第7話
三十分ほど、学校のこと、クラスのこと、それまでとは違い当たり障りのない会話が続き、やがて若山さんは満足げに私はそろそろ帰らなきゃと去って行った。
取り残された僕も、彼女になんとなく手を振って、家路につくことにした。
赤澤さんからのメッセージに気づいたのは、風呂をすませて自分の部屋に戻ったときだった。
『若山さんと何か話した?』
なぜかハートのスタンプと一緒だ。
何と返そうかと考えるが、やけに彼女との関係を知りたがっていたことを思い出して、そう返す。
『ほー。気になっちゃうんだね。私、邪魔者かな』
『何で邪魔なの?』
『うそ? 気づいてるよね?』
僕はここで詰まった。気づいてはいる。でも実感が無い。赤澤さんが言わなければ、頭をかすめもしなかっただろう。
『わかるんだけれど、困るって言うか…。いや、困るかも』
『何? ダメなの?』
『ダメって、言い方!』
『もしかして、好きな子いたりするの?』
ああ、今日二度目だなと思う。でも、さっきはうやむやにしてしまったけれど、赤澤さんに誤魔化してはいけないだろうと思う。
スマホ越しだったこともあるのかも知れない。想いは、案外簡単に打ち込めた。
送るか送らないか。そこまできてはじめて指が迷う。
少し間を置いて送られてくるスタンプには、口に手をあてるキャラクターが顔を赤らめている。
僕の指はなおも迷って、画面のかわりに机をタップした。
『ごめん、むりやり聞くことじゃないね』
じゃっかん前のめりだったことに気づいたのか、我に返ったようなメッセージが届く。僕は少しほっとしつつも、これを送ったらどんな顔をするだろうかと考えてみた。
たぶん、困るだろう。戸惑うだろうし、十中八九は振られて、明日からは他人行儀にされる。そんな様子が目に浮かんだ。
僕は、打ち込んだ文字を削除して、一息つく。
『いるけど、秘密』
まったく、しまらない話だと思う。LINEでは親しげに会話をしていても、同じ教室にいて一言も交わさない相手に、僕はいったい何を告げようとしていたのだろう。
『そっか』
返事は控えめだった。
自分の部屋なのに、何だか居心地が悪くなって、僕は身じろぎする。何と言ったらいいものなのか。
『あんまり自分には関係ないことだと思ってたけど』
やや時間をあけて、そう前置きした。
『よく知らない人の好意って、どうしたらいいかわからない』
これは、いったい誰に向けたのか。僕自身にだろうか。
はからずも、恋に落ちる。 少覚ハジメ @shokaku
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