切り札発動

空から降って来る矢を薙刀で薙ぎ払う欄。


「っ!?」


20本近く払った時点で異常に気が付く。

異様に威力が高い。

矢を上に射って落下させるのならば威力はもっと低い筈である。

矢の射出の強さではなく重力による落下ならばもっと遅い筈なのに

かなり速く落下している。

道理に合わない、 空で別の射手が矢をキャッチして地面に向けて

矢を放っている方がまだ納得がいく。

一体何が起こっているのか?

簡単な話である。


欄の矢にはロケット推進機能が搭載されているのだ。

条件付けでロケット推進機構が作動し加速が可能である。

ならば彼女は機械頼りの女なのか?

否、 これは秘中の秘、 実践投入は今回が初めてなのだ。

アイドルデスゲームの為にとっておいたとっておき。


「っ!!」


ここに至り欄は漸く気が付いた。

何か自分が知らない仕掛けが作動しているのだと!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


次々と矢を打ち落とし続ける欄。


「無駄よ、 幾らアナタでも捌き切れない」

「舐めるなああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



リップ・ホップ・スラッシャー

作詞作曲:華激 欄


リップ・ホップ・スラッシャー!!

リップ・ホップ・スラッシャー!!

貴方の人生の嫌なこと全部ぶった切る幸福の女!!

貴方の人生の全てを捧げて!! 貴方の悪業を全て燃やす!!

貴方の苦痛全てを切り裂く!!

貴方の何もかもを全て私に寄越しなさい!!

最高の最高の人生を貴方にあげるわ!!


リップ・ホップ・スラッシャー!!

リップ・ホップ・スラッシャー!!

貴方の人生は艱難辛苦、 全て私と出会う為の伏線!!

貴方の人生が最悪なのは私と出会った事への布石!!

貴方が今日ここに居るのは最初から定められた事!!

貴方の何もかもを全て私に寄越しなさい!!

最高の最高の人生を貴方にあげるわ!!


リップ・ホップ・スラッシャー!!

リップ・ホップ・スラッシャー!!

貴方の熱量が私を燃やす!! 私を燃やして溶かす!!

溶けて純化して私は高まる!! そして貴方達の全てを切り裂く!!

究極の私が最高の人生を究極に高める!!

貴方の何もかもを全て私に寄越しなさい!!

最高の最高の人生を貴方にあげるわ!!

リップ・ホップ・スラッシャー!!

リップ・ホップ・スラッシャー!!



「相変わらず何で売れているのか分からない曲だ」


矢田が冷たく言い放つ。

確かに良い曲とは言えないだろう、 しかしこの曲は

欄のファンを熱狂させる為の曲である。

自身の精鋭ファンに向けて送る応援歌軍歌の様な物だ。

意識高揚をさせる為の歌であり、 彼女が神格化されたら

間違い無く聖歌とされる歌だろう。

自身を高めるには最適な歌だ。


「ふん」


だが尚も矢田は余裕の表情だ。


「その程度で私に勝てると?」


くっく、 と笑う。


「今からそこに行くから待ってなさい!!」


次々と矢が砕かれる。


「ふむ、 じゃあそろそろ行くか」


すっ、 と立ち上がる矢田。


「逃げるなああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「まさか」


何と言う事か!?

矢田も矢が降り注ぐ中に入って行った!! 死ぬ気か!?

否!! 矢田は自分が射った矢が全て何処に落ちるか把握している!!

即ち、 自分の射った矢を全部避ける事が可能なのだ!!


「う、 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


欄は迫りくる矢田と降り注ぐ矢全てを相手にしなければならない!!


「なんてね」

「!!?」


欄は即座に薙刀を今までよりも速く動かし矢田を切り裂き

矢田と共に矢の雨から抜け出た!!


「が・・・は・・・」


矢田の喉笛に薙刀が突き刺さっている!!

勝負あった!!


「な・・・ぜ・・・」

「簡単よ、 アンタが矢に何か仕込んでいたように

私も仕込んでいたって話よ」

「ドーピング・・・・・!!」


欄の瞳孔が開いている!!


「・・・・・」

「もう喋る事すら辛いだろうから教えようか

ここに来る少し前にドーピングの薬を使った

故にドーピングの効果が出る迄、 時間が有った

だからアンタは気が付かなかった」

「・・・・・」

「さらば強敵ともよ」


喉笛に刺さった薙刀を振って矢田の頭部を粉砕する欄。

長年戦っていた好敵手ライバルへの介錯だった。

矢田を倒した瞬間にサーチライトが点灯した。


「!! 如何やら二回戦も終了した様ね」


欄はサーチライトに向かって走った、 サーチライトの根本に船が来ている。

途中で魑魅魍魎が来ていたが彼女にとってはウィニングラン。

余裕で船に辿り着いたのだった。


「さてと・・・後は残りが来るまで待つだけね・・・」


欄は船に着いた時に涙を流した。

今まで強敵としていた矢田を倒した事に対しての

涙か・・・


「ふ・・・まぁ良いわ、 屈辱だったけども舞原はてこずる相手じゃない

このアイドルデスゲーム、 貰ったわ」


決勝の相手は誰だろうか?

恐らく舞原、 モフだとは思うが

やはり強敵はモフ、 奴の爆弾の嵐は・・・


「?」


船に誰か来た。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」


全く持って予想外の人物が乗って来たのだった。

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