今の攻防の間に貯めたであろう稲妻が迸る魔力を放出する

凄まじい閃光と轟音が周囲を埋め尽くす


「これでどう!」「やったの…です」


砂塵が収まり視界がクリアになるとそこには無傷の僕が立っていた


「今のは危なかったよ」


「ケロッとしてる癖に、ホントに常識はずれね…」「規格外…です…」


「まだやるでしょ?」


「当然よ!その余裕ムカつく!」

「調子に乗りすぎです!絶対ぶちのめしてやるのです!」


この後もしばらく死の森の大地が揺れていた

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