四月十三日(二〇四号室)
あれから一週間が経ち、ようやく僕の中の恐怖心が薄らいでいた。きっとあの日隣人は電気も点けずに誰かと電話で喧嘩をしていたのだ。カーテンが無かったのは模様替えをしている最中だったからに違いない。そう自分に言い聞かせたのだ。
そしてそんな僕の考えが正しいことが今日証明された。お昼時に外に出ると、丁度二○三号室から女性が出てくるのを見かけたのだ。酷く悲壮感に溢れる表情をしていたため挨拶をしそびれてしまったが、なかなかに美人な女性だった。あれで幽霊ならそれはそれで良いかと思うほどだった。
とにかくあの恐怖体験は全て杞憂だったということだ。今夜からはぐっすりと眠れそうだ。
時間は日が変わる少し前。そろそろ寝ようかと布団に潜り込んだその刹那、「ジリリリリ」というけたたましい音が聞こえてくる。勢いよく布団を剥いで立ち上がり、音のする方に耳を傾ける。間違いない、二〇三号室から聞こえる。
音の正体が火災報知器だと気付くと僕は急いで玄関を飛び出し、二〇三号室の玄関をノックした。
「大丈夫ですか!」
反応はない。試しに玄関のドアノブを掴んで回すと、抵抗なく玄関は開いた。不法侵入で訴えられるかも等という不安など忘れて部屋の中に飛び込んだ。
「え……」
そこには何もない部屋に、花束が一束置いてあるだけだった。
いつの間にか火災報知器の音も消えていた。
混乱する頭の中で、僕は何故か今日が四月十三日の土曜日であることを思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます