第4話
「ちょっと、聞きたいんだけど」
と、若山さんに真剣な声と目つきで言われたのが昼休みで、お弁当を男子だけで囲って食べ終えたあとのことだった。
一緒に食べていた徳井がなんだ? という顔をしているが、若山さんはそれに構わず僕の制服の肩を引っ張るので、立たざるを得なくなった。
「こっちきて」
僕はなすがままだ。
「な、なに?」
と、理由を聞くが、返事はない。
教室を出て、屋上へ向かう階段の踊り場まで連れられてきた時には、すっかり困惑していた。
力強い黒い瞳と、活発そうなショートカットの彼女は、小柄だが気が強いことでクラスに知られている。
何か気にいらないことでもしてしまったかと考えてみるが、そんなことをするほどの接点がない。やがて意外な言葉が若山さんから発せられた。
「赤澤さんと付き合ってるの?」
単刀直入というやつだったが、鼻息荒く問われるのはなぜだろうか? しかも赤澤さんと付き合っているか? とは。
「いや、話したのも最近…」
「でも昨日、一緒に帰ってたじゃない」
見られていたのかと、少し驚いたが、つとめて冷静なふりを装おうとする。
「あ、たまたまね…。帰る方向が一緒だったんで…」
「仲良くない人とは一緒に歩かないと思うけど」
なぜこんな尋問のようなことをされなければいけないのか、そもそも何が聞きたいのか、僕にはさっぱりわからない。かと言って、大迫君の話をしていたと言うのもまずいと思う。だが、アイスを食べたところまでは見られていないらしい。でなければ、追求はもっと厳しいはずだった。
「いや、本当に、たまたまだよ」
若山さんはしばらく僕の目をじっと見ていたが、やがて、ふうん、と目をそらした。
「違うんなら、別にいんどけど」
僕としては違わない方がありがたかったが、現実に違うのほ悲しいことだと思う。
「…聞きたいって、それ?」
「あ、うん」
答える彼女からは圧のようなものが消えた気がする。視線も少し和らいでいるようだ。
「何でそんなこと…」
「確かめただけ」
なぜ確かめられないといけないのか、その辺りがよくわからない。そもそも仮に赤澤さんと僕が付き合っていれば何だと言うのか。そんな事を考えていると、じゃあさ、と若山さんが控え目に切り出した。
「加賀見君、好きな人はいる?」
それはいる。いるけれど、ここでいると言えばそれが誰かと追求されそうな気がした。最後には赤澤さんの名前が出てしまうに違いない。
「…いない」
思い切り、嘘をつく。嘘だって、方便と言うではないか。方便というのは、たしか仏教用語だと何かで見た。
「なら、いいんだ。なら…」
彼女の声のトーンがじゃっかん上がって、気の強さが少しひいた気がする。とは言え、好きな人すらいないことを、いいんだ、ですませていいものだろうか。いや、実際にはいるけれど。
「ごめんね、戻ろうか」
若山さんの機嫌が少し良さそうに感じるのは気のせいだろうか。聞くことを聞いたらすっきりしてしまったとか? そもそも最初のあの当たりのきつさは何だったのか。まったく訳がわからなかった。
教室に戻ったと同時にチャイムが鳴って、僕らは急いでそれぞれの席につく。徳井の何をしているんだという視線と、赤澤さんが僕と若山さんを交互に見る視線が教室に錯綜して、居心地が悪かった。
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