四月十三日(二〇三号室)
私はこの一週間仕事にも行かず、部屋から一歩も出なかった。電気代も払わないまま、アロマキャンドルの火を眺めては今後について逡巡していた。
あれから彼からの連絡はない。あるのは部長の嫌味なメールと大量の着信履歴だけ。私を救ってくれる人なんてこの世にはいないのだ。それならばこの世に居る意味など無いではないか。実際、一週間誰とも連絡もせずに仕事にも行かなくても、誰も私の元には来ないではないか。
そうだ死のう。
私は衰弱しきった体をゆらゆらと起こし、一週間ぶりに外に出た。玄関を開けると、丁度隣人も部屋を出たようで目が合ってしまった。しかしそんな事はどうでも良い。私に相応しい死に場所を探さなくてはならないのだ。
それからどのくらいの時間彷徨っただろうか。駅のホーム、樹海、廃墟の屋上。死に場所を求めて彷徨ったが死に切れなかった。
結局、日が変わる前に部屋に戻り、私は真っ暗な部屋でキャンドルの火を体育座りで眺めていた。ふとスマートフォンを開くと、今日が四月の十三日であることを思い出す。しかも今日は十三日の金曜日だ。
そうだ。死ぬにはとっておきの日ではないか。ジェイソンになって部長や彼を呪い殺してやる。
衝動的に立ち上がり、棚の中から段ボールを切るのに使っていたカッターナイフを取り出し、左手首に突きつけ、勢いよく切り付けた。
不思議と痛みは感じなかった。勢いよく吹き出す鮮血が私の視界までをも真っ赤に染め上げる。一気に力が抜けて私はふらつき床に倒れ込んだ。その時にアロマキャンドルも倒してしまったらしい。キャンドルの火は散らばった書類を燃やし、部屋にはけたたましい火災報知器の音が鳴り響く。玄関の開く音が聞こえる。どうやら鍵を閉め忘れたようだ。薄れ行く意識の中、最後に見たのは玄関先に立っている隣人の男性の姿だった。
「お願い……助けて……」
誰でもいい。私を助けて。本気で死ぬ気なんてなかった。ただ、私は今の状況を変えたかった。
私の救いの声は果たして隣人に聞こえたのだろうか。その答えを知る前に、私は深く暗い闇の中へと意識を落としていった。
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