彼女との出会い

 僕はスマホに書かれている文字をみて5秒位固まってしまった。コメントに対する反応がまったくなく、もうそろそろやめようかと思っていたため、どうするべきかわからなくなってしまった。

 無視を貫くこともできる。ただ、もともと刺激を求めて始めたSNSなので逃げるわけには行かない、と震える手でスマホの画面を押した。


 自分でもあまり納得できないコメントに反応をくれたのは誰だろう、と思っていると返信をくれた人のアカウント名と返信内容が目に入る。

「 ゆな@ブッコロー推し:それな! 」

 常日頃からSNSをしている人にとってはなんら珍しいことではないのかもしれない。

 ただ、SNSを始めて一週間の、初心者の僕にとっては初めての体験だった。

 すぐさまその返信に対して「コメントありがとう!」と返信を書き、送信ボタンを押そうとした。が、そのとき、急にふと思った。


 はたしてこの“ゆな”はほかの人のコメントと間違えて返信してしてしまって、僕のコメントに返信する気はなかったのかもしれない。

 間違って返信したのならば“ゆな”に申し訳ないし、返信すべきではないかと迷っていた。


 そんなことを思っていたとき、またスマホが通知を知らせる音を鳴らす。通知欄をみるとそのSNSのロゴマークと「一人があなたをフォローしました」という文字が。

 そしてフォロワー一覧のところには「 ゆな@ブッコロー推し 」とはっきりと表示されていた。

 

 返信をもらったときよりも長く固まってしまった。


 自分でも納得していない一文のコメントしか言っていないアカウントをフォローする人が現れるとは。

 最初こそ新たな刺激のためと投稿を繰り返していたが一周間ほどたつと現実はそう甘くないほどを嫌なほど味わい、ほとんどあきらめていたSNS。もうやめようかという時に「 ゆな@ブッコロー推し 」は僕のコメントに反応してくれた。


 多少困惑もしたが、徐々に嬉しさが勝っていった。

 初めて使ったSNSで初めて返信を貰った。

 自分も誰かにということがうれしかった。

 そして、先ほど送ろうとして一度はやめた、例の一文を返信した。


 その後も、僕と“ゆな”は返信欄でやりとりを続けた。

 どういうわけか、”ゆな”は僕の(酷い)コメントに毎回反応してくれる。僕にとってはありがたいがなぜこんなことをしているのか不思議に思った。

 だけど、“ゆな”との会話は楽しかった。自分の推し、ブッコローを他の誰かと話す機会が今までなかったからだと思う。短い文でも、共通の話題を持っている人との話はこんなに面白かったのかとも思った。


 そんなやり取りを続けて一週間がたったころ、

「次はDMで話そう!」の一文が送られてきた。

 あれ、DMってなんだ?







 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

刺激を求めた一週間後に人生が変わった話 たけ @ken-yuu-take

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る