第5話
なんだかおかしな具合になったと思ったのは、その日の帰り道だ。
昨日と同様、赤澤さんたちが僕の前方を歩いている。
だが、それはいい。
昼休みの事が思い出されて、僕がふとあたりを見回したとき、後ろを歩いている若山さんを見つけたのだ。なるほど彼女も帰り道が同じだったらしい。
若山さんははじめ、僕のさらに前、赤澤さんたちを注視している様子だったが、見られていることに気付いたのか足元に視線を落とした。
この図式はいったい何だろう。まさか赤澤さんを監視でもしているのだろうか。昨日はこの先で彼女と一緒に帰ったので、それを見かけての問いかけだったのだろう。
でもそれが若山さんと何の関係があるのか、そこがさっぱりわからない。普段の彼女が噂好きだとか、色恋沙汰に目がないとか、そんな感じでは全然なかったということもある。
釈然としないまま少し歩くと、赤澤さんが友達と別れてひとりになった。手を振る合間にに僕を視界におさめたようで、一瞬、目線が僕の顔に止まった後、さらに後ろに向けられる。どうやら彼女も若山さんの存在に気付いたようだ。
赤澤さんが少し頬を緩めた気がして、僕は曖昧な表情を浮かべるが、結局、彼女はそのまま一人で前を歩き続けて、やがて分かれ道を折れ、振り向きもせずに行ってしまった。昨日みたいに途中から一緒に帰れることを少し期待していた僕は、肩すかしを食らった感じだったが、後ろに若山さんがいることを思い出すと、これ以上の誤解とは言いたくない勘違いをさせることもないと、ため息をついて諦めることにした。
何となく気勢をそがれて立ち止まると、ポケットのスマホが震え、着信を知らせてきた。手に取ると、赤澤さんからのLINEメッセージが届いている。あわててタップすると、『がんばれ』という文字と何かを応援する奇妙なキャラクターのスタンプが目に入った。
がんばれ。何を? 首を傾げていると、若山さんに声をかけられてしまった。
「加賀見君、なんかあった?」
スマホを片手にたたずむ僕を見て、何かを感じたのだろう。視線が僕の顔とスマホを行き来する。
「いや、なんにもないけど…、メッセージ見てただけ」
とりあえず、それだけ答えたが、若山さんは少し訝しげな顔をしている。
「そう、何かあったみたいな顔してたから」
「いや、本当になんにもないよ」
うん、多分なにもない。メッセージの意味はまるでわからなかったけれど。
「ふうん」
そう言う若山さんは、何かを決めかねている様子たった。僕もなんとなく別れを告げられず、少しの間、二人でなんとはなしにその場にとどまっていた。
「加賀見君のうちって、どの辺なの?」
「え? あ、あー。…スーパーの少し先」
「なら途中まで一緒だね」
「うん?」
「帰ろう」
いかにも一緒に行こうという感じだったので、つい隣に並んでしまってから、何も話題が無いことに気づいた。
「加賀見君って、徳井君たちと仲いいよね」
向こうから話を振ってくれたのが、正直ありがたい。
「ん、一年間の時からクラス一緒だしね」
「部活とか、してなかったよね?」
「中学まではテニスしてたんだけど、あれって見るのと全然違ってさ」
「けっこうきついでしょ?」
「すごく走らされるんたよね」
会話が続くことに僕自身が驚いていたが、若山さんは屈託無い。
やがて昨日のコンビニに差し掛かっても、彼女はまだ隣を歩いている。ここまで道が一緒なら、アイスを食べていたことも知っていたのではないのかという疑問が頭をよぎるが、昼休みの会話では、そこは何も言われなかったので不思議に思う。
「あの、若山さんのうちはどのへん?」
「えーっと、コンビニの手前の道を曲がるんだけど」
「今、過ぎたよ?」
若山さんがじゃっかんあわてたような顔をする。
「あ、コンビニね、寄ろうかと思って。ねえ、少し待っててよ」
言うなり彼女は店に入ってしまい、五分もしないうちに戻ってきた。手に二本のアイスを持って。
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